chapter 17 神の加護と魔人
スルト達が魔者と遭遇した頃、自由領域にも侵入者を告げる鳴子の音が響いていた。
「みんな! 隠れ家の方へ逃げて!」
リリアは戦えない女子供達へ声をかけ、急いで逃げるよう促すとサキの方を見やった。
「あなたは戦えるんでしょ! なら私とここを守るわよ!」
「ご主人様の言い付けならば仕方ないわね。けど、貴女のことは守らなくってよ?」
「結構よ! 魔人に守られたなんて恥でしかないわ」
「それなら私は一人でやらせてもらうわ。この匂いは半数以上が人間だからね、楽しませてもらう」
「勝手になさい! 私は荒くれ者と共に戦うから」
リリアは蛮族の者達が待ち構える場所に合流を果たすが、サキは独り離れて小高い丘の上で片手を腰に巻き、もう片方で顎の下に手をやると鼻と耳に意識を回した。
「匂うわね。同属の匂いもはっきりと。これはご主人様の読みとは違うってことかしら……。だとしたら、ここを片付けてご主人様の元へ向かった方が良さそうね。
ただ、人間の半数は私一人でなんとかしたとしても……ってことかしら」
サキの耳には兵士の鎧の音と足音が無数に聞こえ、人間だけでも大軍であることを知らしめていた。
一方で蛮族は鳴子の位置を把握し、来るであろう木々の境目に陣取るとリリアにも声をかけていた。
「お嬢さんは下がりなさい。我々が食い止めてみせますよ」
「いえ、私も及ばずながら加勢致します。神の加護を施せますので、皆さんはお気になさらず」
「そうでしたか。我ら神の加護とは無縁の者、それでも受けられると言うのなら力強いことです」
「神は正義の名の下に平等に加護を与えます。この戦いは正義だと信じていますのでご安心を」
「皆のもの! 慈悲深き神はこの戦いを正義とし導いて下さる! 心して立ち向かえ!!」
一人の蛮族の大声に、それを聞いた皆が手に取った武器を掲げ威勢を放つ。その時だった。魔者の咆哮と鎧の軋む音がはっきりと聞こえたのは。
「来るぞ! ここを守り抜け!!」
木々を抜けて出たのは食人鬼の一団と数十頭の魔狼であった。
魔狼が先陣を切るかのように蛮族に飛びかかると、それに応える形で各々の武器を蛮族達は振るい出した。
「これは……! 私の神秘術で。
猛き戦の神ヴォルフよ、鋼の如き肉体は正義を示し、立ち向かわんとする者を護るべく強固と成す。我が祈りにて其の一部を貸し与えたまえ。猛き戦の神ヴォルフよ……」
リリアの祈りが響くと蛮族の体は淡い光に包まれ、魔狼が咬み付いた首筋は致命傷にはならずに軽症で済んでいた。
「神のご加護だ! 恐れることは無くなった! 今が狩り時だ!!」
蛮族が魔者への恐怖心を拭い去った頃、兵士達は横をすり抜け自由領域へと進軍を始めたのだった。
「やっぱりそう来るわよね。魔者を盾にしたこと後悔させてあげるわよ」
サキは腰に巻いていた一本鞭を取り出すと、纏っていた外衣を振り払い黒革衣姿になり鞭を一閃したのだった。




