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第7話:とりあえず、あだ名を取り消すことって、意外に難しいと思わない?

読んで下さる方が増えているようで嬉しいです。

 宿に戻り、遅めの昼食を取った。

 ミナとセレンとは、ギルド前で一旦別れた。二人とは「また後で」という感じで別れたが、その顔には不安の色が出ていたように思う。

 私は仮眠を取ろうとベッドに入ったものの、興奮しているのか、あまり寝付けなかった。


―――――


 目が覚めた。少しうとうとする程度だったが、眠ることはできた。そんなに時間は経っていないだろう。まだ早いかもしれないが、窓から橙色の光が差していたので、ギルドに向かうことにした。


 ギルドに到着すると、受付前は多くの冒険者でごった返していた。おそらく緊急依頼の受ける冒険者たちだろう。彼らは依頼を終えて帰ってきたところで、この話を聞いたようだ。もう疲れたから帰りたいと不満を言う者、もうひと稼ぎできると喜んでいる者、みなの反応はそれぞれだ。


 冒険者が受ける依頼、ここではギルドが仲介となるということを踏まえれば、全部で3種類ある。それは「通常依頼」「緊急依頼」「強制依頼」の3つだ。


「強制依頼」はその名が示す通り、冒険者は原則として、依頼を受けなければならない。依頼を拒否した場合は、違約金やランクダウン、資格剥奪などの重いペナルティが課せられる。


 一方、「緊急依頼」には強制力はなく、依頼を受けるか否かは、冒険者に一任されるが、緊急依頼のほとんどは報酬がいい。また、依頼自体が街に与える影響が大きいものが多いため、依頼を拒否した冒険者は、他の冒険者や街の住民から冷たい目で見られることになってしまうことが多い。そうすると、街で「冒険者」として生活していくことが難しくなる。そういうこともあってか、強制力がない「緊急依頼」でも、それを拒否する冒険者は少ない。


 いつもは依頼票が貼られているボードには、大きな字で「緊急依頼」と掲げられていた。どうやら冒険者は大会議室に集合するように指示されているようだ。


 地下の大会議室に入ったが、受付前とは異なり、冒険者たちの人数はそこまで多くない。だいたい30人程度か。そんなことを思っていると、前から知っている顔が近づいてきた。


「ヒコサブロウ、さっきぶりだね。」

「ヒコサブロウさん、こんにちは。」

 グリーンキャタピラーと戦っているところを助けた、ミナとセレンが声を掛けてくる。


「ふたりとも、お疲れさま。休憩は十分取れた?」

「まあ、ぼちぼちね。そっちは?」

「こっちもボチボチ。それにしても、集まった冒険者が思ったよりも少ないね。受付はごった返していたのに。」

「ああ、それはですね、サブギルが準備を整えてくるように言ったからですよ。依頼帰りの人もいますから。装備品の確認等をさせているんでしょうね。」

「なるほどね。私たちは早めに帰宅したからね。少し休めただけでも運がいいのかな。」

「「そうですね(そうだね)。」」

 3人で和やかに会話していると、前から数人の男女が近づいてきた。


「ねえ、ミナ。そちらの人は知り合い?私たちにも紹介してよ。」

「ああ、アイラ。この人はヒコサブロウ。ほら、同じ研修だったでしょ?」

「ああー…、例の『期待の新人』君でしょ?はじめまして、私はアイラ。よろしくね。」

「はじめまして、ヒコサブロウです。できれば、そのあだ名はやめてほしいな…。期待されるようなことはしてないし。」

「はは。『謙虚さ』も噂通り…「失礼だよ、アイラ。」だね。」

「ヒコサブロウさん、ごめんね。アイラはその『謙虚さ』がなくて…。私はハーレ。アイラたちとパーティーを組んでるの。よろしくね。」

「何よ、ハーレ。私が悪者みたいじゃない。」

「いいや、ふたりとも気にしなくていいよ。こちらこそ、よろしく。パーティーを組んでるって言ってたけど、後ろの男性達も仲間?」

「そうよ。弓を持っているのがジャン。大きなガタイをしているのがビルよ。私たち、同じ故郷の出身で、成人してバシュラトで冒険者を始めたってわけ。」

「そうなんだ。ふたりともよろしく。」

 そう声をかけると、ジャンは手を振ってくれた。ビルは無口で反応は見えなかったが、そんなに悪い印象は受けなかった。


「それにしても、緊急依頼とはね…。ミナから聞いたけど、グリーンキャタピラーの大量発生だっけ?」

 アイラがミナに確認する。

 

「うん。何か『成虫の儀式』って言うらしいよ。」

「セイチュウの儀式…?聞いたことないね。」

「滅多に発生するものじゃないからね。まあ『大量発生』の認識で間違ってないよ。」

「『成虫の儀式』なんて聞いたことないけど、詳しいのね。あなた、本当に私たちと同じFランク?」

 ハーレが私と彼女自身を交互に指さして言う。


「まあ詳細はギルドから聞きましょ。ほら、サブマスが入ってきた。」

 ミナと言ったのと同じタイミングで、ゴンザさんが部屋に入ってきたのが見えた。


「さて、準備できた者から来てもらっていると思うが…。すまんが、まだ準備している冒険者もいるから、説明は1時間後にする。それまで自由行動でいい。」

 そう言って、ゴンザさんはまた部屋を出てしまった。


「なんだ、早過ぎたみたいね。セレンはどうする?」

「私はこのまま待とうかな。1時間あっても何もできないし。」

「そうね。ヒコサブロウはどうする?」

「そうだね…。セレンと同意見かな。ここでゆっくり待つよ。」

「そう…。じゃあ私もそうしよ。せっかくだから、おしゃべりしながら待ちましょうか。」


 結局、アイラ、ハーレも加わって女子会(男もいるけど)が開催された。私は頷く程度しかしていない。ジャンとビルは少し離れたところにいた。


 その間にも、準備を終えた冒険者たちが、部屋に入ってくる。その人数は増え続け、部屋が満員となった。100人近い冒険者のせいで、部屋の熱気はすごいことになっている。


 しばらくして、ギルドマスター、通称「ギルマス」とサブマスの2名が入ってきた。それまでの熱気が嘘のように、部屋には水を打ったような静けさが訪れた。


「今回は緊急依頼の件で集まってもらって感謝する。すでに聞いている者もいるかと思うが、このバシュラト付近で『成虫の儀式』が行われる可能性がある。よくわからない者もいると思うが、簡単に言えば、モンスターの大量発生だ。そのモンスターはグリーンキャタピラー。知っての通り、Eランクモンスターだ。」


 ギルマスのファルスさんは、ここまで一気に説明すると口を噤んだ。そして、今度はゆっくりと口を開いた。


「モンスター自体は決して強いわけではないが、問題はその数だ。直近だと『成虫の儀式』は約30年前に発生したとの記録があるが、その時は200匹以上いたという。そして近隣の村3つが全滅、もしくはそれに近い状態までに至った。今回の規模はまだ不明だが、それを覚悟しての依頼だと考えてほしい。

 そして、何よりもやっかいなのが、成虫そのものだ。グリーンキャタピラーは蛹になった後、約1週間程度で成虫になると言われている。成虫の名前は『ポイズンモス』。飛行能力を持ったCランクモンスターだ。得意能力はその名の通り『毒』。前回の儀式では、幼虫の大量発生後、1匹のポイズンモスが誕生したが、その毒によって、近隣の村に住んでいた多くの住民が命を落とした。

 何としても、この事態は避けねばならない。もしバシュラトで、これが発生したら、被害は前回の比ではない。」


 ファルスさんは、冒険者たちに諭すようにゆっくりと説明した。部屋を包んでいた静寂は、いつの間にか氷をはったように、緊迫感を帯びていた。


「さて、これまで状況が理解できたら、今回の依頼内容を説明しよう。ゴンザ、頼む。」

「はい。それでは説明を始めるぞ。今回の依頼は大きく2段階に分けて行う。」

 ゴンザさんの説明が始まり、冒険者たちの目つきは否応なく真剣になる。


 依頼内容はまず「調査」だった。バシュラト付近、特に目撃例が多い箇所を中心に、実態を調査する。

 その後は「討伐」。向こうの状況にもよるが、調査完了・実態把握次第、順次討伐を開始するというものだ。


 そこで冒険者たちは、①調査班、②討伐班、③守備班、④支援班の4つのグループに分けられることになった。


 ①調査班は調査担当。さらに2班に分かれて、昼夜を問わず調査に向かう。

 ②討伐班は討伐専属。いつでも討伐に赴けるように、ギルドで待機する。戦闘能力が高い冒険者が選ばれる。

 ③守備班はバシュラトの防衛。

 ④支援班は、その名の通り支援担当。物資の補充等を担当する。


 守備班と支援班には、FランクやGランク等の新人冒険者が主に担当する。


 ギルドによる振分が行われたあと、部屋の中で分かれて、担当ごとに打合せに入る。ミナとセレン、そしてアイラのパーティーは守備班に配属になったようだ。

 ちなみに私はというと、調査班に振り分けられた。


「ヒコサブロウとは別々になっちゃたね。お互いにがんばろうね。」

「そうだね。そっちも気をつけてね。セレンもまたね。」

「はい…。」

 ミナよりもセレンの方が、緊張しているようだ。

 私は特に緊張しているわけではないが、油断しないようにしよう。


 私はその足で調査班のグループに向かい、説明を受けた。私は先発組として、これから調査に行くことになり、各々装備や道具を再確認して、30分後にギルド前に集合となった。


 30分後、ギルド前に集合した冒険者は、4パーティー10名。私以外は各3名ずつの3パーティーだ。彼らとは別にゴンザさんもいるが、調査班というわけではないだろう。


「よし、これで全員だな。調査班の先発組には、これからユンゲ草の群生地を中心に調査をしてもらう。戦闘に発展する場合もあるから心しておくように。」

 ゴンザさんは、ある冒険者を手招きした。


「こいつが、このグループのリーダーだ。自己紹介を。」

「おう。俺はニラード。Dランクの冒険者だ。3人でパーティーを組んでいる。冒険者の経験はそれなりに積んでいるが、調査・探索の類いは、パーティーメンバーのスナが得意だ。よろしく頼む。」

 ニラードさんの紹介に、隣にいた茶色のショートヘアをした女性が、その頭を軽く下げる。


 ニラードさんが自己紹介をした後、各々が簡単な自己紹介を済ませていく。私は最後になった。

「私はヒコサブロウです。1か月前から冒険者をしています。ランクはFランクです。宜しくお願い致します。」

 軽く頭を下げて、自己紹介を済ませた。まあ無難だろ…。


「おお、お前が『期待の新人』か。ゴンザさんからよく聞いているぞ。何でも最近では珍しい、ソロで活動してるって。今回グリーンキャタピラーのことに気付いたのもお前だってな。」

「そうだ、こいつが『期待の新人』ヒコサブロウだ。普段ソロだからな。臨時とは言っても、パーティーを組んで集団行動を学ぶことはいいことだからな。いろいろ教えてやってくれ。」

「その『期待の新人』って…、いや、もういいです。」

 ニラードさんとゴンザさんのやり取りを聞き、あだ名を訂正しようと思ったが、もうあきらめることにした。


「こいつは、グリーンキャタピラー10匹を討伐しているからな。戦闘能力もあると思って、Fランクで唯一の調査班に抜擢したんだ。」

 ゴンザさんが胸を張って言う。それ、ゴンザさんが胸を張るところではないでしょ…。


「そうか。まだ新人でEランクモンスターを倒すなんてすごいな。」

 ニラードさんも感心してくれているようだが…。まあ、いいか。


「さて、それでは出発しよう。」

 そんな会話も終わりを告げ、私たちはギルドを出発し、灯りがつき始めた通りを歩き出した。

読んで下さり、ありがとうございます。

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