第5話:とりあえず、ソロは気楽でいいけど、時折さみしく感じるのも事実である。
ギルドの実技試験を経た私は、「Fランク冒険者」として新生活を開始することになった。
「はい、討伐部位を確認しました。これで依頼完了です。こちらが報酬の15,000テーレです。」
「ありがとうございます。」
「ヒコサブロウさんは、仕事が丁寧ですから助かります。また宜しくお願い致します。」
実技試験から約1か月が経過し、依頼をこなす日々を送っていた。
今日受けた依頼は「ゴブリン5匹の討伐」。
冒険者の誰もが通る低級モンスターの討伐依頼だ。報酬は1匹につき3,000テーレ。ゴブリンは低級モンスターの代表格で、冒険者にはお馴染みのモンスターでもある。
バシュラト付近にいくつか存在する街道沿いに現れることがあるため、定期的に討伐依頼がある。ゴブリンのレベルやその生息数を考えれば、私のようなルーキー冒険者には適した依頼だ。
まあその分報酬も安いのだが、ソロ活動の私からすれば特段問題もない。
ちなみに、自分の装備については、街にある武器屋で手に入れるつもりだったが、実は準備期間最終日に、講師たちから「餞別の品」を2つ頂いた。
①魔刀「黒王」
切先から柄、そして鞘まで真っ黒な日本刀。
特殊能力は「纏」。刀に自分の魔力や闘気を纏わせ、それを武器の威力とすることができる。この能力を持った武器自体は珍しくないらしいが、限界値が設定されていることが多く、それを超えると武器自体が壊れてしまう。そのため、一定以上の技量を持った人々からすれば使い勝手が悪い武器のようだ。
一方、この魔刀はその「限界値」が存在せず使用者の技能次第では、武器の能力が圧倒的に上がるという代物だ。しかも、この魔刀は、私の魔力や闘気しか纏わせることができない。
②神聖樹の腕輪
ファーロニアの最東部に「クトサル湖」という神聖視された湖がある。この地に創造神「ディンレール」が降り立ち、この世界が創られたという神話に基づいている。この湖には1本の大樹が聳えており、これは「神聖樹」として多くの人々から崇拝されている。
その昔…、これ以上は説明が長くなるので割愛するが、要はこの神聖樹を基として作られた腕輪がこれにあたる。色は黒王とは異なり真っ白。特殊能力は「魔力回復」。使用者の魔力を自動で回復してくれるというものだ。これも私の魔力にしか反応せず、他人が装着しても「ただのきれいな腕輪」でしかない。
つまり、これらの「餞別の品」が優秀過ぎるため、特に武器屋に行くというイベントは発生しなかった。少し残念…。やっぱり、今度行ってみよう。
さて、現在の私は3日間は「冒険者」として働き、1日は「休み」としている。まあそれにこだわる必要もないのだが、ある程度ルールを決めておいた方が、規則正しい生活を送れるというわけだ。いくら自由とはいっても、一定の規律が必要だと感じる。「自由=堕落」ではいけない。
さて、今日の依頼をもって「依頼達成数」が25になった。
「依頼達成数」とは、その名の通り、依頼を達成した数を表す。この達成数が30になると、冒険者ランクが「Fランク」から「Eランク」に昇格する。当然、依頼達成数にカウントできるのは「Fランク」以上に限る。
特に急いでいるわけではないので、地道にこなすことにしている。一般冒険者と言われている「Dランク」に昇格するためには、「Eランク」以上の依頼達成数が50必要になるので、焦っても仕方がない。
尚、「以上」というのは自分のランクよりも上位ランクの依頼を受けるわけだが、これはパーティーメンバーの半数以上がそのランクに該当する場合に限られる。つまり4人パーティーで、2人がF・2人がEという場合、そのパーティーは「Eランク」とその一つ上の「Dランク」の依頼を受けることができる仕組みだ。
結局のところ、私はソロだから、このような人数制限は関係なく「Fランク」か、一つ上の「Eランク」を受けることができる。こういう意味ではソロは楽だ。
次の日。私はいつものように朝からギルドにいる。明日は休み予定なので、今日はあまり手のかからない依頼をこなそう。そもそも「Fランク」の依頼は日帰りでこなせるものも多いのだが…。
「Fランク」と書かれた依頼票ボードを見ていると、ええと…。
●ゴブリン討伐5匹
昨日やったから、まあ却下かな。
●ホーンラビット10匹
この前やった依頼だけど、また出てる。こいつら臆病の上にすばしっこいから、思ったよりも面倒なんだよな。とりあえず保留。
●ユンゲ草の採取 10本
ユンゲ草って、確か回復薬「ポーション」の材料になる薬草だっけ。体力回復に効果があるって、座学で習ったな。「Fランク」で採取依頼は珍しい気がするけど…。ああ、群生地の近くでグリーンキャタピラーが目撃されているのか。グリーンキャタピラーは巨大な芋虫モンスターで、大きさは2~3メートルにもなる。モンスターランクは「Eランク」だったな。そろそろ「Eランク」も視野に入れておきたいからな…。
よし、これにしよう。
そう決めた私は、依頼票も持って受付のミルさんに渡す。
「おはようございます、ヒコサブロウさん。今日も依頼ですか?依頼表を確認しますね…。ええ…、一応確認しておきますが、この依頼は、グリーンキャタピラーに遭遇する危険があります。ヒコサブロウさんはソロですが、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。まあ危なくなったら一度退きますし。」
「そうですか。わかりました。採取するユンゲ草ですが、実物を確認されますか?」
「…そうですね。じゃあ一応確認します。」
「わかりました。それではこちらへどうぞ。キャロ、案内を。」
「承知致しました。それではこちらへどうぞ。」
そう答えた私を、別のギルド職員が案内してくれるようだ。この女性の名前はキャロさん。先月採用されたギルド職員の新入社員だ。
「ギルド職員」という職業は、実は人気がある職業だ。冒険者が引退してから採用される「中途採用」、そしてキャロさんのような「新規採用」がある。
受付裏にある扉から中に入り、廊下を歩いていると、彼女が話し掛けてくる。
「それにしても、ヒコサブロウさんの仕事は丁寧ですね。ギルド職員の間でも評判になっています。仕事の丁寧さだけではなく、人柄も温厚で礼儀正しくて、ミル先輩なんか『有望株』だって言ってました。」
「ははは。そんなに期待されても困りますけどね。できるところからコツコツと仕事をしているだけですし。」
「そういう謙虚なところというか、落ち着いた様子も評判ですよ。サブマスなんて、『あいつは絶対15歳じゃない』とか言ってましたし。」
「いやいや、キャロさんと同じ15歳ですよ。」
「あなた以外のFランク冒険者は、依頼品の事前確認なんかしませんけど、その点、ヒコサブロウさんはちゃんと確認してくれるので、間違いがなくて助かります。他の冒険者たちに見習わせたいです。」
そういう会話を続けていると、いつの間にか目的の場所に着いた。
ここはギルドの倉庫で、武器や道具、薬品等が常備されている。新人冒険者の中には、満足な装備を整うことができない人も少なくないため、ギルドから「貸出」が行われている。貸出料は、依頼報酬から抜かれるかたちとなる。
「ええと…。あっ、ダイトさん。ユンゲ草はありますか?」
「おっ、キャロか。後ろは…ああ、期待の新人君か。たしかヒコサブロウ君だっけ?」
「いやいや、普通の新人ですよ…。ははは。」
この男性はダイトさん。ギルドで備品の管理や貸出業務を担当している。元はDランクの冒険者だったが、2年前のモンスター討伐依頼で受けた怪我が原因で引退。その時にサブマスのゴンザさんに採用された経歴を持つ。
何で、そんなに詳しいかって?すべてキャロさんからの情報だ。まあ、彼女の口が軽いか否かの議論はやめておこう。
「これがユンゲ草だ。有名な薬草だから見たことはあると思うけどな。さすが『期待の新人』は慎重だな。」
「その『期待の新人』というのはやめて下さい…。期待され過ぎると胃がイタイです…。」
「はっはっは!それは悪かった。まあ事前確認をする新人冒険者は少ないからな。褒め言葉として受け取っといてくれ。新人なら、まずは確認してほしいところだが…。君を見習わせたいところだ。」
「はは…。ありがとうございます。」
まあ、期待されること自体は悪い気分じゃないんだけどね。
バシュラトを出て、徒歩でユンゲ草の群生地に向かった。群生地はバシュラトの北西部に位置しており、街道から少し離れた森の奥にある小さな池になる。ユンゲ草だけではなく、その他の薬草も採取できる場所で、冒険者同士が遭遇することも少なくないらしい。
最近になって、グリーンキャタピラーの目撃例が増えた。実際にGランク冒険者も襲われた、とダイトさんが教えてくれた。死人は出なかったようだが、ギルドとしてはそれを重く見て、薬草採取のランクを1ランク引き上げ、様子を見ることにしたとのことだった。
時刻はまだお昼前と思われる頃、群生地に到着した。グリーンキャタピラーの影響か、他の冒険者の姿は見えない。
池とそのまわりの景色はきれいで「平穏」という感じだ。採取目的のユンゲ草は、池のすぐ近くに群生しているし、少し黄色がかっているので、他の薬草よりは見つけやすい。
池に近付くと、情報の通りユンゲ草の群生地を見つけた。ユンゲ草を手に取ると、これも事前確認したものと同じようだ。さっさと採取して、グリーンキャタピラーに遭遇する前に、この場を後にしよう。
採取したユンゲ草を、手持ちのショルダーバッグに仕舞う。このショルダーバックには、空間魔法「ストレージ」を付与しており、多くの荷物を入れることができて便利な道具だ。魔法付与を使って、自分で作成したものだ。
空間魔法は特殊魔法に属し、「ストレージ」を使えば、わざわざバッグに付与する必要もないのだが、特殊魔法はステータス上は表示されないようにしているため、敢えてバッグを作った。まあ、ギルドで初めて見せた時に驚かれたので、「祖父からもらった」と嘘をついてしまった…。じいちゃん、とりあえずごめん。
とりあえず採取も完了したし、バシュラトに戻って、遅めの昼食を取ろう。
そう思い、通ってきた道を戻り始めた時、ある気配を感じた。この気配察知能力は、講師たちとの訓練中に身に付けたものだ。これは魔法ではなくある種の技能だ。熟達した武人にはよくある能力らしく、ステータスでは表示されるものではない。
魔法にも似たようなものが存在するが、魔法である分、気配察知能力よりも詳しい情報を得ることができる。
「サーチ」
それがこの魔法。特殊魔法に属するが、誰も見ていないし、まあ使ってもいいだろう。
すると、ここから遠くない場所にヒットした。どうやら戦闘が行われているようだ。一方はおそらく件のモンスターだろうが、数が多いようだ。10匹以上いる。もう一方はというと…2人か…。少し押されているようだが、ここは助けに行った方がいいな。
そう思って、私はその方向へ走り出した。
読んで下さり、ありがとうございます。




