第40話:とりあえず、商人を護衛する④
ブクマありがとうございます。
何とか第40話まで投稿できました。
次は第50話を目指してがんばります。
闇の中を蠢く人影は確実にこちらに近付いていた。こちらはバートさんやアロルドさんをはじめ、臨戦態勢だ。向こうもこちらの態勢に気付いているのか、隠れる気はないらしい。大胆にもその姿を月下に晒しながらこちらにゆっくりと近付いてくる。服装はまさに黒装束。前世の世界での忍者みたいな恰好だ。この世界にもそれに近い存在がいるのだろうか。顔は装束で直接確認できない。
「バートさん、アロルドさん。気配はこの方向からしか感じません。」
「そうか、わかった。ファビアーノ氏とお嬢様は護衛隊が守っている。そうですよね、アロルド殿。」
「ああ、向こうは問題ないはずだ。私たちはこっちに集中しよう。」
相手の数はやはり20人程。こっちは、護衛隊含め10人程度。戦力的には倍の開きがある。ここは初手が大事になるだろう。
「相手から殺気は感じますが、まだ襲撃の意図がよくわかりません。とりあえず、初手は私がやっても?」
「ああ、いいぜ。アロルド殿もよろしいか?」
「…わかった。領主様が推薦した実力、見せてもらおう。」
「わかりました。」
私は一歩前に出て、奴らに魔法を発動する。
「マルチプル」
「パラライズ」
その魔法を放った瞬間、黒装束の集団はその場に倒れ込む。一人を除いては。こちらは情報が欲しかったから手加減したが、熟練度10の麻痺魔法に耐えるなんて、相当の手練れだな。
そいつは何も言わずに、こちらに襲いかかってきた。しかし麻痺魔法が効いているのか、その動きは緩慢だった。相手の短刀を避け、身体に直接触れて、再度麻痺魔法をかける。麻痺魔法は相手に直接触れると、その効果を高めることができる。そいつは身体を震わせながら、他の奴らと同じようにその場に倒れ込んだ。
―――――
「ご主人様、こいつらは…。」
「そうだな…。間違いあるまい。」
もう他に襲撃の心配はないと判断した私たちは、奴らを縛り上げ、顔を隠していた装束を剥がした。一人一人灯りで顔を照らす。まだ麻痺魔法が効いているせいで、奴らはまともに話すことができない。最後まで抵抗したリーダー格らしき男も同様だった。しかし、ファビアーノ氏とアロルドさんは、その顔を見知っているようだった。
「ファビアーノ様。この集団をご存じなのですか?」
「………。」
「悪いが、それを答えることはできない。ご主人様にもいろいろ事情があるのだ。」
「何か複雑な事情があるのは、こいつらを見れば推測できます。しかし、私たちが受けたのは護衛依頼。それは依頼主を安全に目的地まで送ることが最優先されます。当然、道中でモンスターや盗賊に襲われることは想定できますが、こいつらは明らかにそれらとは一線を画しています。何か隠していることがあれば、教えて頂けませんか。事情を事前に知っているか否かで、安全確保の確率が断然違うと考えます。」
「ヒコサブロウの言う通りです。私たちも何も事情を聞かされなければ、守れるものも守れませんし、事前に対策を講じることもできません。」
「………。そうだな。確かにあなたたちの言う通りだ。」
「ご主人様!?」
「いいのだ、アロルド。奴らがついにここまでのことを仕掛けてきたのだ。私とミーナは何としても生き残らなければならない。そのためにも彼らの力が必要だ。特にヒコサブロウの能力は領主様の推薦通りだ。ここは事情を知ってもらうべきだと判断した。」
「…。承知しました。」
「場所を変えて話そう。ヒコサブロウ、申し訳ないが、君のテントを使わせてもらっても?」
「はい。それは構いません。しかし、その前にいいでしょうか?」
「うん?なんだ?」
私はファビアーノ氏の問いには答えず、襲撃してきた集団のリーダー格らしき男の前に立つ。そいつはまだ口から泡を吹いており、意識はほとんどなかった。これなら問題ないだろう。私は男の頭に触り魔法を唱えた。
「コンフェッション」
闇魔法に属するコンフェッション。この魔法は相手の考えや思い出を強制的に引き出す魔法だ。特に相手の意識が混濁や喪失している状態では効果を発揮する。同じ効果をもたらす闇魔法のリメンバーよりも強制力が強い。
とりあえず、奴らから情報を引き出すことが最優先だと考えたのだ。前世の忍者みたいに尋問中に自害でもされたら厄介だからな。
数分後。私は彼から情報を引き出し、ファビアーノ氏のもとに戻った。そして彼らと自身のテントに入った。安全のため、ミーナもそのメンバーに加わっている。
「ヒコサブロウ、さっきの魔法は…。」
「あれは相手から情報を引き出すための魔法です。とりあえずあいつらが自害等をする前に得られる情報は欲しかったのです。」
「なるほどな。ヒコサブロウは冷静沈着に物事に取り組めるようだ。それで情報は得られたのか。」
「はい。どうやらあいつらはファビアーノ様とミーナお嬢様の暗殺を依頼された集団のようです。」
「やはり…。それでそれを依頼したのは…?」
「はい。ジルドという人物のようです。」
「そうか…。」
「ファビアーノ様、やはりその人物のことを…?」
「ああ知っている。ジルドはダミアーノの右腕となっている男だ。」
「ダミアーノ?」
「私の弟だ。まあ母は違うがな…。」
「「!?」」
「それでは、弟に命を狙われたと?」
「まあ、そういうことになるな…。」
「やはり、何か複雑な事情があるようですね。」
「まあ、複雑と言えば複雑だが、話は単純だ。奴は私の代わりに商会を我が物にしたいのだ。」
「それは…。」
「今から約20年前。商会の創立者であった、父デルフィーノが病気でこの世を去った。その時に誰が商会を引き継ぐかでひと悶着あったのだ。私は父の妻、つまり正妻と言えばわかりやすいか、母の子供であった。一方、奴は父の妾の子供であった。だが、父は私たちを同じように愛してくれ、私たちも仲が良かった。
だが、母とその妾はそうではなかった。特に妾は自身の立場に納得ができず、次第に母を害するようになった。それを重く見た父は、妾を家から追い出した。その時、まわりからは、ダミアーノも一緒に追い出すべきという意見もあったと聞くが、それを父はできなかった。子供に罪はないとな。
しかし、いざ父が亡くなり、遺言によって私が跡継ぎと決まると、奴は次第に牙を剥くようになった。私が奴を商会の副代表にしたが、それでも奴は満足しなかった。やはり母を追い出されたことが、子供心ながらに堪えていたのだろう。」
「それで、最終的には命を狙うまでになったと…?」
「まあ、結論で言えばそういうことになるな。実は商会はいま二つに分かれている。私と奴の派閥にな。商会の人間の中には、奴の派閥に属して甘い汁を吸いたい連中がいるのだ。」
「しかし、いくら派閥が分かれていると言っても、まさか暗殺まで仕掛けてくるとは…。」
バートさんの言うことも一理あった。
「それはお互いに明確な決着を付けないまま年齢を重ねたことが原因だ。奴は自分が商会の代表になり、息子に跡を継がせる気なのだ。」
「そういえば、ミーナお嬢様の、その、ご両親は…。」
「ああ、亡くなっている。母はミーナを産んだ際に。そして父は病死だ。しかし、その父の病死は突然だった。それまで健康で病気を一切してこなかった息子が、突然死ぬとは考えられない。おそらくは…。」
「ダミアーノのせいだと?」
「確証はないがな…。」
ミーナは自身の手をぎゅっと掴んで震えていた。それは悲しさを表すようでもあり、悔しさを物語っているようにも見えた。それを気にしながらも、彼は話を続けた。
「実は今回のコザシェヒル行きはダミーだ。本当の目的地は王都だ。奴はいま王都にいる。奴は今度の商会役員会議で商会の転覆を図る気だ。しかし、それを実際にやってしまうと商会の名にも傷が付くことになってしまう。だから奴は私が王都に着く前に消したいのだ。今回の件でそれがはっきりした。
これまで奴のしてきたことを明らかにしようとしてきたが、奴は用心深く尻尾を掴ませなかった。だから、私はこの時期に出掛け、奴の出方を見ようと試みた。護衛を最低限にし、ミーナを危険な目に遭わせる可能性を踏まえた上でな。
だが、私の思った以上に事態は逼迫している。ヒコサブロウ、いや、ヒコサブロウ殿。どうか私たちを王都まで送り届けてはくれないか?」
そこには商会の会長であり、孫娘を想う一人のお爺さんの姿があった。
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