chapter 36 ベンデルの魔者
スルトの指揮の下、魔者と傭兵を合わせ総勢百二十程の軍勢が人里を離れ道なき道を行進して四日が経つと、島の北東に位置する魔巣ベンデルまで辿り着いた。
そこは鬱蒼とした森の中に位置し、山を切り崩し洞窟と化した神殿の様な佇まいをしている。
「さて、彼らの出方を見るか」
「突撃したら良いじゃない?」
「ルカ、お前ら魔者であればそれでもイイだろうが、人間はそうはいかないのさ」
「暗いのと狭いのが戦いづらいってことね」
「そういうことだ。オレ達に気づいた入口のヤツらが中に行ったんだ、もうじき出て来るだろうさ。そこを狙えたらと思うんだが」
「それが人間でも魔者でも?」
「そこでだよ、入口を囲むのはお前達にやって欲しい」
「あらあら、私達は捨て駒とでも?」
「ふっ、そんなことは言ってない。お前達があちらに寝返った時のことを考えてってことさ」
「ああ、挟み打ちにはなりたくないって」
「そういうことだ。軍勢が増える分には退路もあるが、挟み打ちだけは避けたいからな」
「そういうことならやっても良いわよ。私達の行動を見て貴方が判断したら良いわ」
「助かるよ。
さあ、出てきたぞ」
「どうやら人間と魔者の混成のようね。それなら行かせてもらうわ」
美蛇鎌は馬の上から背後に控える魔者へ魔言語で叫ぶと、魔者達は吼えどんどんと前進すると入口を囲むように半円の形になった。しかし、同じ魔者の姿を見たせいか戸惑いの仕草をし、馬上の美蛇鎌に視線を送った。
「ダノイナカシゥカタタ、メタノラレワ。タシナミトキテ、ラレワヴィスムヲクヤイケ、ノモノツヴェ。ハチタウホウドノア!
(あの同胞達は別の者と契約を結び我らを敵と見做した。なれば我らも我らの為に戦うしかないのだ)」
美蛇鎌の言葉に魔者は更に吼えると、その目は狂気に満ちたように赤く光輝いた。
「では私も行こうかと。討ち漏らしたのは頼んだわよ」
「ああ。ただ全滅が目的ではないからな。逃げる者は無視し、あとは中に入る」
「分かったわ、要するに楽しんで来たら良いのね。
はっ!!」
馬を駆けた美蛇鎌をスルトは見送ると戦況を見守りつつ傭兵に指示を出す。
それからの乱戦は目を見張るものがあった。魔者が魔者を討ち、時には黒装束の人間がその場にひれ伏す。どちらが優勢なのか一目では分からない程に荒れ、果ては魔術も飛び交い敵味方お構い無しの戦場になっていた。
「酷いものだな。欲望だけに生きる者達の戦場というのは」
やがて喧騒が収まってくると、美蛇鎌がスルトの元に戻り戦況を教えてくれた。
「あらかた終わりってところよ。半分以上は削られたわ」
「そうか。こちらから見ていても良く分からなかったな」
「人間共は魔者を盾としながら戦っていたからね、容易じゃなかったわよ」
「邪教徒らしいといえばそうなのかもな。
それでも良くやってくれた。これで中に入っても安心であろう」
「ご主人様、私の出番でありますか?」
「ああ、あの中のことを調べたのはサキだからな、先頭に立ってもらう」
「では、私の後にお願い致します」
サキは馬上から降り一礼をすると入口へと向かう。それに伴ってスルトとルカ、魔者と傭兵が後に続いて行った。




