第47話:とりあえず、王妃様の治療をする。
投稿が滞りすみません。
またできる限り定期的に投稿していきたいと思います。
「跪かなくてよい。いまは正式な場ではないのだ。」
ベル王国現国王、エンゲルベルト・フォン・ベルは、先程とは異なり、威厳はあるが、どこか砕いたような感じで私に話し掛けた。
「まあ座って話そうではないか。」
陛下は私に座ろうと促す。そのタイミングを見計らって、メイドがお茶と茶菓子を出してくれた。数は全部で4つ。陛下と私以外にこの同席する人が二人いた。どちらも私と同年代ぐらいだった。
「紹介しよう。息子のヘンドリックだ。そして娘のクリスティーナ。二人とも、私が君と個別に話をすると言ったら、付いていくと聞かなくてな。こうして連れてきた。」
「やあ、ヒコサブロウ殿。今までの報告を聞かせてもらったよ。僕と同じぐらい歳の子が、冒険者としてあそこまで活躍していると聞いて興味を持ってね。直接話をしてみたいと思ったわけだ。」
「やだわ、お兄様ったら。そんなに落ち着いたようにおっしゃって。報告を聞いていた時はだいぶ興奮していらしたじゃない。」
「ちょ、ちょっと、クリスティーナ。それは言わない約束だよ。そういうお前も興味を持っていたじゃないか。」
「ふふふ。そうですわね。」
「ありがとうございます。恐縮です…。」
ヘンドリック殿下は私より少し年上、一方でクリスティーナ殿下は少し年下のように感じた。二人とも私の話に興味を持ってくれたようだ。それ自体は嬉しいことではあるものの、どのように話が伝わっているのか若干不安だ。変に誇張されてなければいいが…。
「まあ、君の詳しい冒険譚はあとで聞くとして、個別に呼んだのはお願いというか訊きたいことがあるからだ。」
「訊きたいことですか…?」
「ああ。報告によれば、君は魔法に長けているとあった。それは回復魔法も含まれているのか?」
「回復魔法ですか?そうですね、回復魔法も使えますが…。」
回復魔法は光魔法に属する魔法。光魔法10の私は、全種類の回復魔法を使用することができる。まあ、こちらの世界に来てから使ったことはないけど。
「そうか…。」
「お父様、まさかお母様のことを彼に?」
「お母様…とおっしゃいますと、王妃様のことですか?」
「ああ。さっきの拝謁の場に、私の隣の席が空席だったのは気付いていただろう。」
確かに、拝謁時に用意されていた四つの椅子の内、一つだけ空席だったのは気付いていた。あの時は緊張していたから、そういうものなのだと思い込むようにし、自身の疑問に蓋をしていたが。
「あそこの席は私の妻、つまり王妃であるエリーゼが座る場所なのだ。まあかれこれ1年ぐらいは公衆の前に姿を現していないが…。」
そう話す陛下は沈痛な面持ちだった。二人の殿下も先程の明るさが嘘のように、沈んだ表情をしている。
「その…、ご病気か何かですか?」
「ああ。病気と言えば病気なのかもしれん。心のな…。原因はわかるが…。」
「原因?」
「そうだ。原因は1年前の落馬事故がきっかけなのだ。もともと妻は活発的な女性でな。自身でも馬を乗りこなし、よく遠乗りしていた。しかし、今から1年前の秋、遠乗りの最中に誤って落馬し、大怪我をしてしまったのだ…。」
「あの時は宮廷医師総出で母上に治療を施してね…。私たちはただ祈ることしかできなかった。その祈りが通じたのか、母上は一命をとりとめ、状態は回復へと向かった。」
「ああ、息子の言う通りだ。あの時は家族全員安堵したものだった。だが、そこで終わりではなかったのだ。命をとりとめ、回復魔法のおかげで怪我も治っていった。多少の足に傷は残ったがな。しかし、それ以降、彼女の両足は動かなくなってしまったのだ。腰から下の部分が動かず、歩くことはおろか、自身で立ち上がることもできなくなってしまった。」
「当初は、お母様は皆に心配をかけまいと、気丈に振る舞っておいででしたけど、その内にお元気を無くされていって…。次第に部屋から出てこようとしなくなっていきましたわ…。」
「その後、何とか彼女の足を治そうと、宮廷医師や宮廷魔術師、高名な魔法使いに治療をお願いしたが、無駄だった。医師が言うには不可逆的な損傷があるらしく、回復魔法でもどうにもならないと言われた。しかし、私たちは諦めることができないでいる。本当は気持ちに区切りを付け、彼女に向き合わなくてはいけないのだが…。もしかすると、それが彼女にも辛い思いをさせているのかもしれん。私たちが諦めていないのに、自分が気持ちに区切りを付けてしまうことが…。」
「だから、私に回復魔法のことを?」
「そうだ。これまで冒険者を生業としている高ランクの魔法使いにも治療を頼んでみたのだが、結果は変わらなかった。」
「では、どうして私に?」
「それは…。こう言ってしまうとなんだが、何となく会った時の直感だった。息子や娘と変わらない青年の活躍ぶりを聞き、実際に目の前でその者を見た時に、この者ならもしかしたらと思ったのだ。それに、そろそろ潮時かもしれんとも思った。これで駄目なら気持ちに区切りを付け、彼女に、いや、彼女と一緒に前を向いて歩み出そうという時が来たと思った。これは私の勝手な思いだが、子供たちも理解してくれると思っている。」
「父上…。」
「お父様…。」
そこにいるのは、一国の国王陛下ではなく、一人の妻を想う夫の姿だった。王妃様のことは初めて聞いたが、自分の力が何かの役に立つのであればと思った。
「お話はわかりました。それでは王妃様に会わせて頂けますか?私の力がどれだけお役に立てるかわかりませんが、やれるとこまでやってみます。」
「お願いする。」
―――――
陛下たちに王妃様の部屋に案内された。後ろには執事やメイド、そして護衛たちが付いてくる。
「エリーゼ。私だ。入るぞ。」
陛下はノックをせず、声を掛けただけで部屋に入った。陛下と殿下たちが中に入るのを見届け、自身も中に入る。
「どうだ、調子は?」
「あなた…。そうね、相変わらずよ…。」
彼女に笑顔はない。最低限のコミュニケーションをしている感じだ。クリスティーナ殿下が気丈に振る舞っていたと言っていたが、いまはその名残りというか、気丈さを引きずっている感じにも見える。
「そうか…。」
「ええ…。あら、後ろにいる方は…。」
「ああ、彼は冒険者のヒコサブロウ君だ。」
「ああ。今日拝謁した冒険者ね。随分ご活躍されたそうで…。」
「恐縮です。」
「まだ若いのに、礼儀正しいのね。ごめんなさいね、こんな恰好で…。」
「いいえ…。お話は伺っております。」
「ということは夫から話を聞いたのね。ここに来たということは、私の治療に?」
「はい。」
「そう…。でもね、来てもらって悪いのだけれど、正直私はもう無理だと諦めているの。家族にも辛い思いをさせたくないし、私もまた駄目だったという現実を突き付けられるような思いもしたくない…。」
そう言う彼女は、どんなに淡くても期待を持ち続けたいと思いと、現実を受け止めなくてはならない義務感を持ち合わせたかのような表情をしていた。
「そうだな…。お前の言う通りだ。これまでお前のためだと思って、いろいろ手を尽くしてきたつもりだったが、結果的にそれがお前を苦しめていたのかもしれん…。」
「いいのよ、あなた。あなたのせいじゃないもの。」
「これを最後にして、私たちもお前と一緒に前を向く。だから、最後の私の我儘だと思って、彼の治療を受けてくれ。」
「…ええ、わかったわ。私もこれを最後にして、しっかりと現実と向き合うわ。」
「ありがとう。ではヒコサブロウ君たのむ。」
「はい。わかりました。」
私は陛下と入れ替わるかたちで王妃様の前に立つ。
鑑定。相手のレベルや技能を見る能力。しかし私の場合は、身体の状況なども見ることができる。しかし特に医術に関する知識を持っているわけではないため、いくら身体の状況がわかっても病名等がわかるということはない。
それでは、何故鑑定を使ったのか。それは転生前の準備期間中に魔法神に言われたことがあるからだ。それは「回復魔法の最も効果的な方法は、相手の身体の状況を理解し、回復のイメージを十分に持つこと。」と。
ただ、裂傷や骨折などの外的損傷は見ればわかりやすいのだが、おそらく王妃様は神経に損傷を受けている。神経等、細胞レベルの状況を把握するには、普通レベルの鑑定では無理だろう。しかし、私は鑑定10。しっかりと神経まで見通すことができ、損傷箇所を確認することができた。これは「回復」では無理だ。「復元」に近いだろう。
「レストレーション」
王妃様の下半身を薄緑色の光が包む。これは回復魔法でも最高位に属する魔法。失った手足等を復元することができる魔法だ。損傷してしまった神経を、一本の糸を紡ぐイメージで魔法をかける。
「終わりました。どうですか?」
「もう終わったの。何か不思議な光だったわね。あら…。」
王妃様はこれまでとは違うと感じたようだ。つま先が動いている。それはつま先ではない、ゆっくりだが足首が、膝が動く。
「あ、あなた…。動くわ…。私、足が動く…。」
「おおお…。動いている。確かに動いている。」
「母上!」
「お母様!」
これまで抱き続けてきた願いが叶った瞬間だった。
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