chapter 16 目的
食人鬼の前に出たスルトは魔人を目にすると驚愕した。
「はっ! まさかな。魔人まで操っているとは!」
自分の背丈より頭四つ程も高い目の前の食人鬼を首から斬り落とすと、高らかに声を上げた。
「お前は人間に遣われているのか!? それとも協力しているのか!? どちらにせよ魔人ともあろうものが落ちぶれたものだな!」
「貴方に関係なくってよ! 食人鬼共、喰い散らかしなさい!」
「食人鬼如きでオレを止めるだと? そいつはムリがあるだろうよ!!」
スルトはニヤリと口元を歪ませると眼帯を外し、剣を眼前に構えると詠唱を始めた。
「猛き揺らめき。破壊と再生を司る赤き煌めき。荒れ狂うその力を持ってして我が一振りに渦となり宿れ。
豪焔大渦!」
一瞬、剣に炎が纏うと次の瞬間にスルトは剣を振るい一回転する。刹那、剣の炎はスルトの周りを取り囲み炎の渦と化し夜空に舞い上がる。それは食人鬼を巻き込み、悶えるような呻きと肉の焼けた臭いが辺りを支配した。
「こいつらじゃ相手にすらならねぇ。もっと熱くに楽しくいきたいもんだな」
丸焦げになった食人鬼を踏み潰しながら、魔人はスルトの前に出ると笑顔を見せた。
「中々に素晴らしい力なのね。でもね、貴方に構ってあげられるほど暇じゃないのよ」
大鎌を肩に乗せ腕に巻き付いている蛇を舐め上げた魔人、美蛇鎌は笑みを浮かべた口元に人差し指を当てていた。
「ほう? どうやらオレの予想していないことが起きてるようだな。あんたらの目的はなんだい?」
「ははっ! 言う訳ないじゃないの。だからそこを通してくれない?」
「そいつはムリだな。魔人を相手に出来るのはオレくらいなもんだからな、ここから先には行かせられないってことよ」
「あら、でも通らせてもらうわよ? せっかく見つけたんだから」
「そいつは力づくってことでイイのかい?」
「暴力は好きじゃないのよね」
お互い肩に担いだ武器を下ろすと、すぐにでも斬りかからんとばかりに手に力を込めていた。
「はあ!」
先に動いたスルトの刃を鎌で受け止めると、瞬時にその場から姿を消した。
「遅いわね、やっぱり人間は劣るわ」
スルトは耳元で囁かれた言葉に気圧されることなく振り返りざまに剣を振るったが、それはただ空を斬った。
「意外と素早いもんだな」
「あら、褒めてくれるのね、ありがと」
「そんなに力があって人間に協力するとはな」
「好きで協力してる訳じゃないからね」
「だったらナゼだい?」
「それってこの状況で必要なことかしら?」
「ま、必要じゃないがな。ただ全容を知っておきたいだけって興味さ」
「人間は何でも理由が必要でめんどくさいものね」
「そうでもないさ、理由があれば強くいられるからな」
「私達は本能だけでも強いわよ」
「それは否定しないさ」
会話をしてる中でもスルトはどう行動すべきか考えていた。この素早い魔人相手に魔法詠唱は却下され、かと言って迂闊に近づけば腕の蛇が厄介であった。
「だったら通してくれても良くなくって?」
「そいつはオレよりも実力が上だとでも?」
「貴方を蔑んでいる訳じゃないけど、私を捉えられないでしょ」
「捉える必要がないと言ったら?」
「あらあら、一体何を考えているのかしら?」
「一瞬でも動きを止められたらどうだい」
スルトがその場にしゃがむと、それを飛び越えシャーリーが剣を振り下ろす。
「お姫様自ら飛び込んで来るとわね!」
不意を突かれた美蛇鎌は片膝を付きながら大鎌で弾き返すも、続いたスルトの剣先が頬を掠め一筋の鮮血を流した。
「中々やるじゃないの」
「加勢に来たわ」
「残りは大丈夫なのか?」
「ええ、私が居なくてもやれるわ」
「なら、こいつを片付けるか」
「二人がかりな上にほぼ壊滅、これは引くしかないようね」
美蛇鎌は片目を瞑って見せると少し寂しげな表情を浮かべた。
「それと、貴方のことが気にいったから教えて上げるけど、私達とは別の部隊も動いているわよ」
「な!」
「だから、貴方達も引いた方が良いと思うわ」
「それが目的か!?」
「私の目的は二つ。貴方達をここに引き寄せること、もう一つはそこのお姫様を連れ帰ること。
一つは叶わないけど、役目は終えたと思っているわ」
「だったら早いところ引こうか、互いにな」
「先に行くわよ、スルト」
スルトは走り出すシャーリーと美蛇鎌の間に割って入ると剣先を向け、早くこの場から動くことを促した。
「はいはい、分かったわよ。じゃあね、また会いましょう」
言い終えるや否やその場から姿を消したことを確認すると、剣を鞘に収めすぐにシャーリーの後を追った。
胸でリリアの名を叫びながら。




