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お題小説

弱音

作者: 水泡歌

 2時間目と3時間目の休み時間。

 俺は何もすることがなく、ボーっとしていた。

 俺の周りの奴らは友達と話をしたり、参考書を読んだり、寝たりといろいろなことをしている。

 まぁ、俺も受験生。

 別にすることがないなら勉強するか……何てこともする気がおきず。

 友達のところに行くか……そんな気分でもなく。

 寝るか……今はねむたくない。

 ……次の授業が終わるまでボーっとするしかないようだ。

 そんなことを思っていると、ふと黒板に目がいった。

 黒板の左隅に何か文字が書いてある。

 誰かのらくがきだろう。

 暇なときにはこういうらくがきを読みたくなる。

 俺は小さく書かれたその文字に目をこらす。

 そこに書いてあった文字は……

「泣きそう」

 その一言だった。

 俺は何だか衝撃を受けた。

 誰が書いたかもわからない、本気で書いたのか、冗談で書いたのかもわからない。

 けれどその一言のらくがきに俺の心は何かを感じた。

 らくがきをジッと見ているとチャイムが鳴った。

 みんなが席に座りだし、先生が教室に入ってきた。

「起立」と言う声とともに俺は立ちあがった。

 けれど、そのらくがきが俺はまだ気になって、チラチラと見ていた。

 すると先生が俺の視線に気付いたのか、ふとらくがきに目をやった。

 そして、

「誰だこんな所にらくがきしたのは」

 と、そのらくがきを黒板消しで消した。

 俺は「あ」と声を出しそうになった。

 けれど、俺の横の奴の声でとどまった。

 俺の横に座っている女子が「あ」と小さく声を出したのだ。

 それはさっきの休み時間に参考書を読んでいた奴だった。

 その女子は小さく声を出したあと、下唇を噛んで、何でもなかったように顔をあげた。

 俺はなんだかせつなかった。

 あのらくがきはこいつの本気の弱音だったのだと思った。

 俺は席に座るとチラッと横の女子を見る。

 彼女はさっきまでらくがきがあったところを見つめていた。

 俺は思う。

 彼女の弱音は消されてしまったけれど、俺はちゃんとそれを見ていた。

 いろいろと疲れる受験戦争の中での「泣きそう」という彼女の弱音を俺はちゃんと受け取った。

 たとえそれがもう見えなくなってしまっても、誰かが受け取ってくれただけでそれは価値があるんじゃないかって。

 何だかえらそうだけど、そう思った。


 だって俺はきっとその小さならくがきを忘れないだろうから。


高校生の頃、実際に体験した出来事を基に書いた小説です。

休み時間にぼーっとしていたら目に入ったらくがき。

黒板の片隅に書かれた「泣きそう」の言葉。

気付くといつの間にか消されていて、誰が書いたのかも分かりません。

でも、やけに印象に残ったらくがきでした。

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