chapter 1 隻眼の英雄と少女
ニューレイシア大陸。
神話の時代より争いの中心となっていた大陸は、魔人戦争が終わりを迎えると魔法によって繁栄を謳歌し、活気に満ち溢れる時代を築いていた。だが、それも長くは続かず、大陸は魔法による人間同士の戦争『魔法大戦』の時代へと流れていった。
長く続いた魔法大戦が終息を迎え、国々は復興へと動き出し、人々は元の生活を徐々に取り戻していくも、未だ各地では小競り合いが続いてた。
そんな国の一つ、グラッシア帝国のある街に青年に成長したスルトは旅の途中で寄っていた。
「これで一仕事終わりってことか」
「そうね、もうこの国から出ようと思うわ」
スルトの傍には短く整えられた紫色の髪をした女性剣士と筋肉隆々の体格の良い男性が立っている。
「そしたらオレはここで別の道にでも行こうかな」
「あら? 私達とまだ一緒にいないの?」
「そうだな、オレはこれからグレンリテル島にでも渡ってみようかと思ってな」
「なんだってそんなところに。まだオレ達と一緒にいりゃぁイイじゃねぇか」
「オレの考えてることもしたいと思ってきてな」
「連れねぇなぁ、せっかく息も合ってきたってのによ」
ガタイの良い男はスルトの肩に腕を回し、小さく溜め息をしていた。
「はははは、仕方ないだろ。オレだって暇で旅をしていたワケじゃないんだから」
「そうよね、元々は貴方達と一緒に行動する予定じゃなかったものね。
それでもこうして英雄の肩書きのある貴方と旅が出来て良かったわ」
「止めてくれ、その英雄ってのは」
「街を、村を、いくつも救ってきたんでしょ? 隻眼の英雄って言ったら人伝に噂になってるほどだからね」
「噂の一人歩きさ、そんなものは。オレは……そんなものじゃない」
「ねぇねぇ、何の話?」
視線を外したスルトの傍らに少女が二人、下から顔を覗き込んできた。
「うるせぇ、お前はこいつらと一緒にいろ。オレは一人で島へ渡る」
緑色した髪の少女を言い聞かせるように腰を少し曲げ正面から言い放つも、少女も負けじと正面から睨み返した。
「ヤダ! 一緒に行くって決めたことだもん。
で、でも、別にスルトの為に行くっていうんじゃないからね!!」
「だったら付いてくんじゃねぇよ」
「そ、それでもヤなの!
なら、どうして置いて行こうとするのよ!」
「それは、そう……その、だな。
あぁー! うっせぇなぁ。
……分かった分かった、連れてってやるよ」
泣き真似だったのか、少女は悲しい瞳から一転すると満面の笑みで応えていた。
「ちぃ、しゃあねぇな」
「モテモテのようで羨ましいわね」
「そんなんじゃねぇよ!」
「そんなんじゃないわよ!」
二人の声が重なり噛みかんばかりの威勢に、女性剣士は一歩たじろぎ苦笑いを浮かべた。
「ち、違うのね……。ま、まぁ、だとしても二人共ここでお別れってことになるわね。
私達はこれから南に向かうから、真逆の貴方達と中々会う機会もないかも知れないけど、もしまた縁が合ったら、ね」
「あぁ、そうだな。お互い死ななければいつか会うこともあるかもだからな。
これから領主の所に報告へ行くんだろ? だったらオレ達は先に行く。
またな、死ぬんじゃねぇぞ」
「オメェも簡単に死ぬなよ」
「それじゃあ、ありがとう。隻眼の英雄さん」
「あぁ、じゃあな。
お嬢ちゃんも元気で大きくなるんだぞ」
もう一人の赤毛の少女の頭を撫でながら笑顔を見せるも、少女は手を払いのけ鋭い眼差しでスルトを見返した。
「お嬢ちゃんじゃない!
アテナ! あたしはアテナって言うんだからね!!」
「お、おぅ……そう、か、アテナか。それじゃあアテナもまたな。
行くぞ、リリア」
「じゃあねぇ~アテナ~」
「また遊ぼうね~リリア~」
お互い小さくなるまで手を振り合うリリアとアテナを余所に、スルトは夕焼けを眺めていた。それは胸に秘めた決意とリリアを連れていくという葛藤からなるものだった。
何も知らず自分に付いてくるリリアの未来が心配であり、辛い想いはさせたくないスルトは年の離れた妹のように感じている。それが、これからの道で離れることがあっても幸せでいて欲しいと願っているからこそ付いて来て欲しくはなかったのだ。
これからの茨の道には……。




