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第49話:とりあえず、宝物を探索する。(盗賊団①)

「『黒い霧』…ですか?」

 陛下から発せられた言葉は、これまで聞いたことのない盗賊団の名前だった。


「そうだ。まあ聞いたことがない名前だと思う。何しろこちらが勝手に付けた名前だからな。」

「お話がよく見えないのですが…。」

「そうだな。これについては経緯を話す必要があるが、国家としての重要極秘事項になる。もしこの件について現時点で引き受ける意思がなければ、この場で言ってくれ。」

「なるほど…。」

 はっきり言って、だいぶきな臭い。全くいい予感がしない。一国の王が依頼することだ。余程のことだろう。陛下の言う通り、この場で依頼を聞かずに断るという選択肢はあるだろう。だけど、せっかく転生した新しい人生。もし、自分の力が役に立つのなら、それを役立ててみたいという気持ちがあった。


「わかりました。私でお役に立てるなら、引き受けさせて頂きます。」

「そうか。君ならそう言ってくれると思っていた。早速だが話をさせてもらう。」

 その場に緊張が走るのがわかった。


「君は王国の公爵家を知っているかね。」

「はい。一応は…。確かバルト家とカアン家、そしてエストレ家だったと記憶しています。」

 ファーロニアに存在する王家や大貴族の名前は、転生前にミコト先生の座学で教えてもらったので記憶している。


「その通りだ。これらは三大公爵家とも呼ばれ、元を辿れば、ベル王国初代国王の兄弟筋にあたる血筋だ。だからいまでも王家と三大公爵家の関係には深いものがある。

 そして、この王家と三大公爵家にはそれぞれ家宝とも言うべき宝物を所持しており、ある意味ではそれが公爵家たる所以とも言える。すなわち、バルト家が『王家の剣』を、カアン家が『王家の鏡』を、エストレ家が『王家の勾玉』を所持しているというわけだ。」

「そうなのですか。しかし、それがその『黒い霧』とは何の関係が…。まさか…。」

「ああ、そのまさかだ。ここから機密事項になるが、その三つの宝物が何者かによって盗まれてしまったのだ。」

「それは…。」

「ああ、大変な事態だ。それぞれが厳重に管理していたはずの公爵家たる所以の宝物が盗まれてしまったのだからな…。」

「それを取り返してほしいということでしょうか。その盗賊団から…。」

「そういうことになる。」

「なるほど。何か手掛かりみたいなものはあるのでしょうか。先程のお話から察するに正体までは掴めてなさそうですが…。」

「恥ずかしい話だが、現時点で詳細はわかっていない。そもそも公爵家の宝物が盗まれたこと自体を大々的に公表できないこともあって、目立つような捜索はできていない。君にとってはあまり興味のない話かもしれないが、王家と公爵家の面子にもかかわることだからな。だから捜索はあくまで少数精鋭でやるしかないのだ。」

「いいえ。事が事ですので…。その点は致し方ないかと思います。ただ、そういうことであれば、私よりも上位ランクの冒険者に依頼はしないのでしょうか。」

「うむ。そのことだが、すでに王国内のAランク冒険者2パーティーにも依頼をして、極秘に捜索を進めてもらっている。しかし、やはり捜索範囲が広すぎるのか、相手が巧妙なのか成果は芳しくない。まあAランク冒険者と言え、魔物討伐が目的ではなく、盗賊団の捜索が目的だからな…。苦労しているようだ。」

「Aランク冒険者が苦労している案件に、私が役に立てるかどうか…。」

「そうか?報告を聞いたが、君がこれまで手掛けた依頼は討伐というより捜索が主体だということだが。それだけでなく、強力なモンスターも討伐実績があると聞いているしな。こちらもその手腕に期待している。」

「わかりました。その期待に応えられるように力を尽くします。その依頼ですが、期限はあるのでしょうか。」

「期限らしい期限はないが…。できるだけ急いでほしい。こちらにも色々事情があるのでな…。」

「わかりました。まずは情報収集から始めたいと思います。依頼に関して何か指示とか事前に知ってもらいたいことはありますか?」

「特にない。というより当時の状況は公爵家から直接聞いてもらう方がいいだろう。あとはまあわかっているとは思うが、余から依頼を受けていることは内密に頼むぞ。公爵家にはこちらから言っておく。」

「はい。」

 ベル王国陛下からの依頼。それは公爵家から盗まれた家宝の奪取。これから様々苦労することが容易に想像でき、王城を出る時は誰にも聞こえないように溜息をついたのだった。


―――――


 翌日。

 早速王都を発ち、三大公爵家のひとつであるバルト家を訪問しようと思っていた。バルト家の領地は王国南方に位置する商業都市「デニズリ」。王国の海の玄関先とも言われる都市で、中々の賑わいを見せているということだった。


 なぜ、ここを最初に選んだのか?

 それに深い理由はない。ただ経路的にバシュラトを経由して行くことになるため、バシュラトの様子も見て、そこに向かおうと思っただけだ。


 ただファビアーノさんに出発前にはぜひ屋敷に寄ってくれと言われていたので、特に約束をしたわけではないが、挨拶をしに寄ることにした。

 さすがに王国での有数の豪商の屋敷。遠くから見てもその豪華さがわかる。部屋は何室あるのか数えるのも馬鹿らしくなるぐらい大きな屋敷だった。


「あの…。冒険者のヒコサブロウという者です。ファビアーノ氏はご在宅でしょうか。」

「冒険者のヒコサブロウ様ですね。少々お待ち下さい。屋敷に確認を取って参ります。」

 少し緊張しながら門番に声をかけた。見た目は怖そうだったが、物腰が柔らかくてちょっと安心した。


「確認が取れました。どうぞお入り下さい。」

 門番はそう言うと、自分の身長より明らかに大きい黒い門を開けてくれた。「ありがとうございます…。」とお礼を言い、屋敷の中に入った。


 屋敷へ続く長い通路を進むと、屋敷の玄関が見えてきた。そこには数人の人が私を待っているようだった。その中のひとりはすぐにわかった。護衛任務をしたミーナだった。


「ヒコサブロウ。お待ちしておりました。もう王都を発ってしまったのかと思いましたわ。」

「はい。今日出発する予定です。」

「まあ、そうですの…。寂しくなりますわね。」

「お嬢様。客人を玄関先に引き留めては…。」

 ミーナに仕えるロレッタさんが、彼女を促す。


「まあ、そうでしたわね。どうぞ、お入り下さい。お爺様も待っていますから。」

「はい。お邪魔します。」


 私はそのままミーナとロレッタさんに応接間に通された。さすがに部屋にも見るからに高級そうな調度品が調えられていた。玄関にも見事なシャンデリアや彫刻品があったので、ファビアーノさんの商人としての凄さが伺える。

 えっ…?表現の言葉は貧弱?仕方がない。他に表現する言葉は見つからないから…。


「やあ、昨日はどうも。早速来てくれて嬉しいよ。」

「いいえ。急な訪問申し訳ありません。」

 部屋にはファビアーノさんとミーナ、そして執事のリベリオさん、メイドのロレッタさんが揃っていた。


「急ですが、今日王都を発つことになりまして。その挨拶に伺いました。」

「ふむ…。そうか…。どうだ我が庭でも見ないか。あれだけの庭、王都でもなかなか見ることはないぞ。」

 これは…。単に庭を見せたいわけではなさそうだな…。二人で話したいということか。

「はい。せっかくですので拝見したいと思います。」


 庭にある小さな池に架かる橋に、ファビアーノさんと私はいた。ミーナとロレッタさんは屋敷に残り、リベリオさんが少し離れた所で控えていた。


「それで、『黒い霧』は何とかなりそうなのか…。」

「…。」

「まあ、言えるわけではないか。これでも私は王国でも有数の商人と自負している。そういう商人には独自の情報ルートがあるのだ。」

「そうですか…。それは怖いですね。」

「はっはっは。ヒコサブロウ殿にも怖いものがあるか。昨日の陛下からの話はそれなのだろう?」

「…それはお答えできません。どうかご容赦下さい。」

「そうか。まあそれだけ聞けただけでも良しとしよう。情報を守るのも冒険者の心得だからな。まあ心配するな。この件については、陛下からも極力協力するように言われている。他の冒険者と同様にな。」

「そうでしたか…。」

「それで、実際どうなのだ?何とかなりそうなのか?」

「なぜ、そこまでその件を気にされるのですか?」

「どのような手段を使ったかは知らないが、公爵家から宝物を盗み出す手腕は恐ろしいものがある。それに警戒するのは商人として当然のことだ。宝物とは言わずとも、高価な商品を取り扱う機会は多いからな。はっきり言って、この件を知っている商人は私以外にもいる。そいつらも今回の盗難事件の動向は気になっているはずだ。」

「そうですか…。さっきの質問の答えですが、まだ何とも言えません。全てはこれからです。」

「そうか。何かあったら、公爵領にある商会の支店を頼るといい。協力するようにこちらか指示を出しておく。」

「ありがとうございます。」


 それで彼との話は終わりになり、私は早速屋敷を後にすることにした。ミーナには「もっとゆっくりされればいいのに」と引き留められたが、「また伺います」とやんわり断っておいた。


 自分の想像以上に大きく困難な依頼になりそうだなと思いながら、私は王都を発った。まずはバシュラトに戻ることにした。

読んで下さり、ありがとうございます。


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