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第6話:とりあえず油断していなくても、イベントは発生するわけで。

「お姉ちゃんっ!大丈夫っ?いま回復ポーション出すから!」 

「くっ!…うん、まだ大丈夫。それにしても、こいつらの皮膚ったら、弾力があり過ぎて、攻撃が通りにくい。このままじゃ、まずいわね…。逃げるにしても数が…。」

「どうしようお姉ちゃん…。私も魔力があまり残っていない…。」


 彼女たちはミナとセレン、どちらもFランクの新人冒険者だ。ヒコサブロウがギルドの研修を受けた時に、彼女たちもまた同じ研修を受けて冒険者となった。

 姉のミナは空色をしたセミロングヘア―をしており、格闘がメインの16歳。一方、妹のセレンは、魔法使いの15歳。姉のミナと同じ髪色をしているが、少し短めである。どちらも整った顔で可愛らしい。学校にいたら、間違いなくアイドル扱いされるだろう。


―――――

 

 彼女たちが苦戦を強いられている一方で、森の中を走っている少年がいた。


「もうすぐで着くな。戦闘の準備をしておこう。グリーンキャタピラーは、たしか…格闘とは相性が悪かったな。弱点は火魔法だったか。」

 座学で使用した「これでどんな冒険も大丈夫!ファーロニア モンスター大図鑑」に載っていた内容を思い出す。よし、定石通り、奴らの弱点である火魔法でいこう。右手に魔力を込める。


 そうこうしている間に、例の場所が見えた。やはりグリーンキャタピラーは12匹いる。2人の少女は善戦してはいるが、もう限界という感じだ。

 よし、あの木に登って、上から魔法で援護しよう。


 手頃な木の上に駆け上り、枝の上で場所を確認する。ここなら問題ないな。


「ファイアーボール!」

 右手にバスケットボール程度の大きさをした火の玉を出して、それをグリーンキャタピラーに投げた。


「キィィィィー!」

 火の玉が直撃したグリーンキャタピラーは、叫び声を上げて、その場で燃え尽きた。その大きな身体は焼け焦げ、炭のようになっていた。


「えっ…、何?どうなってるの?」

 セミロングの少女は、突然の出来事に固まってしまっている。

「そこの人、聞こえますか?今から私が攻撃しますので、その場から離れて下さい!」

 とりあえず避難するように声をかける。すると、その少女は、近くにいたショートヘア―の少女と一緒にその場を下がった。


「さて、仕上げといこうか。ファイアーボール!」

 さっきと同じ魔法で、残りのグリーンキャタピラーを攻撃する。一匹ずつ相手をしていると時間がかかるため、まとめて倒すことにした。


「マルチプル」

 この魔法は特殊魔法のひとつで、1つの魔法を複数出現させることができる高等魔法。出現させる数が多くなるにつれて、魔力量の消費が激しくなり、コントロールも難しくなる。まあ10程度なら問題ないだろう。


 10個のファイアーボールが、その場にいたグリーンキャタピラーを攻撃、全滅させた。森の中で火魔法を使うのは危険だが、コントロールしていたおかげでまわりへの延焼もないようだ。


 木から飛び下りると、そこには目を丸くした少女2人がいた。


「ええと…、大丈夫でしたか?怪我はありませんか?もしあれば言って下さい。この場で治療します。」

「いえ…。えっと…、まずはありがとう。助かったわ。私はミナ。そして隣にいるのが、妹のセレン。2人で冒険者をやっているわ。あなたは確か…ヒコサブロウだっけ?」

「ちょっと、お姉ちゃん。助けてくれた人に呼び捨てはまずいよ。ヒコサブロウさん、ごめんなさい。」

「いえいえ。大丈夫です。冒険者同士、もっとフランクにいきましょう。それにしても、よく私の名前を知っています…、いや、知ってるね。」

「ははは。まあ同じ研修を受けていたし、ソロでやっている人は珍しいから。それに『期待の新人』って、あなたのことでしょ?」

「あはは…。その変なあだ名って、結構広まってるんだね…。」

「そりゃあね。サブマスも言っていたしね。だけど、さっきの魔法を見て、それもわかる気がしたわ。ねえ、セレン?」

「うん。あんなに大きいファイアーボールを放つなんて…。しかも一気にあれだけの数を発動させるなんて、聞いたことないよ。あれって特殊魔法だよね?」

「あんた、本当にFランク?」

 ミナの質問に、「ははは」と乾いた笑いで返す。そんなに変なのかな…。

 まあ、誰かと比べたわけじゃないからな…。


「ええと、とりあえずバシュラトに戻るけど、ふたりはどうする?」

「私たちも帰るわ。とりあえず依頼の報告もあるし。あなたも調査依頼?」

「いや、私は採取依頼。ほらユンゲ草の。」

 そう言って、バッグからユンゲ草を見せる。


「そうなの。私たちはギルドの依頼で、グリーンキャタピラーの調査に来たの。調査と言っても、どのぐらい生息しているのかを調べる程度で、戦闘をするつもりはなかったんだけど…。正直危ないところだったわ。改めて礼を言うわ。」

「そうだったんだ。まあ怪我がなくてよかった。じゃあ、帰ろうか。」


 その後は何も起きることなく、私たち3人はギルドに戻った。ミナの報告を知ったギルドの職員は、私の話も聞きたいということで、3人共々、別の部屋に通された。

 そこに入って来たのは、サブマスのゴンザさんともう一人。見たことがない人だ。

 ゴンザさんの様子を見ると、彼よりも目上の人のようだ。ということは…。


「やあ、時間と取らせてすまない。私は、この冒険者ギルドのバシュラト支部でギルドマスターをしているファルスだ。よろしく。」

 やはり、ギルドマスターらしい。筋肉隆々のゴンザさんに対して、その人は細身だった。だけど、その視線からは「鋭さ」を感じる。元は高ランクの冒険者だったのかな…?


「早速だが、詳細をもう一度確認したい。例の群生地で、10匹以上のグリーンキャタピラーを発見、戦闘となったということで間違いはないかな?」

「はい。その通りです。私たち二人は、群生地を中心に調査をしていましたが、件のモンスターに遭遇。そのまま戦闘に入りました。正直、ヒコサブロウがいなければ危なかったです。」

「そうか。まずはすまなかった。状況を考慮すればFランク冒険者に依頼する内容ではなかった。君たちのせいではない。お詫びとしては足りないかもしれないが、報酬は上乗せしておく。それから、ヒコサブロウ君。今回は助かった。さすがゴンザが『期待の新人』と言っている人材のようだ。とてもFランク冒険者の活躍じゃないな。」

「いえいえ。偶々近くにいただけです。」

「そうか。謙虚さも噂通りだな。」

 一通りの状況確認が終わったところで、ファルスさんは、もう一度視線を私に向けた。


「ところで、君から見て、今回のグリーンキャタピラーの件はどう見る?」

「私に聞かれても…と言うのが本心ですが…。私見でもいいですか?」

「もちろん。意見を聞かせてくれ。」

「はい。すでに予想されているとは思いますが、おそらく『成虫の儀式』でしょう。」

「…なるほど。君はモンスターの知識も豊富のようだ。こちらも『成虫の儀式』だと思っている。」


「セイチュウの儀式…?それは何でしょうか?」

ミナが首をかしげる一方で、セレンは考え込んでいる様子だ。

「『成虫の儀式』って、確か昆虫タイプのモンスターに見られる現象でしたっけ?ごく稀らしいですが…。」

 セレンには聞いた記憶があるようだ。


「そうだ。セレンの認識で合っている。」

「どんな現象なんですか?」

 ゴンザさんの言葉に対して、ミナがまた質問する。


「『成虫の儀式』というのは、一部の昆虫系モンスターが行う自分たちのボスを決める儀式だよ。群れをなす動物には、その群れのボスを決めることはよくあることだけど、この儀式は一般的なそれとは少し異なる。まずはボスを幼虫段階で決めること。そして、そのボスをより強い成虫にさせるため、まわりの幼虫が命をかけて行動することだ。」

「ヒコサブロウ君は、よく知っていますね。」

 私の説明に感心してくれるファルスさん。

 

「成虫の儀式」、この現象で一番やっかいなところは、幼虫たちの行動そのものだ。まわりに生息する動物を捕食し、それを自身の身体を含めて、ボスに献上する。つまり、餌を捕食した幼虫は、自身も「餌」として成虫に捧げるということだ。しかも、幼虫の数は10匹や20匹ではない。100匹以上、場合により200~300匹以上の幼虫が動くこともある。尚、餌には人間も含まれる。

 現在バシュラト付近では、その兆候が見られているということだ。


「何それ?早く何とかしないと街が危ないじゃない…、いや、ということですか?」

 ミナが動揺しているのがわかる。セレンも同じようだ。

 一方、ファルスさんとゴンザさんは何か考え込んでいるようだ。


「よし、緊急依頼を出そう。ゴンザ、準備を。バシュラトにいる冒険者に召集をかけて、実態の調査及びグリーンキャタピラーの討伐を行う。」

「了解。すぐに取り掛かります。」

「ああ。それから物資の調達も進めてくれ。」

「はい。」


 ファルスさんは矢継ぎ早に指示を出す。そして私たちを見て言った。

「君たちにも依頼を受けてもらうから、そのつもりで。とりあえず帰って休憩を取ってくれ。また夕方に来てほしい。」


 それを聞いた私たちは、少し緊張を感じながら、ギルドを後にした。

読んで下さり、ありがとうございます。

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