拝啓、大嫌いな君へ
雲一つ無い暑い夏の日、大嫌いなあいつから手紙が届いた。
このクソ忙しい時に手紙なんて送ってくるあたり本当に嫌だ。
そんなことを思いながら手紙を開いた。
『拝啓、大嫌いな君へ
元気してる?
とりあえず、元気じゃなかったら元気出してね!』
こいつは文面でもうるさいのか…。
俺は溜息をついた。
『君の事だから絶対溜息をついてるでしょ!私には全てお見通しだ!』
なんで分かるんだよ。どっかで聞いてんのか。
『まぁ、茶番は置いといて!
昔話をしよう!!』
茶番言うなよ。しかも昔話って急だな…。
『君に初めてあったのは5歳の頃だったね〜
君もあの頃は可愛かったのにな〜
今じゃ全然かわいくなくなっちゃってさ〜なんであのままじゃないの?』
無茶苦茶言うなよ。普通に俺も生きてるんだから成長くらいするわ。
『まぁいいや!
そこから腐れ縁で幼稚園から小中高大まで一緒なんて、君って私のこと大好きだよね!』
うるさいな。別に一緒なのはたまたまだよ。
『そんな長い間一緒にいたけど、君はいつも私以外にはとっても優しかったよね!
私にだけはいつも突っかかってきて最初はムカついてて大嫌いだったな~!
でもね、君は私が本当に困ったときにはすぐさま助けに来てくれた。
私はそれが嬉しくて嬉しくてしょうがなかったんだ!
この頃にはきっと君のことが大嫌いから大好きに変わってたんだろうね!』
そんなこと知らなかった。なんで言わないんだよ。
だから、君が告白してきてくれたとき嬉しさで号泣しちゃったw
そのときの君の慌て具合っていったら思い出しただけで笑っちゃうw』
うるさいな。なんでそんなこと覚えてるんだよ。
『そこからの日々は幸せすぎてすごく早かったな~
たくさんデートして、手をつないだり、キスしたり、すごく幸せだった!
交際5年目のクリスマスにイルミネーションの前でプロポーズしてくれたときには幸せすぎてまた号泣して、君はまた慌ててさ!
あのときと一緒だねなんて笑い合って!あのときのことを今でも夢にみたりするんだ~!』
ああ。それは俺も覚えてるよ。
俺だって幸せだったよ。
『だからね、私が末期のガンって知ったときは絶望の底に叩き落とされた気持ちだった。
医者にもここまで進行していたら手の施しようがないって言われて、「なんで私が」ってすごく思った。
そんな中、君は「諦めるな。お前は絶対に治る」って言ってくれた。
私はそのときに絶望の底からあなたが引き上げてくれたように感じたの。
だから、私も諦めない決心をしたんだ。
抗がん剤の副作用が辛くても、髪が抜けてしまっても諦めずにここまで生きることができた。
でもね、私知ってたんだ。私の体は悪くなる一方だってことも、もう長くもないんだってことも。
それでも君は私の前ではずっと笑顔でいてくて、絶対治るって言い続けてくれて嬉しかった。
でもね、すごく苦しくもあったの。
「こんなに私を愛してくれている人を残して死にたくない」「この人ともっと生きていきたい」そう願わない日はなかった。
でも、神様は残酷ね。その願いは決して叶わない。
君にはサヨナラは言いたくない。
だから、私はここにいままで君に伝えられなかったことを綴ります。
あなたのその大きな手で私の手が包まれるのが大好きでした。
あなたが寝る前にいつも優しくキスをしてくれるのが大好きでした。
あなたが眉を垂らしながら笑うその顔が大好きでした。
あなたの全てが“大好き”でした。
あなたのことをこの世で一番愛していました。
この先ずっとたとえ死んだとしてもあなたのことを愛し続けます。
誰よりもあなたを愛している私より。』
「なんでだよ…!生きてるときに言わないんだよ…!
俺も…!!俺も愛してるよ…!!ずっとずっと愛し続けるよ!!」
俺は手紙を抱きしめて声にならない声を上げて泣いた。
すると、背後から蝉の声に紛れてあいつの声で「ありがとう」と聞こえた。
振り返るとあいつがそこに立って笑っていたように見えた。
しかし、瞬きをした瞬間それは消えてしまった。
「見間違い…だったのか…。」
でも、俺には確かにあいつの声で「ありがとう」と聞こえてきた
それはすぐさま立ち上がり、封筒と便せんを取り出し手紙を書いた。
その手紙の宛先は。
「拝啓、大嫌いで大好きな君へ」
最後まで読んでくださりありがとうございました!!
こんな感じの小説を書くのは久しぶりだったのですが楽しかったです!!