chapter 9 王の野望
スルト達が後にした王城で黒い外衣を纏った宮廷術士の口から玉座に座る城主の耳へ囁かれていた。
「得体の知れない若者が城門にて追い返されたとの報告が入っておりますが」
「ほう? それがどうした?」
くぐもった声で話す老齢の主は、伸ばされた髭を触りながら大して気にした様子もなく返事をしている。
「王に会わせろの一点張りだったとか」
「わしにか? ふんっ、民が雇った旅人だろうて」
「いえ、それがどうやら魔者と一緒だったようで」
「どういうことだ? 魔の者が人間とな。契約者とでもいうのか?」
「どうでしょう。強い魔力は感じるも剣士の様な出で立ちであったと」
「うぅむ。いづれにせよ、ここに魔の者が存在するという確信があったかも知れぬ、ということか」
「そうであるかと。いかがいたしましょうか」
「そのような者の為に娘がいるのであろう。シャルロットはどこにおる」
「シャルロット嬢は城を出ておりますが」
「はんっ! 道楽娘めが。帰ってきたら城に居るように伝えろ。その後で兵にその者を捜させる」
「御意」
主は深い溜め息を吐き、術士を見ることなく呟いた。
「後少しのところだというのにな。もうすぐであろう?」
「左様で。契約に至るほどの魔力を持つ器さえ見つかればどうとでも」
「そうであろう。魔都ルドル以外にも派遣しておるのだろう?」
「現在は魔巣ベンデルへも派遣しているところです」
「そうかそうか。あそこならば神殿もあろうて。そこの司祭と折り合いがつけばというところだな」
「ですが、器と成り得る者がいるかどうかというところで」
「器と成らんでも魔界と繋ぐことが出来るのであれば良いことであろう?」
「ダークエルフなどの高魔力を持つ者を従えることが出来れば問題はないかと思っておりますが」
「ここまで来たのだ、何としても遂行せねばな」
「その暁には……」
「分かっておる。その前にこの島の統治、ひいては大陸の邪教徒との結託。これが成って我が計画は止まることはなくなる」
「では、近衛の者にシャルロット嬢への言伝てを伝えて参りましょう」
術士は玉座の間を後にすると近衛兵に話を済ませ、自室へと足を向けた。
所狭しと並べられた書物で囲まれた部屋の奥に居座ると一度目を閉じ、次に開いた時には不敵な笑みを浮かべ始めた。
「ふふふふ、ふははははは! もうすぐだ、もうすぐで我が手に。この為にここまで来たのだ。後は邪魔者を消すのみ……。
しかし、魔者連れの冒険者などと。一体何を考えこの地に……。上手く取り込むべきか、はたまた敵対するか。どちらにせよ我が覇道を阻むのであれば消すまで」
机に開かれた書物を捲っていくと、魔方陣の描かれた頁でその手を止めた。
「我が僕バルタよ。魔者連れの男がどちらに行ったか調べて参れ」
魔方陣をなぞりながら唱えた言葉に返事は無くとも、頁はうっすらと紫色に輝き弾けて消えると、術士は満足げな表情を浮かべ本を閉じた。




