chapter 19 儚き命
スルトは走った。揺れる草木に目もくれず、木の根に躓こうにも足を止めることはなかった。どれだけ走っても一向に辿り着かないことへの苛立ちと焦りが、切らした息を凌駕し体を動かしている。
(まだか――リリア、無事でいてくれ!)
どれくらい全速力で走ったか、視線の先には木々の切れ間が覗きスルトに気力を呼び戻していたのだが。
「こ、これは……」
魔者と蛮族が折り重なるように倒れる光景が視界に広がり、激しい戦闘が繰り広げられたことが手に取るように分かる。
「リリアー! リリアー!!」
スルトは大声で呼びかけるものの誰の返事も貰えずに、辺りを走りリリアの姿を探すのだった。
「どこだ、どこにいる。誰か生きていないのか……。
あれは!」
魔獣に覆い被さられるようにリリアの髪の毛を見つけると、滑り込むように駆け寄り魔獣を退かしリリアを抱え上げた。
「リリア! おい、リリア!」
「……ス、スルト?」
か細い声で意識を戻したリリアだったが、抱えたスルトが手にはぬるりとした赤い液体が流れ落ちていた。リリアは口から血を吐きながらもスルトに何か伝えようと必至に口を動かすのだが、中々声が出ずにスルトの手を握り返す。
「リリア! ……どうして……」
「スル、ト……あなたに付いていけなくて、ごめん……」
「そんなこと……神秘術で治してくれよ……お前を守るはずが……」
「私は……いいの……あなたが生きていたら……」
「おい、死ぬな! まだここに居ろ!
誰か! 誰かいないのか!! リリアが……リリアが!!」
「……ごめん……ね………………」
「リリアーーーーーー!!!」
スルトの絶叫が木霊した。一切の力が抜けたリリアの体を強く抱きしめ天を仰ぐしか出来なかった。
「ご、ご主人様」
知っている声に振り返ると、傷だらけの体を引き摺り近寄るサキがいた。
「サキ!!」
リリアの体を優しく寝かせると、歯を食いしばりながらサキに詰め寄る。
「お前! お前がいながらどういうことだ!!」
胸ぐらを掴み顔を近づけながらサキに怒鳴ってみせた。
「わ、私は私で人間共の相手を――」
「言い訳など!! お前が守ったのは何だ! 自分の命か、この場所か!!」
「私はただ言われたままを……」
「仲間の命も守れずに何を!!」
スルトの怒りは収まることを知らず、サキの胸ぐらを押し離すと地面に強く叩きつけられ、そこに剣先を向けたのだった。
「スルト、スルト!」
遅れてきたシャーリーは異変を感じ、スルトに呼びかけながら近寄ると、抜き出した剣を持つ手を急いで握った。
「どうしたの!? 落ち着いて!」
「これが……これが落ち着いていられるか! リリアが、リリアが死んだんだぞ!!」
「まさか……生き残ったのは貴女だけ?」
「いえ、他の者は隠れ家へ」
「そう。スルト、残念だったわ……それでもリリアのおかげで他の者が生き残ったのも事実だから」
「だからと言って!! ……だからと言って……あいつが、あいつが死ななきゃならない理由は……ないだろ……」
「貴方もリリアを連れて行く以上覚悟してたんでしょ……でも、今は……」
シャーリーはスルトの頭を抱えると、自身の胸の中へ導いた。
「……くそっ! くそっ……」
「良いのよ、今は。沢山悲しんで良い」
シャーリーの胸に抱きしめられたスルトは力なくその場で両膝を着く。それに合わせてシャーリーも膝を着くとスルトが落ち着くまで抱きしめてやるのだった。




