第41話:とりあえず、商人を護衛する⑤
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「どうか私たちを王都まで送り届けてはくれないか?」
その姿は、孫娘を想う一人のお爺さんに見えた。
「どうか、頭を上げて下さい。事情はわかりました。どこまで力になれるかわかりませんが、できる限りのことはやってみます。」
「ありがとう。よろしく頼む。」
「バートさん、勝手に決めてしまいましたが、これで良かったでしょうか?」
「はっはっは。ここまできて辞めるというわけにもいかねえだろ。お前に付き合ってやるよ。一緒にがんばろうぜ。」
「ありがとうございます。」
とりあえず話はまとまった。ファビアーノ氏とミーナを王都まで無事に送り届け、あわよくばダミアーノの計画をご破算にするということになった。単なる護衛依頼が何とも大きい話になってしまった。最近ずっとこんなことが続いている気がする。正直、神様に運も上げてもらえば良かったと少し後悔している(笑)。
ここからどう動くか。まずは捕まえた暗殺者たちをどうするべきかというのが議題だった。魔法で指示役の名前はわかったが、証拠はどこにもなかった。かと言って街の衛兵に突き出しても、ダミアーノまでは辿り着かないだろうし、仮に供述が引き出せたとしても、やはり証拠がなければ、向こうに否定されて終了だった。それに暗殺として差し向けられた面々。簡単に口を割るとも思えないし、最悪本当に自害する可能性も否めなかった。ファビアーノ氏も同じ考えで、正直扱いに困っている様子だった。
「ファビアーノ様。私に一計があります。」
「ほう。どんな?」
「奴らを釈放しましょう。」
「そんなことをすれば、また暗殺に差し向けられるのではないか?」
「はい。ですから、少し手を加えます。催眠魔法で私たちの暗殺に成功したと報告させるのです。」
「なんと、そんなことが可能なのか?」
「限定的ではありますが…。いずれバレるにしても時間は稼げるかもしれません。」
「わかった。ここはヒコサブロウ殿に任せる。」
私は捕らえた暗殺者たちの前に立った。彼らはまだ意識が混濁している。コンフェッションと同様、催眠魔法をかけるのには最適だった。
「出でよ、惑わしの小人よ。我が求むは麗しき精霊。」
地面に展開された魔法陣から、可愛らしい羽の生えた精霊が現れる。精霊族の一種であるピクシーだ。
「こんばんは。ご主人様。私に何か御用ですか?」
「やあ、ルタン。夜遅くに悪いね。」
「いえいえ。ご主人様のためならどこからでも来ますよ。」
「ふふふ。ありがとう。」
「あれって精霊魔法じゃ…。」
アンナさんが驚きの表情をしていた。何か前にもこのやり取りをしたような…。まあいいか。
「じゃあ、ルタン。この人たちに催眠魔法をかけて。私たちの暗殺に成功したって。」
「ええ~、そんな物騒な催眠をかけるんですか?ご主人様も、お人が悪いですね。」
「ははは。まあ、こっちもいろいろあってね。いけるかな?」
「それぐらいお安い御用です。」
ルタンは暗殺者にまとめて催眠魔法をかけ、「じゃあ、また~。ご主人様。」と言って消えていった。
催眠魔法をかけられた暗殺者たちは、目を覚まし、こちらに何も言わずその場を去っていった。暗殺対象が目の前にいるのに、何もしないということは、催眠魔法は効いているようだ。
暗殺者たちが去った後、私たちは少し休息を取り、明け方にコザシェヒルに向けて出発した。
―――――
ここは王都にある屋敷の一室。
屋敷は王都の中でも大きい部類に入り、多くの使用人が働いている。まるで大貴族のような屋敷だった。しかし、ここの所有者は貴族ではない。言ってしまえば一介の商人だ。
夜の闇がその帳を下ろし、外も静まり返った時刻。その一室で一人の男性が、ソファが沈むくらい太った身体をソファに預け、酒を飲みながら、目の前に立っている男に話しかけていた。
「ジルドよ。どうだ首尾は?」
「はい。先程差し向けた暗殺部隊が戻って参りました。暗殺には成功したようです。」
「うん?成功したようだというのはどういうことだ?」
「はい。ウーゴはファビアーノの首を持ってきませんでした。」
「ふん!詰めが甘い。それでこちらが信用すると思っているのか?」
「はい。ですので奴とその一派はこちらでいつも通り始末しておきました。」
「まあいいだろう。使えない犬は捨てるに限る。まあこれで本当に奴が死んでいたら儲けものだ。」
「しかし、どうされますか?ファビアーノはコザシェヒルに向かったと報告にありましたが…。あそこには…。」
「おい、それ以上迂闊なことは口にするな。お前もウーゴの二の舞にはなりたくあるまい?」
「…申し訳ありません。」
「ふん。それよりも役員会議の準備を進めておけ。金はいくらかかっても構わん。こちらの派閥を増やしておくのだ。」
「はい。ファビアーノに追手はもう出さなくてよいので?」
「もういいだろう。こちらの派閥が増えれば、仮に奴が生きていたとしても、こちらが主導権を握ることができる。その後であれば、奴の命などどうにでもなる。」
「かしこまりました。」
その男性はもうそれで話は終わったと、男に下がるように手で振った。虫でも追い払うように。そしてまた酒に口をつけたのだった。
―――――
その後、私たちは特にトラブルもなくコザシェヒルに到着した。バシュラト程ではないが、それなりに活気のある街だった。
私たちはすぐさまファビアーノ氏と同じ宿に入った。私たちの宿も手配してくれたようだ。そして、彼の部屋で今後の対応策を練ることにした。部屋にはファビアーノ氏とバートさん、私しかいない。
「ファビアーノ様。とりあえずコザシェヒルには着きましたが、このまま王都に向かうのですか?」
「いや、このまま王都に向かっても、おそらく役員会議で勝つことはできまい。いまや奴の派閥が私の勢力を上回っていると言っても過言ではない。」
「ということは何か策があるのですね?」
「うむ。その通りだ。ここに来たのは、私が役員会議に興味がないと、奴の目を欺くためでもあったのだが、暗殺者を差し向けてくるあたり、あまり意味は為さなかったようだ。そうすると残された手は一つしかない。」
「ダミアーノの不正の証拠をつかむと…。」
「そうだ。実はここには奴の拠点があるらしくてな。そこにはおそらくこれまでの不正の証拠が残っているはずだ。」
「あるらしいというのは…。」
「その情報は私の信頼する部下からもたらされた。ここに奴の拠点らしきものがあるとな。」
「それではその部下という方に確認すればいいのでは?」
「それがな…。彼はそれを言った翌日に川で遺体となって発見された。街の衛兵は事故として片付けたが、おそらくは…。」
「殺されたと…。」
「ああ。だからここからは自分たちで捜索するしかない。」
「なるほど…。」
「それにもう一つ問題がある。役員会議まであまり時間が残されていないことだ。ここから王都までの移動時間を考慮した場合、捜索に使える日数は3日間程度だ。」
「そうですか…。とりあえず今日からでも動き出すしかないですね。」
「ああ。こちらも護衛隊を使って捜索したいが…。」
「それは得策ではありませんね。一応ファビアーノ様は死んでいることになっていますので…。ここはミーナお嬢様とおとなしくしていて下さい。捜索はこちらで何とかしてみます。」
こうして時間も手掛かりも少ない中、ダミアーノの拠点捜索が始まった。
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