第8話:とりあえず、急な休みでも、それなりに充実したりする。
ブクマが増えていました。
ありがとうございます!
私たち調査班は、バシュラト近くの森に移動した。ユンゲ草の群生地近く、昼間にミナたちを助けた場所だ。あたりはすっかり暗くなっていて、メンバーの顔もよく見えない。月明りはあるので、これでもまだマシといった具合か。
「グリーンキャタピラー10匹を討伐したのは、この場所か…。それにしても、死骸が見当たらないが…。他の獣たちに処分されたか?」
「いえ、あのまま放置するのもと思いまして、その場で埋めました。そもそも焼き殺したので、アンデッド化はしないと思いますが、一応念のためです。」
「ああ、なるほど。」
ニラードさんは納得したように頷く。
「さて、今までの目撃例は2,3匹程度というのが多かったようだが…。とりあえず、この付近を中心に調査を始めるか。」
「ニラードさん。調査と言っても、どのようにやりますか?」
「まあ、相手の状況もわからないし、お互いがそんなに離れても危ないからな…。そもそも夜間というだけで危険度が増すしな。集合場所と距離、時間を決めて、パーティーで行動するとしよう。」
ニラードさんはメンバーを集めて、近くの池に移動した。
「さて、調査だが、まずはこの池を中心に行う。この池を中心に、半径2キロメトレに散らばり、周辺を探索。1時間後を目安に戻ってくる。あとはポイントを変えて、同じように探索を続ける。夜明けが近くなったら、バシュラトに戻ろう。何か質問はあるか?」
メンバーは黙ったままだ。私も含めて疑問点はない。ちなみに1キロメトレは、日本で言う1kmとほぼ同じだ。言葉も何となく似ているから覚えやすかった。
「じゃあ、これを渡しておく。これは警告弾だ。使い方はわかるか。」
「はい。」「大丈夫です。」
メンバーは諸々の反応を示すが、これも問題ないようだ。
警告弾は光魔法を応用した魔道具のひとつで、魔力を込めると、光の玉が花火のように打ちあがる仕組みだ。特に夜間では目立つ。その分、モンスターにも居場所がわかってしまうが、連絡方法としては有効だ。
「じゃあ、早速始めよう。」
ニラードさんの合図で、各パーティーは、それぞれ別方向に移動を始めた。さて、私も動き出そう。
「ヒコサブロウは一人で大丈夫か。俺たちと一緒に来るか?」
「いえ、大丈夫です。今までもソロでやってましたから。」
「そうか、まあ気を付けていけよ。」
私とニラードさんたちは、それぞれの方向へ歩き出した。
それからポイントを変え、休憩を挟みながら、周囲の調査を行ったが、グリーンキャタピラーの発見には至らなかった。ゴブリン等の低級モンスターには、何度か遭遇したが、その度に討伐した。
空が少しずつ白みを帯びてきた頃、5回目の調査が空振りに終わり、ニラードさんは引き揚げを決めた。
私たちがバシュラトの出入口の戻ると、眠そうなジャンとビルに会った。彼らも夜通しで守備に就いていたようだ。
「おはよう。そちらは異常なし?」
「ああ、特にない。そもそもグリーンキャタピラー以外は、いつも通りだからな。そっちはどうだった?」
「こちらも何もない…。周辺を調査してみたが、グリーンキャタピラーには遭遇しなかった。代わりにほら。」
そう言って、腰袋からゴブリンの耳を出す。ゴブリンの討伐証明部位である耳を見せる。
「そうか、ゴブリンに出くわしただけか。このまま何事もなく、終わればいいのにな…。」
ジャンの期待とも不安とも取れる言葉に、思わず苦笑してしまう。
「そうだね…。とりあえず休むよ。そっちもおつかれ。ビルもまたね。」
「ああ、おつかれ。」
ジャンの疲れた声を聞いて、街に入った。ビルは、私とビルの話を聞いて頷くだけだったが、その顔には疲れが滲み出ていた。他の先発組メンバーは、守備班と話をしているようだ。
それから2日目、3日目と調査を続けたが、結果としてグリーンキャタピラーの大量発生を裏付けるものは発見されなかった。5匹が発見され討伐されただけだった。
4日目の夜、ギルドから「依頼中断」の指示があった。簡単に言えば「休み」だ。5日目は全員休みという指示があった。4日目夜に調査班が出発する前に、この指示が伝えられたため、私たち調査班はその場で解散となった。
明日が休みとなり、また4日分の報酬も支払われたこともあって、冒険者たちは、夜の街に消えていった。私はというと、ここのところ夜勤みたいな生活が続いていたので、身体にだるさが残っていた。それもあって、今日は簡単に食事を済ませ、体調を整えようと思っていた…。
「ねえ、ヒコサブロウ。明日はヒマ?」
後ろから声を掛けられたので、振り向いてみると、そこにはミナとセレン、そしてアイラたち4人もいた。
「まあ…。急に休みになったから、予定はないけど。」
「そう。実はね、さっき、みんなで話したんだけど、明日はみんなで親睦を深めるために、ランチを一緒にすることになって。もしよかったら、ヒコサブロウもどうかなって…。」
「そうなんだ。みんながよければ、こっちはいいよ。」
「じゃあ、明日12時にギルド前集合ね!」
「わかった。じゃあ明日ね。」
ミナのテンションが高めなのが気になったが、向こうも休みになって嬉しいのだろう。そんなことを思いながら、冒険者たちの騒ぐ声が聞こえる通りを歩き出した。
次の日、天気はあいにくの曇天だった。ただ、雨は降らないだろう。
ギルドに着くと、ジャンとビルがすでに待っていた。
「こんにちは。ふたりとも早いね。」
「ああ、女性陣は何かと時間がかかるからな。置いてきた。」
ジャンが苦笑しながら言う。女性が準備に時間をかけるのは、こっちも日本とあまり変わらないな、と感じてしまい少し笑ってしまう。
「どうした?何かおかしかったか?」
「いやいや、何でもない。」
「ごめん、待った?」
その声はミナのものだった。声が聞こえた方を見ると、そこには白と薄い青色を基調にしたAラインワンピースを着た姉妹が立っていた。ふたりの服と髪の色が似合っていて、可愛らしく見える。久しぶりに孫に会うような、微笑ましい気分になった。
「…ねえ。そんなに、マジマジと見られると恥ずかしいんだけど…。」
ミナが少し照れたように言う。セレンも顔を伏せている。
「お姉ちゃんとお揃いで買ったんだけど、着る機会がなくて…。変じゃないですか?」
「いいや。ふたりとも似合っているし、かわいいよ。」
「!!」
「かわいいって…、そんなストレートに…。」
ミナもセレンのように顔を伏せてしまった。何か変なこと言ったかな…?
その後、アイラとハーレも合流しレストランに向かった。
彼女たちは、ボーイッシュな感じの服装をしていた。それはそれで可愛いと思う。アイラに「どう?」と聞かれたので、ミナと同じように「かわいいよ。」と返したら、「そんな躊躇なく…。」と言って顔を赤くしていた。その色は、アイラのきれいな赤い髪と同じだった。ハーレに「アイラはどうかしたのかな?熱でもあるの?」と聞いたら、「ははは…。」と返ってきただけだった。おかしいな…。こう褒めると、孫には「おじいちゃん、ありがとう!」って喜ばれたんだけどな…。
さて、レストランで食事をした後、近くのカフェに場所を移動した。そのカフェは、バシュラトでも有名なお店らしく、とても混雑していた。
グリーンキャタピラーのことで、何かしら街に影響が出ているのかと思ったが、それは感じなかった。どこも普段通りの時間が流れている。ジャンが言っていたように、今回の件が、単なる私の思い過ごしであればいいなと思った。
カフェを出て、通りを歩いていると、パン屋を見かけた。初めて見るお店だ。
「今日もお休みなんだ…。残念だな…。」
「セレンは、あそこのパンが好きだもんね。」
「へえ、あそこって『はちみつ屋』でしょ?」
「ああ、あそこにあったんだ。」
女子4人組が、パン屋の前で話を弾ませている。しかし、そのパン屋には「臨時休業」の紙が貼られていた。
「ここのパン屋って有名なの?」
「ヒコサブロウ、知らないの?ここは『ハニービー』の蜜を使ったパンで有名なのよ。甘さが何とも言えなくて、女性たちの間では隠れたブームになっているのよ。」
「へえ、そうなんだ。だったらぜひ食べてみたいけど…。今日はお休みなんだね。」
「うん…。今日だけじゃなくて、先週くらいからずっとなんだよね。どうかしたのかな…。」
セレンが残念そうな表情を見ていると、お店の横から一人のおばさんが顔を出した。
「あら、セレンちゃん、いらっしゃい。とは言っても、お店はこんな状態なんだけどね。せっかく来てもらったのにすまないね。」
「いいえ、おばさん。それにしても何かあったの?」
セレンの問いかけに、おばさんの表情が曇る。
「ええとね…。実は蜜が手に入らなくてね…。いつも卸してくる人とも連絡が取れなくて困ってるんだよ。」
「『ハニービー』の蜜が…。だったらしょうがないけど。何か心配だね。」
「そうなんだよ。その卸してくれる人、バルっていう人なんだけどね。もう何年も付き合いがあるんだけど、こんなことは初めてでね…。ギルドに採取を依頼しようとも思ったんだけど、余計な費用がかかるしね…。それに最近は忙しいみたいだったし…。」
「ああ、緊急依頼のせいだよね。まだどうなるかわからないんだよね…。」
「そうかい…。」
その後は、取り留めの無い話をして店を後にした。おばさんは「店を再開したら、みんなで来ておくれ。」と言っていた。
何となく手持ち無沙汰になり、とりあえずギルドに向かうことにした。明日からの動きも気になったからだ。
ギルドに着いたが、冒険者は疎らだった。ミルさんを見かけたので、話を聞いてみようかと思ったところ、
「よう、『期待の新人』!なんだ?今日はみんなでオシャレしてお出かけだったのか?」
「まあ、冒険者同士で親睦を深めるためにランチに行ってたんだ。」
ちょうどゴンザさんに会えたので、明日以降の動きについて聞いてみた。
「そのことなんだがな…。とりあえず『依頼中止』の処置を取ることになりそうだ。グリーンキャタピラーの大量発生も確認できないし、街の生活に実害もなさそうだしな…。まあ、何事も起きなくて良かったという感じだ。明日からは通常営業に戻るぞ。ドンドン依頼を受けてくれ!」
ゴンザさんの言葉で、私たちも安心した。
「緊急依頼のせいで、通常の依頼が溜まってしまったからな。『期待の新人』君も頼むわ!」
「サブマス、それ絶対わざと言ってますよね?まあ、いいです。それよりも別件で聞いてもいいですか?」
私は、さっきのパン屋とのやり取りを話し、ハニービーの生息地について質問した。ハニービーの蜜が取れれば、パン屋の問題もとりあえず解決するし、その噂のパンも食べられると思ったからだ。
「ハニービーか…。あのモンスターは単体だったら、Fランクモンスターで討伐は難しくない。まあ集団になるとEランクと同等になるが…。ただ、生息地は限られていてな。バシュラト付近だと、ニーデ村とタルス村のふたつだな。」
ニーデ村とタルス村、どちらも初めて聞く地名だな。場所を確認したら、バシュラト付近の地図を見せてくれた。どちらもバシュラトの南東部に位置しており、隣接している村だった。ここからだと徒歩で2日間程度らしい。
「ヒコサブロウさん、ハニービーを獲りに行くんですか?」
「いや、特に決めたわけじゃないけどね。明日からの依頼状況を見て、余裕があればかな。依頼として受けるのが一番いいんだけどね…。」
「その時は、私も一緒に行きます!」
「じゃあ、私も行くわ!」
「私もお供しようかしら。」
セレンの言葉に、ミナやアイラが続いた。
「とりあえずは、明日からお互いにがんばろう。この話はまた今度。」
みんなで明日からもよろしくと言って、この場で別れることになった。みんなを見送って、私もギルドを出た。陽はもう傾き、夕陽がまぶしかった。夕陽が自分をほんのり暖めてくれて、とても気持ちが良かった。
この時は、ハニービーの件があんな大事になるとは知る由もなかった…。
読んで下さり、ありがとうございます。




