chapter 15 襲来
一日休息を取った夜、スルトらは予定通りの配置に付いた。川のせせらぎが静寂を包み込む中で木々の隙間に配置された弓隊からは緊張感が漂っている。それもそのはずで、数日訓練を受けただけで戦闘経験のない民が殆どの中、仲間を射らないとも限らなかったからだ。
「シャーリー、あそこから来ると何故断言出来る?」
川辺りの森に通り道など無くどこから出て来るかも分からない筈であるにも関わらず、シャーリーは自由領域から程近く流れの緩やかで平坦なこの場所に陣取ると宣言し、中央を弓隊の為に開け左右二手に分かれる配置の指示を出していた。
「魔者を送り込むのに正面からわざわざ入れないし、かと言って遠回りさせる意味も無いかと」
「それで導き出したのがこの迂回路ってわけか」
「それとも何か不満?」
「不満なわけではないさ。もしオレが魔者を扱うなら至る所に分散させると思っていたからな」
「魔者は捨て駒と?」
「攻め落とすなら本陣が必ずあるからな。ただ、牽制の為だけならその考えも悪くはないな」
「今までも今回も牽制だとでも?」
「聞いた限りじゃそうだろうな。国が一つ本気で潰そうとするなら、もっと戦略的なやり方だと感じるね」
「そう、なのね……」
「何か心当たる節があるのか?」
「……いえ、何でもないわ」
と、シャーリーが語気を強めた所で対岸に設置した鳴子が音を響かせた。
「来た!!
弓隊! 合図をしたら一斉射をする!! 構え!!」
シャーリーは大声で叫ぶと剣を高々と夜空に掲げると、川を挟んだ木々の隙間からは小邪鬼の群れが赤い瞳を光らせ、武器を片手に唸り声を上げながら迫ろうとしていた。
そこで剣先を突き出すと、威勢良く言い放った。
「撃てーーー!!」
号令と共に無数の矢が空を切り裂き魔者へと突き刺さる。だが、やはり素人の集まり。運悪く急所へ当たる以外は、息絶えることなく刺さった矢を引き抜き雄叫びを上げながら歩みを止めなかった。
「ま、こんなもんか」
「今までに無い成果よ」
「さて、オレ達もやるか」
「っ! 待って! まだ来るわ!!」
シャーリーの言葉にスルトは立ち止まると小邪鬼の後から食人鬼の群れ、そして、それを統率しているかのように群れの中心で笑みを浮かべる女性が森から現れた。
「見ーつけた。やっとお姫様の姿を拝めたわ」
女性は目を輝かせると前屈みになり舌なめずりをしてシャーリーを指差した。
「なんだ、あいつは?」
「さあ……近づけば何者か分かるかもだけど」
「だったら小邪鬼は頼めるか?」
「貴方一人で食人鬼を相手に!?」
「あのくらいワケねぇよ」
「無茶しないでね」
「心配してくれるのかい?」
「っ!! そ、そんなんじゃないわよ! ――今は一人でも戦力が惜しいだけよ!」
「そうかい。なら、シャーリーも気をつけろよ」
「言われなくたって!」
スルトはシャーリーの言葉を背に受け小邪鬼の群れに突っ込むと、それには目もくれず食人鬼の前に立ちはだかった。




