chapter 23 黒の術師
夜も更け、メアリーの去った部屋で寝支度をしようとしたシャーリーにとっては思わぬ人物が訪れた。
「何か用ですか、ルディ・ギーグ」
「これはこれは夜分に申し訳ない、姫様。
私としても提案がありましたので」
「提案? なんの事で?」
「聞きましたよ。何でも反逆者どもを一掃する為に部隊を率いるのだとか」
「ああ、そのことで。だとしたら、父上に従い先導すると返事をしたと思うが、それだと不満と?」
「いえいえ、そうではなく。ただ、兵士や傭兵を連れていくだけでは心許無いものかと」
「それ以外何かあるというのです?」
「魔者共も使役してはいかがでしょうかと」
黒い外衣を纏ったルディ・ギーグはニヤリと口元を緩めた。
「魔者を!? そのような力なぞ必要はない!
我が国のことは我らの力で解決すべきであろう!」
「やはり分かっておられませんな。魔者なぞ傭兵となんら変わりませんよ。傭兵とて金で雇われた忠義もない連中。
しかしですね、魔者は契約をすることで忠義を尽くす駒なのですよ。そう見ると魔者の方が幾分国の為に働くというもの」
意のままに反発したシャーリーだったが、自分が魔者を連れ出すことによって城が手薄になるのではと考えに至ったことで、少し迷った仕草を見せることが出来た。
「迷われているようですが、先刻も部隊を派遣したのをお耳に入れましたか?
その際には魔者も送ったのですが、それでも返り討ちにされたのですよ。それほどまでに反逆者の勢力は拡大されつつあるのです」
「だから、魔者を含めた全軍を持ってして制圧に繰り出すべきだと?」
「そうです。一刻も早い安定を取るにはそれが最善であるかと」
(何が最善か! それではただの恐怖政治ではないか!)
「すると魔者はルディ殿が用意すると?」
「ええ、元々は私の管轄ゆえ、姫様が望むのであれば」
「そうか……分かった。では、そうするとしよう。
魔者は人間の言葉が通じるのであろうな?」
「ええ、魔人も配下に加えるので魔軍の指揮は魔人を仲介させることでこなせると思います」
「分かった。では、数などは任せるとしよう。
要件はそれだけであろう?」
「本題はそれだけであります。が、一つお話をよろしいですか?」
「まだ何かあるとでも?」
シャーリーは得たい情報と状況が揃ったので他に話したくは無かったが、この男の怪しさから話は聞いておいた方が良いと感じた。
「姫様は七騎士のことは知っておられるでしょうか?」
七騎士、それは過去の英雄達であり伝説であった。
「ええ、それは国を統治する者として知っておくべき歴史ではあるから」
「では、語り継がれていることは知っているくらいと。その時に何があったかなどは知らないと言う事ですね」
「そうね。魔神王が人間界に現れ、世界を恐怖に陥れるところをその身に変え封じたと」
「強大な魔力を持つ魔人王が現れた経緯や失敗などは何も知らぬと」
「ええ、私が知っているのは英雄達の話で、魔人側に何があったかなどは知らないな」
「なるほど。私が書斎に籠もり調べていたのはそこにあるのですよ」
「魔者についてと?」
「それは間違いではありませんが、魔人側に起きたことを調べることで、その対処も出来るのではと調べていたのですよ」
「それで? 何か分かったの?」
「強大な魔力を秘めた者と契約する為にはそれなりのことをせねばならないと。それを知らぬが故に魔人戦争が起こる事となったということです」
「それなりにしなければならないこと……例えば儀式的なこと、か?」
「あながち間違いではないのですが、血の契約だけではなく、器の魔力や蘇対華のような道具など、喚び出す者を制御出来る要素が必要なのですよ。
ただ喚び出すだけで終わってしまったのが魔人戦争の始まりだったのです」
「なるほどな。だが、それを知ったところでどうと言うことでもあるまい」
「そうですね、我々は魔人王を喚び出すなど考えてもおりませんからな。魔者を駒として使役するだけで十分ではありますから。
私の話はそれだけですので、これで失礼致します」
ルディ・ギーグは一礼すると外衣を翻し部屋を出ていった。
残されたシャーリーは、最後の話が何だったのか疑問に残ったが、宮廷術師が自身の行動を肯定して欲しかっただけだと思い、それ以上考えるのを辞め寝ることにした。




