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第9話:とりあえず、嫌な予感が的中する前の不安感は何か違う。

評価下さり、ありがとうございます。

 みんなとはギルドで別れた。

 このまま宿に戻ろうと思ったが、なぜか街の外が見たくなった。


 ギルドを出て、メイン通りをそのまま南に進むと、南門に到着する。南門には街の衛兵が駐在しているが、例の騒ぎもあって、いつもよりも多い人数が任務に当たっているようだった。


「おう、ヒコサブロウか。どうした?まさか今から外に出るのか?」

「お疲れ様です。ソアンさん。」

 彼は衛兵のソアンさん。この1か月で顔見知りになった人だ。依頼で街の外に出ることが多いため、挨拶を交わすようになり、今では世間話をするようになった。


「宿に戻ろうかと思ったんですが、何となく街の外を見たい気分になりまして。別に本当に出るわけじゃなくて、門の入口から見る程度ですが。」

「そうか。そういえば、例の依頼は中止になるそうだな。」

「はい。さっきギルドで聞きました。まあ、何事もなくて良かったです。明日からは通常営業に戻るようです。」

「そうか…。だったらこっちも『通常営業』になるな。」

 ソアンさんは笑いながら言う。その屈託のない笑顔には安心が伺える。


「そういえば、ニーデ村とタルス村は、この方角でしたっけ?」

「おう、そうだ。この街道を進むといくつか分かれ道があってな。そのひとつがニーデ村とタルス村につながっている。何だ、村を知ってるのか?」

「はい。『ハニービー』の生息地だと伺いました。」

「ああ、あそこのハニービーの蜜は、村の特産だからな。」

 そんな特に話題もない話をしていたところ、ソアンさんの隣にいた衛兵が、「ニーデ村といえば…」と言って話に入ってきた。


「ニーデ村と聞いて思い出しましたが、ここ最近、村からの往来がありませんね。」

「そうなのか?珍しいな。まあ2日間程度の距離だから、時折そんなこともあると思うが…。」

「そういえば、『はちみつ屋』の人に聞いたんですが…。」

 私は、ソアンさんにパン屋の一件を話した。彼は「そうか…。まあ大した話でもないと思うが…。」と言って、首を傾げていた。


 そのやり取りを聞いていた衛兵が、「ニーデ村だけではなく、タルス村からの往来もないんですよね…。」と不安気に言っていたのが気になった。


 ソアンさんたちに挨拶をして、宿に向かって歩き始めた。しかしその足取りは軽くはなかった。ギルドから出た時は、何となく気分が良かったのだが、衛兵とのやり取りを聞いた後、急に何とも言えない不安に襲われていた。不安というか、何かを忘れているような感じだ。


 頭の中がモヤモヤしている。思い当たる節があるはずなのに、「そんなわけないよな」と、自分をむりやり納得させようとしている。


 ギルドの前に来た時、歩みが止まってしまった。いや、自分で止めた。やはり考えだけでも伝えておくべきだと思ったのだ。決して、街のためとか、そういう理由じゃない。単に自身を安心させるために、納得させるために、自分の考えを誰かに話したいと思っただけだ。


 立ち止まっていると、入口からゴンザさんが出てきた。


「どうした?帰ったんじゃなかったのか?」

「はい…。ええと…。」

 自分の声がちゃんと出ない。まだ考えがまとまってない。


「なんだ、歯切れが悪いな。ギルドに用事か?」

「はい…。ゴンザさん、ちょっと時間ありますか?」


―――――


 いま私とゴンザさんは、ギルドの応対室にいる。当然二人しかいない。

 「それで、話ってなんだ?緊急か?」

 ゴンザさんのその言葉に対して、自分の意見をゆっくりと話し始めた。ちょっと緊張して、声が上ずってしまったかもしれない。

 パン屋の話から、ハニービー、ニーデ村とタルス村、そして衛兵との話を順序良く説明した。そして最後に結論を言った。


「グリーンキャタピラーは、おそらく南東部にいる可能性が高いです。ユンゲ草の群生地を中心に調査を行ってきましたが、そこには何もありませんでした。『成虫の儀式』は思い過ごしかと考えましたが、いまは違う考えです。確証はありませんが、おそらく…ニーデ村とタルス村は何かしらの被害を受けているのだと思います。」


 ゴンザさんは、私の話を聞いて、深いため息をついた。


「そうか…。話の筋は通っているな。そもそもふたつの村は、特産のこともあって、交易には注力しているんだ。それなのに…。なるほど、可能性はゼロではないか…。」

「はい。これこそ私の思い過ごしであればいいのですが…。不確定要素もありますし…。」

「ちなみにその不確定要素とは?」

「はい。もし本当に二つの村に、モンスターの大量発生が発生していた場合、なぜそれが発見されないのか。そもそもバシュラトは交易の街。周辺には多くの街道があり、これらの村にも街道が伸びていると思います。バシュラトで気付かなくても、村々の周辺で気付くのでは?」

「ああ確かにな。ただ、あの村はちょっと特別というか、村自体が街道の端に位置していてな。村の奥はハニービーが生息する森があるだけなんだ。しかも、この街道だけ、他の街道とは少し逸れていてな。発見が遅れる可能性はあるかもしれん。」

「…そうですか。だったら尚更調査した方がいいと思いますが…。」

「そうだな。こちらの考え過ぎだったとしても、その確証は欲しいからな。調査だけでもしてみる価値はあるか。早速、ギルマスに話してくる。お前も一緒に来てくれ。」


 ゴンザさんにギルマス室に連れて行かれ、さっきの同じように話した。ファルスさんからは、「ヒコサブロウ君、貴重な意見をありがとう。」とお礼を言われた。


「ゴンザ、緊急依頼の中止処置はとりあえず白紙にする。依頼続行として、冒険者を招集してくれ。特に調査班の編成を至急で頼む。」

「はい!」

「ヒコサブロウ君にも調査班に入ってもらう。準備をするように。」


―――――


 冒険者の再招集命令から少し経ち、冒険者たちはギルドに集まり始めた。

 ニラードさんは、「慌ただしいな」と苦笑いをしていた。


「冒険者の諸君、度々の招集に応じてくれて感謝する。一旦中止した緊急依頼だが、新たな可能性が出てきたので、依頼を続行することになった。報酬はもちろん新たに払うから安心してくれ。ゴンザ、説明を。」


「はい。お前たちには、前回と同様に4班に分かれてもらう。討伐班はここで待機。守備班は昼夜分かれて、城壁周辺で見回り。そして調査班は1班として、明朝出発する!支援班はその準備にあたってくれ!」


 ファルスさんとゴンザさんの説明に、冒険者は多少ざわついたが、問題なくそれぞれの行動を開始した。


「いたいた、ヒコサブロウー!」

「ああ、ミナ。おつかれ。」

 ミナ、セレンと挨拶を交わす。


「明日から調査なんだって?気を付けてね…。」

「大丈夫。他の冒険者と一緒だし…。心配してくれて、ありがとう。そっちも気を付けてね。」

「うん…。」

 ふたりとも、心配そうな視線を向ける。いろいろ不安なんだろう。


「この騒動が収まったら、あのパン屋に行こうね。」

「そうだね…。絶対に行こうね!」

 気休め程度の言葉だったが、ふたりとも少し元気が出たみたいで良かった。アイラたちのことを聞いたら、ジャンとビルは夜番のため、もう城壁に向かっているらしい。一方でアイラ、ハーレ、そして目の前の二人は昼番とのことだ。


 ふたりと別れて、宿に戻り、早めに就寝した。

 翌朝、若干の緊張を覚えつつ、バシュラトの南門前に向かった。冒険者たちはすでに大半が集まっていた。そして、門のそばには、ミナ、セレン、アイラ、そしてハーレの4人もいた。


「おはよう。見送りに来てくれたの?」

「まあね。ここが私たちの任務場所なのよ。」

「またまた~。アイラ、素直じゃないわね。見送りしたいからって言って、ここにしてもらったくせに。」

「ちょっと!…変なこと言わないで。」

 アイラとハーレのやり取りを聞いて、少し緊張が解けた気がした。


「わざわざありがとう。そっちもしっかりね。」

「もちろんよ。ミナから聞いたけど、この騒動が収まったら、あのパン奢ってくれるんでしょ?」

「えっ、そんな話になってんの?奢るなんて言ったっけ?」

 そう言って、ミナを見ると、口笛を吹く仕草であさっての方を向いていた。ちなみに口笛は鳴っていない。


「まあ、いいや。ははは。」

 4人とそんな話をしていると集合の合図があった。これから出発する。


 割り当てられた馬車に乗り込み、中から外を見ると、彼女たちが手を振ってくれていた。何か恥ずかしいような、嬉しいような。とりあえずこっちも手を振った。

 中にいた女性冒険者からは、微笑ましい視線を送られ、男性冒険者からは…、まあこの話はいいや。


 緊張感がない中ではあったが、こうして私たち調査班はバシュラトを後にした。


●1日目

 ゴブリンやホーンラビットに遭遇したが、問題なく討伐した。そのまま街道沿いで野営を行った。3交代で見張りを付けたが、特に問題はなかった。


●2日目

 例の村々の内、ニーデ村に近い場所まで来た。そこで小休止となった。この地点を拠点として、本格的な調査を始めるようだ。今回の調査は単純で、まずはニーデ村の状況確認だ。特に問題なければ、その後タルス村の状況確認を行うという流れだ。


 ニーデ村の調査には、先の調査班で先発組だったメンバーで行うことになった。リーダーはもちろんニラードさんだ。


―――――


 ニーデ村。

 ハニービーの蜜を特産品としている。またここで取れる小麦は品質も良く、蜜ほどではないが、重要な交易品となっている。村の人口は約300名程度で、行政上はバシュラトに属している。住民のほとんどは農民だが、特産品・交易品の製造で生計を立てている者もいる。


 特に問題もない、豊かで平和な村……だったのだ。


 いま冒険者たちの目の前には、無残な光景が広がっていた。そこに確かにあったはずの村は変わり果てていた。

 村人や小麦畑、蜜の採取所の代わりに存在しているのは、緑色の大きな物体。その数は100匹を優に超えるだろうか。


 そう、平和だった村は、凶悪なモンスターの巣窟へとその姿を変えてしまっていた…。

読んで下さり、ありがとうございます。

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