chapter 8 魔の王国
島の北西の外れにあるバーニシア王国。
国境を何度も越えて辿り着いたこの国は異様な雰囲気を醸し出していた。
城下街の住人は暗く、覇気が感じられないこともさることながら、周りの木々に関してもほとんどが枯れ木であった。
「これが国の真ん中なの……」
「どう見ても普通じゃぁねぇな。リリアの聞いた噂は噂じゃねぇってことだな」
「でも、人はちゃんといる」
「こいつは予想だが、こんな噂が立つような国から逃げて来たって言われても、受け入れてくれる国なんてないんだろ?
ここで生活していく以外に道がないってことさ」
「魔者がいるかも知れないってのに?」
「住民は襲われないってことじゃねぇのか?
なぁ、サキ。何か匂うか?」
「噂々と言ってますが、魔者はいますよ。魔の匂いが漂っています」
「だそうだ」
「それって私たちも危ないじゃないのよ!」
「そうか? 逆に安全かもしれないがな。サキがいるんだ、簡単には襲ってこないだろうさ」
「魔の中でも上位にいる私に歯向かうなど、ふふ」
「こいつは頼もしいな」
「あぁん、ご主人様のご期待には添えさせて頂きます」
「おぇっ」
「てなことで、王城に殴り込みでも行くか」
「ま、待ってよスルト」
スルト達は街の様子に目もくれず、そびえ立つ王城へ足を向けた。
「なんだ、お前達は」
「この国のことを知りに来た。王に会わせろ」
「ならんな。どんな者であろうと、今陛下に会わせることは出来ぬ」
「お前らを切り刻んでもか?」
スルトは腰の剣に手をかけるが、兵士は首を何度も横に振って制止した。
「止めて下さい! 私達の次にはあなた方が刻まれております!
剣は抜かずにどうか」
と、兵士は指を上に向けると、翼を持つ不気味な獣の石像を見るように促した。
「ご主人様。石翼獣ですね、あれは」
「そいつは?」
「普段は石像ですが、侵入者に対しては生身に戻り襲ってくる魔獣です」
「お前の支配下には出来ないのか?」
「造り上げた主人の命令にしか従いませんね」
「空飛ぶ魔獣な。厄介極まりないってことか」
「ですので、是非お引き取りを!」
兵士が見せる必死の懇願を、スルトは顎に手をやりひとしきり考えを巡らせた。
「無理にでも王に会うことは出来るがってやつか。
オレらで一国と戦争する気じゃなければ難しいかも知れないな」
ぼそぼそとスルトは呟くと、くるりと王城に背を向け歩き出した。
「良かったぁ。スルト、無茶する気だったでしょ?」
「実際はな。だが、魔者がうじゃうじゃいる中で、どれだけサキの支配下に置けるか分からない今、すぐに動くべきじゃないと判断したまでさ」
「それならどうする?」
「この国は孤立してるが、周りに蛮族らもいるんだったよな?」
「ええ、そう聞いたわよ」
「だったらこの国にいる蛮族を見つける」
「それで何かするの?」
「味方につけるだけさ」
「良く分からないわね」
「分からなくてもイイさ」
スルトは宿に入ると店主に地図を見せてもらい、蛮族についてのことを聞き出した。
「どこにいるか知らなねぇか?」
「ここの森にいるって話は聞いたことがある。何度か兵士を派遣してるみたいだしな。
サーバンスの森って森林地帯さ」
「北東の森、サーバンス森か。ありがとう、助かるよ」
城下街を出るとサーバンスの森へ向かうべく、街道を北東へ進む。
半日は歩いただろう、日もすっかりと落ちた頃に広大な森が姿を現した。
「これから入る気なの!?」
「悪いか?」
「今行ったところで真っ暗よ」
「中に人がいるんだったら、そこまでの辛抱だろ? それとも野宿でもするか?」
「うっ――そ、それは……」
「だったら行くしかねぇよな。
リリア、松明を持ってくれ」
「仕方ないわね。私がいなきゃ松明も持てないんだから」
「何か言ったか?」
「いいえ、何も」
リリアが松明に火を灯すとスルトは無尽蔵に森へと向かって歩み出す。それを追ってリリアは隣に付き、サキは後ろからスルトを眺めていたのだった。




