第53話:とりあえず、宝物を探索する。(盗賊団⑤)
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「だからね、アンはわたしのともだちなのー。」
「そうなんだー。いいね、お友達となかよしで。」
「うん!」
先程まで泣いていたのがまるで嘘のように、エマちゃんは右手で抱いたアンと呼ぶぬいぐるみをミナに楽しそうに紹介していた。彼女とミナは仲良く手を繋いで歩いている。
服屋の軒先で泣いている彼女を宥めていた時、ちょうど買い物中のミナたちに遭遇した。彼女たちに事情を話すと、ミナが「一緒にメイドさんを探そうか。」と優しく声を掛け、その声に安心したのか、彼女は泣き止んだ。いまは一緒に衛兵の詰所に向かっている。おそらくそのイザベルというメイドも彼女を探していると思われたので、やみくもに探すより詰所に行った方が出会える確率が高いと思ったからだ。先頭を元気にエマちゃんとミナ、次に私とセレン、そしてその後ろにアイラとハーレが並んで歩いている。
「あっという間に懐いたちゃったね。エマちゃん。」
「そうですね。お姉ちゃんは昔から小さい子にはよく懐かれていました。地元の村でもよく子供たちの世話をしていましたから。」
「そうだったんだね。助かったよ。僕一人じゃどうにもならなかったかも…。」
「ふふふ。ヒコサブロウ君にも苦手なものがあったんですね。」
「別に苦手意識はないんだけどね…。」
前世ではよく孫の世話をしていて、娘や義理の息子からは好評だったけど、やっぱり身内と他人とでは違うのだろうか…。
「それよりもごめんなさい。お姉ちゃんの荷物持ってくれて。結構重いでしょ?」
「いや、これぐらいは。みんな結構買ったのには驚いたけど…。」
セレンとハーレは片手に、アイラは両手にひとつずつ紙袋を持っていたが、ミナは両手にふたつずつ紙袋を持っていた。それをいま私が持っている。
「お姉ちゃんにも買い過ぎだよって注意したんだけど…。『たまにはこのぐらい買わないと』って言って…。」
「まあ、たまにはいいんじゃない?ストレス発散にもなるんでしょ?」
前世で娘はよく「買い物はストレス発散になる」と言っていた。この世界でもそういう認識が当然あるのだろう。
そんなたわいもない会話を続けていると、衛兵の詰所に着いた。建物には「衛兵詰所」と看板が下げられていた。
「あの…。ちょっとよろしいでしょうか。」
「うん?なんだ、何か詰所に用か?」
建物の入口に立っている衛兵に声を掛けると、こちらの問いかけに少し無愛想な反応を示した。
「ええと、街で迷子になっていた子供を連れてきまして…。もしかしたらお連れの方が探しに来ているのではと思い連れてきたのですが…。」
「そうか。そういえば少し前に子供を探しているという女が来た。まだ中にいるはずだ。」
「入ってもよろしいでしょうか。」
「少し待て。ちょっと確認してくる。」
「お願いします。」
そう言って、衛兵は中に入っていった。その場には私たちだけが取り残された。建物の前を多くの住民が行き交う。私たちだけがそこから取り残されたように感じた。
「それにしても、無愛想な衛兵ね。」
「ちょっと、お姉ちゃん。」
「何よ。せっかく迷子を連れてきたんだから、もう少しちゃんとした対応ってものがあるでしょ。それにあんな怖い顔したら、この子も怖がっちゃうじゃない。ねえ、ヒコサブロウ。もし中にいる人がそのイザベルって人じゃなかったらどうするの?この子をここに預けるの?」
「まあ、そう思っていたけど…。その言い方だと、ミナはそれには反対みたいだね。」
「そうね…。ここに預けると、またエマちゃんが独りになっちゃって不安がると思うのよね。それなら私たちで捜してあげた方がいいのかなと思って…。」
「そうだね…。まあ、とりあえず迷子の連絡がきてないか確認してからだね。」
その時だった。建物の扉がバンっと勢いよく開いたのは。
「エマお嬢様!」
「あっ、イザベル!」
エマちゃんにイザベルと呼ばれた女性は、白いメイド服を着た10代後半~20代前半の女性だった。
「よかった…。本当によかったです…。」
彼女はいまにも泣き出しそうな表情で、エマちゃんを抱きしめた。
「イザベル~、くるしいってば…。」
「はっ!?申し訳ございません。そうだ。お怪我は?どこもお怪我をしておりませんか?」
「うん~、だいじょうぶ~。」
「そうですか…。よかったです…。それにしても、どうやってここまで…。」
「え~とね。ミナおねえちゃんたちにつれてきてもらったの~。」
「ミナお姉ちゃん?」
「あの…。」
「はっ!?ええと…。もしかしてあなたたちが…。」
彼女はたったのいままで私たちが視界に入ってなかったらしい。隣に5人でいたのに。それを注意力散漫と言うのか、おっちょこちょいと言うのか、もしくは天然と言うのかわからないが…。
「し、失礼致しました。私はイザベルと申します。今回はエマお嬢様を保護して頂いてありがとうございます。」
「いいえ。私たちは特に何もしてませんから。ね、ヒコサブロウ。」
「そうです。偶々エマちゃんが独りでいるところを見かけただけですから、どうか頭を上げて下さい。」
「いいえ。何か事件にでも巻き込まれたんじゃないかと思って、不安で不安で…。何とお礼を申し上げればいいか…。」
「いいえ。お礼なんて…。まあ、子供はいきなりこちらが想像しないことをしますから…。」
前世で孫の世話をしている時に、いきなり走り出してどこかに隠れたりされて、よく捜したもんだった。向こうは遊びの一環のようだが、こちらはそれにやきもきしたものだった。
「そうですね…。以後注意致します。本当にありがとうございました。私たちはこれで失礼致します。では、いきましょう。エマお嬢様。」
「うん。ミナおねえちゃん。バイバイ。」
「うん。バイバイ。」
イザベルさんはエマお嬢様の手をしっかりと握って、人混みの中へと消えて行った。
「………。」
「………。」
「ちょっと不安ね。また迷子にならないかしら…。」
「…。まあ、大丈夫でしょう…。たぶん…。」
エマちゃんが、いや、イザベルさんが迷子にならないように祈りつつ、私たちもその場を後にした。
―――――
「それで結局依頼主には会えなかったの?」
「うん。まあいろいろ事情があって…。」
場所は変わって、今夜泊まる宿屋の一室。私たち5人は今後のことについて話し合うことにした。
「それでどうするの?」
「いま、とある伝手を使って、依頼主に接触を試みているところ。まずは会わないことには何も始まらないから、しばらくはこの街に留まることになるかもしれない…。」
「そうなんだ。じゃあ私たちはどうしようか…。ショッピングばかりしてるわけにもいかないものね。」
「じゃあ、ギルドで依頼でも受ける?バシュラトとはまた違った依頼もあったりしていい経験になるかも。」
「そうね。アイラの言う通りかも。私たちでパーティーを組んで依頼を受けるってことね。どうみんなは?」
「私はいいですよ。」
「私もOK。」
「じゃあ、ヒコサブロウ。そういうことでいいかしら?」
「もちろんいいよ。」
こちらも内密に依頼を進めなくてはいけないから、彼女たちとの別行動は好都合だ。一方で彼女たちも今までとは違う場所で依頼を受けることは、経験や金銭面からみて利点があるだろう。それにミナは格闘、ハーレは剣で近距離戦。セレンとアイラは魔法使いで遠距離戦もできる。パーティーとしてもバランスが取れているから、難易度なランクを選ばなければ、余程のことは発生しないだろう。
依頼主に追い返される一方、小さな出会いがあったりと、予想していないことが起きたデニズリでの初日。私たちは明日からの別行動に向けて、それぞれ早めに休むことになった。
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