chapter 27 誓い
火事の騒ぎはまだ城内には伝わっていないようで、まだ外庭を彷徨いている兵士の姿があった。騒ぎも無く倒れている兵士もいないことから、先行隊は上手く侵入出来たように思える。
「サキ、眠らせられるか?」
茂みに身を隠しながら、ピタリと張り付くサキに小声で囁いた。
「精神系の魔術なら得意です」
「門の正面に来たらやってくれ」
兵士が左右に首を振りながらゆっくりと正面に来た時だった。隣で静かに唱えられた魔言語が空間を走り抜けると、空気がざわつく感覚に襲われ、それと同時に兵士が急に片膝を付くと、支えにしていた槍もろとも倒れ込むのだった。
「眠りました、ご主人様」
「良くやった。急いで行くぞ」
茂みから素早く這い出て兵士の両脇を抱えると、引きずりながら門扉のそばまでやってきた。必死に引きずるスルトに対しサキはその光景、というよりも眠る兵士を前に指を加え眺めていた。
「喰わせてやりたいところだが……」
スルトは剣を抜くと剣先をサキの喉元に当てた。
「今は止めておけ。今、こいつの夢を喰おうというのなら、次の瞬間にはお前の首と胴が離れていると思え」
「は、はいぃ、ご主人様」
「こいつが邪教徒なのか判断がつかないから今はな。邪教徒と分かったのなら喰っていいぞ」
「お、仰せのままに。では、扉を開けます」
サキがゆっくりと扉を開くと、眠りに就いた兵士を引きずり込み、玄関広間の柱に横たわらせた。
「上手くいきましたかい?」
待っていた先行隊の一人がスルトに話しかけると、軽く頷き床に城内の地図を広げて見せた。
「我々がいるのはここだ。そして向かうは王室、もしくは謁見の間。道順は四箇所あるがオレとこいつが一番最後にここから左の通路を行く。一人はオレに付いて来い。
あとは三人一組になり別々の道から向かえ。兵士に気づかれたとて、気にするな。手段は選ばず王の首を取る、いいな」
「了解しやした!」
「私が貴方に付いて参ります」
「お前、名は?」
「私はオルドファンと申します」
「オルドファンか、ではお前に後ろを任せる」
「かしこまりました」
「では、始めるぞ!」
スルトの号令に従い、三人一組となった荒くれ者族はそれぞれの通路に出向いた。そして、姿が見えなくなったところでスルトはゆっくりと歩き始めた。
「一つよろしいですか?」
「なんだ? 何かあるのか?」
「はい、彼らを犠牲にしようとお考えなのかと」
「そう見えるか?」
「彼らには兵士に見つかっても進めと。騒ぎになり手薄になったところを向かうかのように思えましたので」
「そう見えても仕方はないな。だがな、彼らに任せるのは雑兵程度。我らが行くのは蛇の道かも知れないということだ」
「全滅を免れる為ということでしたか。申し訳ない」
「考えあってのことだ、気にするな。
たとえ我らが王の首を取れなくても、誰かが討ち取れれば約束は果たすことが出来る。可能性を広げただけだ。だから、心して付いて来い」
「分かりました。では――」
オルドファンは無造作に短剣を取り出すと手のひらを浅く切り、流れ出した血を握るとスルトの手のひらに溢れ落とした。
「これは?」
「我らが血の誓いと呼ぶ儀式です。貴方が死する時まで、我が身を持って護り通す誓いでございます」
「そうか。それならば、その心は受け止めよう。
サキ、飲むか?」
「よろしいのですか?」
「オレの手のひらにある血であれば問題ないだろ?」
「ええ、間接的にはなりますが、お二人に忠誠を誓うこととなります」
「出そうだ。いいぞ」
「では、頂きます」
サキはスルトの手のひらを啜ると、口を真っ赤にさせながら喉を鳴らした。
「あまり美味しくはないですね」
「ふふ。しかし、飲まず喰わずよりはいいだろう」
「はい、元気になりました」
「では、改めて行くとしよう」
左手の通路に入ったスルト達は、壁伝いに身を寄せ先を窺いながら進んでいく。
スルトが選んだ道はシャーリーの自室の前を通り王室へと続いている。シャーリーが出払った今ならば、私室を守る兵も近くを徘徊する兵も普段より少ないと見てだった。ただ、気掛かりであるのは魔者の存在である。彼らが何処に潜み、どうやって現れるのかに見当がつかなかったからだった。




