chapter 20 想い
自由領域での戦闘から二日。亡骸の弔いと家屋の修繕が終わりを迎えようとしていた頃、スルトは与えられた自室の中で険しい目付きのまま黙り込み、ただ一点を見つめていた。
「スルト、居る? 入るわよ?」
部屋を訪れたシャーリーは返事を待たずして、勝手に上がり込んだ。
「大体終わってきたわよ。サキは、居ないのね」
「……ああ。あいつはそこら辺を彷徨いている」
「サキは仲間なんでしょ、あまり彼女に当たらないようにしないと」
「ふんっ、そんなことは勝手だろ」
「聞いた話じゃ、サキはほとんどの人間を相手にして、その全てを蹴散らしたらしいじゃない。彼女がいなかったら隠れ家に残った人達も危うかったのよ」
「だが、やつはリリアを……見殺しに……」
「でもね、どうやらそれどころじゃなかったらしいわ。魔者を盾に兵士が迂回して入ってきたみたいで、綿密に練られた作戦だったみたい」
「あいつはあいつなりにやった、ということか」
「そうらしいし、何でもリリア自身が荒くれ者と共に戦うと出てくれたらしくて」
「…………。ならば、やはりこの怒りは王国にぶつけるべき……なんだな」
「ええ、私達が相手をしたのだって計画的だった」
部屋の一点を見つめながら応えていたスルトだったが、思い立ったかのようにシャーリー顔を向けると口を開いた。
「あの魔人、美蛇鎌が言っていたがお前のことをお姫様と。どういう意味だ?」
「そう、ね。話さなくちゃならないわね、こんな事態になったんだもの」
そう言うと、シャーリーは赤い半仮面を取り去る。そして顔を上げると、そこには誰しもが羨むほどの美貌を持った女性の素顔があった。
「私は……この国の王の娘、シャルロット・エヴァンス。姿を隠していたことには謝るわ」
「なるほどな。魔人のお姫様というのは言葉そのままの意味だったわけか」
「ええ。多分、王が私を見つけ連れ戻すように魔人を遣えたのでしょう」
「ここから姿を消したり、計画を先に耳にするのも王城に戻っていたわけだ」
「そう、私はここを守り魔者のいない国にするのが目的だから」
「だが、戻ることの危険も考えなかったのか?」
「それも覚悟の上だったのよ。私一人では父王を止められなかった。だから荒くれ者の力を借りてでも民を守ることを選んだの」
「……お前は、強いな」
「え?」
「大勢を守る為に自分の地位も名誉も捨て、民の先頭に立とうとする」
「私も民と同じ人間だから。貴方ほどの力はなくてもやれることがあるなら、抵抗するくらいは」
「だが、お前が今も姫であることに変わりはない。そのお前に魔者から国を解放すると言ったが、オレはそれを変えるつもりはない。
それでもいいか?」
「スルト……。ええ、父王が討たれることになっても、それくらいの覚悟は出来てるわ。
私は貴方の言葉を信じてる。貴方についていくわ、スルト」
「シャーリー……」
シャーリーが差し伸べた手を優しく握り返したスルトは立ち上がり、シャーリーを抱き寄せた。スルトの胸に顔を埋めたシャーリーはゆっくりと顔をあげると瞳を閉じ、二人の影は重なり永遠が刻み始めた。




