chapter 28 開戦
薄暗い通路には篝火が照らされ、物音が一つしない静寂に包まれていた。
スルトらは警戒しつつ幾度か角を曲がると階段を上り何事もなく五階まで辿り着いた。
「ここからは余計に用心して行くぞ」
五階にはシャーリーの私室があり、その先を上った六階に王の部屋と謁見の間がある。しかし、兵士の姿をも見なかったスルトは魔の存在を疑わずにはいられなかった。
「サキ、何か感じるか?」
シャーリーの部屋の前まで来た所で、スルトはサキの震えに気づいた。
「居ます。この部屋に、魔人が」
「シャーリーの部屋に?」
「いかが致しますか? 王の首が優先とのことですが」
オルドファンの言葉に思考を巡らせる。確かに王の首が優先ではあるが、このまま無視をして後ろからの奇襲に合うことになると魔人相手には不利であった。しかし、相手をしている暇もない。
と、その時だった。
オルドファンが急に仰け反ると頬に手を当て、その指の隙間から鮮血が滴り落ちていた。
「どうした!?」
スルトとサキは扉から離れオルドファンの前で片膝を付く。すると、扉は斜めに亀裂が入り崩れ落ちた。
「美蛇鎌!!」
「あら、察しが良いこと。首が一つ飛んでいるかと思ったのに」
「やはり貴様がいたか」
「貴方がそう望んだことではなくって? そう思って待っていてあげたのよ」
「ああ、望んでいたかもな、最悪な出会いってやつに」
「それに、人間にしては変な匂いが混ざっているかと思えば。
貴女も人間に協力してるってことかしら? 女夢魔の一族の」
「くぅぅ、私は協力じゃなく……」
「あはっっ!! 人間の下僕にでもなったっての? それは面白いわ!」
「こいつは立派なオレの仲間さ。貴様のようにただただ遣えているのとはワケが違うのさ」
「私が? 人間に? そんなバカな話、ある訳ないでしょ?」
「だったら、ここを通してもらえるかい?」
「んんん〜、別に構わないけど。それじゃあ私が退屈しちゃうのよね」
「あんたの退屈しのぎに来たワケじゃないんだがな」
「どうせ、あのお人形の首が欲しいだけでしょ?
今は、お人形のところに護衛はいないわ。だから、この場を見逃しても見逃さなくても辿り着けさえしたら何てことないわよ」
「てことは、見逃すつもりはないってことか」
スルトは立ち上がり鞘から剣を抜き出すと、美蛇鎌に向けて剣先を突き出した。
「やる気になったじゃない! さあ、いらっしゃい」
言い終わるや否や、大きく一歩踏み出すと剣を振り下ろしそのまま足を薙ぎ払いにいくも、美蛇鎌は半身で避けると壁を蹴り上げしゃがんだスルトの上を超えてサキの前に立った。
「サキ!!」
「分かっております!」
後ろ腰にぶら下げてあった鞭を勢いよく引き抜くと、美蛇鎌の腕に巻きつけるように腕を伸ばした。
「やるじゃないの。でも、これで私が動けなくと思って?」
鞭の巻き付いた腕を力強く引っ張ると、サキの体は瞬時に美蛇鎌の前に飛ばされた。
「サキ、離せ!」
スルトは後ろから斬りつけにいくも、持っていた鎌を叩きつけ天井へと飛び上がると元いた場所に戻っていった。
「人間と魔人の連携がこうも取れているとはね」
「こいつとは戦ったことがあるからな、互いの動きは読めるのさ」
「それはそれは厄介だわ。でも、こんなとこで魔術も使えないなら先はないように思うけど?」
「さて、そいつはどうかな?」
スルトは一つ気づいていた。森で戦った時には追えなかった動きが、今はしっかりと追えていることに。ただ、スルト自身も魔術が使えない場である以上、戦いづらさは否めなかった。




