chapter 31 奪われた王女
シャーリーは苦悶の表情を浮かべ体を揺さぶるも、魔者が槍の柄で背中を突っつき動くなと言わんばかりに威嚇をしている。
「世界の王だと?」
「王という表現は間違いでしたね。正しくは、この世界の神になって頂こうかと」
「何を言ってるんだ?」
「ああ、分からなくて宜しいですよ。いずれ我々にひれ伏してから理解すると良いですから」
「この世界で何をするつもりだ」
「我々が世界の頂点に立ち、我々を崇め讃えることで世界を一つにしてあげましょう」
「何をバカなことを。誰が従うというのだ」
「貴方は信心深い神徒を見たことがないのですか?
人は皆、神に縋り神を信じ神の恩恵を受けようとするではありませんか。ならば唯一絶対神としてこの地に降り立てば、群衆は耳を傾けることでしょう」
「お前の言わんとすることは分かるが、それが何故シャーリーなんだと言っている!」
「それは貴方には関係ないでしょう。この国の王女が世界の神になる、この事実があれば道筋などとうでも良いこと。
あまり長く話してしまいましたね。それでは我々はやることがあるので失礼します」
「まっ、待て!!」
ザイアードは小声で魔言語を唱え始める、スルトは走り出しシャーリーに向かって手を伸ばす。しかし、掴みかけた腕は瞬時に消え、ルディ・ギーグの不敵な笑みを残しただけだった。
「くそ!! 何が神だ! あいつらは何故消えた!!」
「ご主人様。彼らが消えたのは魔術で移動したかと思われます。人間は『肉体転送』なる魔術移動を創り上げたと覚えがありますから」
「だからーーだから何だって言うんだ!!
オレは、オレの目の前にいる者すら救えないっていうのか!!」
壁に何度も何度も拳を打ち付け、壁と床を赤く染めてスルトは叫んだ。
「くそっ! くそっ!! くそぉーーー!!!」
「あら? 叫んだりしてどうしたのかしら?」
スルトが睨みつけるように声のした方を見ると、開かれた扉にもたれ掛かる美蛇鎌の姿があった。
「なに? お人形はしっかり首が無くなってるじゃない。それなのにどうしたっての?」
「……お前には関係がない……」
「そうかしら? 私なら貴方の望みを叶えられるかも知れないわよ」
「……どういうことだ?」
「今ここに居たのはルディ・ギーグって奴じゃなくって? そこのお人形を操ってたのはそいつよ」
「何の為に王を操るというのだ?」
「さて、そこまでは。ただ向かった先は検討がつくわ。知りたいのはそれじゃなくって?」
「知ってるのか?」
「知ってる訳じゃない、検討がつくだけ。おそらくは魔巣ベンデルへ」
「魔巣ベンデル?」
「そう、私と同じ魔の者が住まう場所。そして、そこには邪神教徒なる人間も共存しているわ」
「そこでシャーリーを神にするとでもいうのか?」
「それは直接行ってみるしかないんじゃなくて?
私だって契約に基づいた行動しかしていないんだから、それ以上のことは分からなくってよ。ただ、この国を影から操っていたのは紛れもなく彼よ」
「魔巣ベンデルだな。お前らはどうする?」
振り返りサキとオルドファンに応えを求めた。
「ご主人様についていく以外は考えておりません」
「スルト殿と誓いを交わした故、お供致します」
「あとはお前だな、美蛇鎌。契約者はルディ・ギーグなんだろ?」
「そうよ、そしてこの感じじゃ見捨てられた、契約破棄と見て良さそうね。この国に残された我らの取るべきは、このまま貴方達を殲滅し国を我らの手にするか……貴方達と手を結ぶか」
「手を結ぶだって?」
「あら? 私は貴方のことは気に入ってるのよ? それに契約破棄となれば契約者の命を取らねば魔界には帰ることが出来ない。そうなればもう答えは一つでしょ?」
美蛇鎌はスルトにウィンクをしてみせると、サキは険しい目つきで美蛇鎌を睨み返していた。
「目的は一緒ということか……ならば良いだろう、この国の為にもお前達を従えてやる」
「あらあら、もう既に王としての自覚があるのね」
「なんとでも言うがイイ。今も我が従者と魔者が戦っているのであれば止めてこい。人間にはオレが宣言しておこう」
「良いわ、全軍に伝えてきてあげるわね」
美蛇鎌は瞬時に姿を消し、スルトは何か言いたげなオルドファンを見てやった。
「よろしかったのですか? あの魔者と手を結ぶなど」
「あいつは純粋なだけだよ。裏切るようなこともしなければ、反旗を翻すこともしないだろうさ」
「そういうものでしょうか」
「ああ、そういうものさ。
オルドファンも生き残りがいるのか確認して、ここへ連れてきてくれないか?」
「畏まりました」
オルドファンも謁見の間を出ていくと、スルトは王の亡骸を炎の魔術で焼き払い、首だけをそのままに髪を掴みベランダに持っていくと手摺に起き、謁見の間を後にした。




