第48話:とりあえず、王城に滞在する。
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「やあっ!はあっ!」
「またです、殿下。左側に隙ができています。」
いま私はヘンドリック殿下と屋敷の庭で模擬戦をしている。なぜこうなったのか、それは少し時を溯る…。
陛下の依頼により王妃様の身体を治療した日。王妃様の足が動けるようになったことに、陛下や殿下たちの非常に喜んでくれた。そのおかげか、その日の夕食に招かれるだけでなく、しばらく王城に客人として滞在してもいいということになった。
滞在の間、武芸の嗜みがあるヘンドリック殿下には、一緒に鍛練をしてほしいと頼まれ、王妃様とクリスティーナ殿下には冒険者の話を聞きたいと言われ、お茶会に呼ばれている毎日だ。午前が鍛練。午後がお茶会。そんな生活が1週間続いている。王城の執事やメイドが優秀過ぎて、このまま堕落しそうで怖い…。
「はあ、はあ。さすがに現役の冒険者は違うね。僕も幼いころから騎士団に鍛練してもらったけど、何となく鍛練感が拭えなくてね…。やっぱり君と模擬戦をしていると少し実戦を味わうことができてる気がするよ。」
「いえいえ。殿下も相当の鍛練をこなしている様子で驚きました。これなら冒険者としてもやっていけそうです。こんなことを言うと、陛下と王妃様に怒られてしまいそうですが…。」
「ははは。父上や母上はともかく、間違いなく家臣たちには止められるだろうね。」
「ははは。」
ヘンドリック殿下は今年で18歳。その明るい笑顔は、何となく前世の兄を思い起こさせた。
「お兄様。今日の鍛練は終わりかしら?」
「ああ、終わったよ。今日もいい汗をかいた。これからかい?」
「ええ、今日も母上とヒコサブロウ殿の話を聞こうかと思いまして。」
「ははは。母上もお前もヒコサブロウ殿に夢中だな。」
「まあ、いやですわ。夢中だなんて…。」
クリスティーナ殿下は私と同じ15歳。金髪が良く似合う可愛い少女だが、やはり一国の王女。その佇まいからは何というか王女のオーラみたいなものが漂っていた。
私はシャワーを浴びて、王妃様の部屋に向かった。
王妃様の足は動くようになったが、これまで全く運動してこれなかったため、宮廷医師とも相談し、軽いリハビリから行うことになった。今では部屋と廊下を医師とメイドが見守りながらゆっくりと歩くという日々が続いている。クリスティーナ殿下も自身の母を見守り、時には手を差し伸べてリハビリに協力していると伺った。そんなわけで、王妃様と殿下とのお茶会は、王妃様の部屋で行われる。
衛兵が控える王妃様の部屋をノックすると扉が開いた。中には王妃様がベッドで起き上がり、傍には殿下が控えている。テーブルにはすでにお茶と茶菓子の準備が整えられていた。
「いらっしゃい、ヒコサブロウ殿。」
「ご機嫌いかがですか、王妃様。」
「ええ、今日はゆっくりとですが部屋の前の廊下の奥まで歩くことができました。」
「それは良かったです。」
「お母様は本当に嬉しそうに毎日リハビリに臨んでいらっしゃるわ。こんな笑顔は久しく見なかったので、こちらも嬉しくなります。」
「ふふふ。最近の楽しみは毎日のリハビリとヒコサブロウ殿の冒険譚を聞くことです。」
「冒険譚だなんて…。恐縮です。」
「いえいえ。昨日の人狼の話なんて興奮しましたよ。そんなことが小さな村で起きるなんて驚きです。」
「そうですわね。ヒコサブロウ殿は話し方がお上手なので、こちらもワクワク・ハラハラしながら物語を読むような感覚で聞くことができますわ。」
「ありがとうございます。」
前世では自分の子供や孫たちによく読み聞かせをしていたから、それが思わぬ功を奏したかもしれない。まあ、相手は幼子ではないけど…。それから1時間程、私たちは会話を楽しみながら美味しい紅茶を頂いた。
王妃様の部屋を出ると、陛下の執事であるロイクさんに陛下がお呼びですと伝えられた。ロイクさんは陛下に30年仕えるベテラン執事で、恐れ多くも私の世話もしてくれた。
王妃様や両殿下とはこうやって交流する機会はあるが、陛下とは夕食時に少し話をする程度だ。やはり一国の王様。毎日多忙のようである。その陛下から呼び出しを受けたということで、急いで案内された部屋へと向かった。
―――――
「やあ、ヒコサブロウ君。急に呼び出して悪いね。」
「とんでもございません。陛下。」
「王城の暮らしはどうだ。何か不自由はないか?」
「そんな滅相もありません。執事やメイドの方々がよくしてくれるので、快適に過ごさせて頂いております。このままだと街に戻った時に堕落しそうで少し怖いです…。」
「はっはっは。それなら結構。王妃や子供たちの相手もしてくれていると聞いている。特に王妃については、どんなにお礼をしてもし尽せない。改めて感謝する。」
「そんな、お礼はもう十分頂いておりますから…。」
「まあ、ヒコサブロウ殿は謙虚だからな。そう言うとは思っていたが、こちらとしても何かしらの礼をしなければ面子に関わる。ということで、ロイク。」
「はっ。」
陛下の言葉に応え、ロイクさんがテーブルに綺麗な細工が施された木箱を二つ置いた。大きいものと小さいものが一つずつだ。
「お礼として渡したいものは二つある。まずは金銭だ。やはり冒険者には金銭かと思ってな。1000万テーレある。これだけあればしばらくは安泰に暮らせるだろう。」
「えっ…。1000万!?そ、そんなに頂くわけにはいきません。」
「まあ、そう言うな。これから冒険者として活動するには先立つものはいくらあってもいいだろう。本当はこれでも足りないぐらいだと思っている。」
「…わかりました。有難く大切に使わせて頂きます。」
「それとメインはこっちだ。小さな箱を開けてみてくれ。」
陛下に勧められるがまま、小さな箱を開けた。そこには一枚のカードが納められていた。ギルドカードにも似ているが、よく見ると紋章のようなものが入っている。
「それは王家との友好の印だ。それを持つ者は、いつでもこの王城に入場することができ、来賓の応対を受けることができる。」
「そんな大切な者を一介の冒険者にですか!?」
「そうだ。それほど今回の王族への功績は大きいということだ。家臣たちも納得している。それから正直に言えば、それは君への先行投資という意味合いも兼ねている。優秀な人材には今から交流を持っておこうという思惑もあるのだ。」
「わかりました。その期待にお応えできるよう、微力ながら尽して参ります。」
「うむ。そこで早速なのだが…。」
陛下が先程までの柔和な面持ちから一転して、真剣な表情へと変わった。
「盗賊団『黒い霧』の探索・捕縛に協力してほしい。」
陛下から発せられた言葉。その言葉で場の空気が変わったのを感じた。
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