chapter 26 入城
夕刻前に城下町の宿に着いたスルト一行は、三階建ての最上階で森へと繋がる街道が良く見える部屋と、複数の部屋に泊まる手筈を踏んだ。
「では見張りを頼んだぞ。他の者は各々休息を取りいつでも出られる準備を頼んだ」
スルトがそう告げると見張りの二人以外は各部屋にて休むことになった。
そして、夜半が過ぎた頃。
「スルト! 動き出したぜ!」
部屋に入るなり蛮族のモーゼスがスルトを叩き起こした。
「見えたかっ!」
モーゼスに導かれ、見張り部屋の窓から丸めた布に屈曲硝子をはめ込んだ望遠鏡を覗き込むと、シャーリーらしき人影が乗った馬を先頭に魔者を兵士が取り囲むように後に続いていた。
「魔人の姿が……見えるような感じもするな。だが……」
スルトの目には美蛇鎌らしき姿が見て取れず別動隊の事も考えたが、それはあまり有り得るようには思えなかった。
「よし、全員を起こしてくれ。あそこから森へはしばらくかかる、その間に準備をするようにと」
「承知した」
スルトも自室に戻り武具を装着し、サキに見たことを伝えた。
「では、美蛇鎌と相見えるかも知れないのですね。もし、そうなりましたら、あの……」
「なんだ? 言ってみろ」
「わ、私を繋ぎ止めて下さい」
「ん? ……ああ、そういうことか。ヤツの支配力がオレよりも上かどうかということだな。
オレはお前を頼りにしている。オレを信じていろ」
「は、はい!」
「スルト! そろそろですぜ」
「分かった、宿の外に皆を集めてくれ。
行くぞ、サキ」
外で待つ間もなく全員が集まると、スルトの言葉で行動を開始した。
スルトら見張りの二人とは別に動き出した蛮族達は城門の見える影に潜み、スルトらは家々の隙間を縫い外壁を囲むように流れる水堀へ近づくと木々の隙間でしゃがみ込んだ。
「お前は火矢を打ち込み、モーゼスは外壁へ火を投げ込め。準備はしてきただろうな」
「ああ、こいつですな」
背中の布袋から酒の入った瓶を何本も取り出し封を開け布を差し込むとスルトをチラリと見てやった。
「こんなことより、あんたの術で混乱させたら良いんじゃ……」
「そんなことをしてみろ、ぞろぞろと城外に出てきて城内に入る前に乱戦になる。それよりも普通の火事と思わせ外の兵士だけを動かす。
目的は王の首一つだということを忘れるな」
「な、なるほど。あんた頭が廻るんだな」
「御託はイイ。始めるぞ」
スルトは小さく魔言語を並べると、小さな炎を松明へかざした。
「さあ、やってくれ」
見張りの一人、ブラントは酒で濡らした矢じりに火を点け城壁の上を狙い何本も射り、モーゼスも瓶から出ている布に火を点けると城壁へ向かい何本も投げつけた。
「そろそろ頃合いだな。二人には最後尾を任せるぞ、ついて来い」
木々をすり抜け城門近くになったところで立ち止まると、スルトは声を上げた。
「火事だぞ! 燃えてるぞ!」
そう叫ぶと木々の影から家々の隙間に入り込み門衛が動き出すのをじっと見届けると、それに合わせ城門へと近づいて行った。
「二人は兵士を片付けたら城内へ。オレ達は先行隊と合流する」
スルトとサキは先に城内へ入った蛮族の後を追い、脇目も振らず打ち合わせ通りに玄関広間へと向かうのだった。




