第44話:とりあえず、商人を護衛する⑧
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無事に王都に入った私たちは、役員会議の場所となる商会の中心拠点がある建物に向かっていた。私たちは馬車の中で最終確認を行った。もう隠れる必要はないので、普通に顔を出している。
「それで、ファビアーノ様。具体的にはどうするのですか?」
「ふむ。まずダミアーノの奴が私の死を会議で議題に取り上げるだろうから、そのタイミングを見計らって乗り込む。そして、奴に暗殺されかけたこととこれまでの不正の証拠を突き付け、奴を解任に追い込む。」
「なるほど…。ただ、そんなに簡単にいきますか?」
「まあ、難しいかもな…。奴も奴でしぶといからな…。」
「それでは最悪の事態も…。」
「ああ、もしかしたら、その場で私とその派閥を消しにくるかもしれん。盗賊が侵入したとか言ってな。」
「そこまで大胆なことをしてきますか?」
「可能性は十分に考えられる。奴の会長への執着は凄まじいものだからな。最後の最後で自分の分が悪いと悟ったら、そうなるかもしれん。」
「それでは、そこは私の出番ですね。もしかすると、奴はすでに場内にそういう輩をすでに配置しているかもしれません。」
「そうだな。だが、仮にそういう輩を事前に見つけたとしても、しばらくは放っておいてほしい。」
「…それは、決定的な証拠になるからですか?」
「そうだ。もし奴がその会議の場で私を害そうとした場合、それが反旗を翻した決定的な証拠となる。さすがに奴も言い逃れできないだろう。奴の一派も同様だ。だから、もしそうなった場合に、ヒコサブロウ殿には活躍してほしい。」
「それは危険すぎるのでは?」
「…私はこれまで商会を大きくするために働いてきた。その中で危険な目にも遭ってきた。商売敵に命を狙われたこともある。しかし、私はそれらを悉く退けてきた。要は、自分の命をチップにして、賭けに勝ってきたのだ。そして、おそらくこれがこれまでで最大の賭けになる。それを私は冒険者のヒコサブロウ殿に賭けることにしたのだ。心配してくれるのは有難いが、それは無用だ。私はこれで勝ってきた。そして今回も必ず勝つ。」
「…わかりました。私も覚悟を決めます。その期待に応えられるように…。」
「はっはっは。頼むぞ。」
「ご主人様、まもなくです。」
ラニエロさんが到着を知らせてきた。ファビアーノ氏は着ていたフードをその場で脱いだ。その仕草はまるで、これから戦場に立つ戦人のようだった。
―――――
「これより、ベルニ商会の緊急役員会議を始めます。まず議題ですが…。」
「みなに残念な知らせがある。」
ジルドの進行を途中で遮り、男が話し始める。ダミアーノ・ベルニ。ファビアーノ・ベルニの異母兄弟でベルニ商会の副会長を務める男だ。
「すでに聞き及んでいるかもしれんが、兄であり、この商会の会長であったファビアーノが亡くなった。どうやら商談に向かう途中で盗賊に襲われたらしい。孫娘のミーナも一緒にな…。」
「「「なんと…。」」」
反応を示したのはダミアーノの一派だけだった。ファビアーノ氏に属しているメンバーは、何の反応も示さない。否、示すことができない。ここで異を唱えようものなら、次は自分自身の番だと薄々感じているからだ。その証拠に、会議の場にはいつもはいない、武装した輩が出席者に見えるように配置されていた。
「それでは商会は今後どのように…。」
これも発言したのは、ダミアーノの一派だ。
「こうなれば仕方がない。みなが承諾してくれるのであれば、不肖、この私が会長に就任し、商会の舵を取りたいと思う。それがファビアーノの意志だと思うが、みなはいかがだろうか…。」
誰も何も言わない。この場合、沈黙は「是」であった。ダミアーノはふっと少し笑みをこぼすと、
「それでは反対もいないようだし…。」
「待て。」
「なんだ、グラート。何か意見があるのか?」
彼はグラート。ファビアーノ氏の側近にして、ファビアーノ派の筆頭だった。
「ある。そもそもその盗賊に襲われ亡くなった情報は確かなのか?」
「私を疑うのか?ああ、残念ながら確かな情報筋から得たものだ。」
「それであれば、まずファビアーノ様の葬式を済ませるのが先であろう。次の会長云々はその後の話だろう。」
「ふっふっふ。グラート、心配するな。葬式は身内でしめやかに済ませる。お前たちに迷惑はかけぬ。それよりも商会だ。商会の会長がこのまま不在であれば、混乱を来たすであろう。」
「茶番はよせ。どうせ、お前が仕組んだことだろう。お前は会長になりたがっていたことは、ここにいるメンバーは皆が知っていることだ。だが、まさかファビアーノ様を暗殺するとは…。気でも触れたか!」
「…。おい、言って良いことと悪いことがあるぞ。ジルド、どうやらグラートは、兄が亡くなっておかしくなったようだ。退出してもらえ。」
「はい。」
ジルドは短く返事だけをし、武装した輩に無言で合図する。奴らがグラートに近付く。その手は剣の柄に添えられていた。
「おい!寄るな!ダミアーノ、貴様!私まで殺す気か!」
「やれやれ、これでは会議にならんな。おい、ジルド…。」
彼が首を振った。それが殺せという合図であることは、ジルドは熟知していた。
輩が剣を抜き、彼に斬りかかる。誰もが目の前で起きようとしている惨劇に固まっていた。しかし、その剣は彼を斬ることはなかった。剣はカランと音をたて床に落ちたのだった。
「誰だ。私を抜きにして会議を始めたのは…。」
それはさっきまでダミアーノが死んだと言っていた、ファビアーノ・ベルニその人であった。
―――――
「なぜ…、兄上がここにいる!?」
ダミアーノは思わずジルドを睨み付けたが、彼は何も答えなかった。否、答えられなかったのだ。自分がグラートに向けた剣が一人の少年によって阻まれたのだから。
「なぜだと。それは緊急役員会議が行われると聞いたからだ。それよりも、なぜお前は私が死んだと嘘を言っているのだ?私はこの通り元気だぞ。」
「くっ…。私は兄上が盗賊に殺されたとジルドに聞いただけで…。」
ダミアーノは先程までの威勢を無くし、言い訳がましいことを口にした。
「ふっ。お前はいつもそうだ。権力欲だけは人一倍強いくせに、いつも詰めが甘い。そんな奴に会長の座は譲れん。今日限りでお前は商会から出て行ってもらう。」
「なに!?いくら兄上でもそれは横暴だろう。私はただ商会のことを思ってしたことだ。」
「ふん!笑わせる。何が商会のためだ。私が何も知らないとでも思っているのか?」
「なんだと…?」
「皆、これを見てほしい。これは奴がこれまで不正を働いたという明確な証拠だ。不正経理に横領。武器の横流しや禁制品まで売買している。これは明らかな商会への背任行為であり犯罪である。私は奴の罪を王国に告発し断罪する。」
「「「おう、これは…。」」」
さっきまでとは異なり、反応を示したのはファビアーノ氏の一派だった。一方でダミアーノの一派は何も言わない。いま断罪されようとしている罪に少なからず関わっているからだ。
「こ、これは、何かの間違いだ。誰かの陰謀だ。」
「何が陰謀だ。まあ、これまで私に尻尾を掴ませなかったのは、お前にしてはなかなかだったな。しかし、それも今日までだ。大人しく捕まるがいい。」
「く、くそっ。ここまできて諦めてなるものか。おい、ジルド!」
「はい。」
「ここにいるファビアーノとその派閥を消せ。私はまだ終われんのだ。」
ダミアーノの指示を受けたジルドが右手を挙げた。するとまわりの武装した輩が動き出した。そして奥からさらに武装した集団が現れた。
「ふん!これで形勢逆転だな。ファビアーノ!」
「ふっふっふ。だからお前は詰めが甘いというのだ。それではあとは頼むぞ。」
その言葉に頷き、一人の少年がファビアーノの前にでた。
「ふっ、ふっふっふ。気でも触れたか?ファビアーノ。そんなガキに何ができる?」
人数は21名か。まあ問題ないな。
「マルチプル」
「パラライズ」
「へっ…?」
ダミアーノは目の前で起きたことに理解が追い付かなかった。自分が用意させた、さっきまでの武装集団がその場に倒れ込んでいるのだ。
「ライトチェーン」
その少年が詠唱すると、光でできた鎖が現れ、ダミアーノとジルドを拘束した。
「これでよろしかったですか?」
「はっはっは。助かった。ヒコサブロウ殿」
彼は賭けに勝ったことを確信したのか、豪快に笑っていたのだった。
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