第36話:とりあえず、鍛冶を試す。
鍛冶。様々な材料を鍛錬してものを作る行為だが、私は鍛冶レベルが最上位の10(ステータス表示では3)である。鍛冶神にみっちり鍛えてもらった。それに魔法付与の能力もあるため、鍛冶神と魔法神からはいろんな強力な武具が作れるぞと太鼓判を押された。
しかし、それをこれまで活かすことができなかった。何故か。それは自身が持っている武具がこの世界でもトップクラスの有能さを持っていたからだ。本当は自分の武具を製作するというイベントも欲しかったが、神様が餞別でくれた武具があまりにも優秀過ぎたため、それを披露する機会がなかったわけだ。
「ねえ、ヒコサブロウって、鍛冶スキルもあるの?」
「えっ、どうしたの?急に…。」
ここはいつものギルドの酒場。依頼帰りに立ち寄ると、ちょうどミナとセレンがいたので、相席をさせてもらった。その中で急に出た話題だった。
「いや、もし持ってたら、この手甲を整備してくれないかなと思って。もちろんお代は払うから。」
「一応鍛冶スキルもあるけど…。」
「おう、やっぱりヒコサブロウは優秀なんだね。」
「でも、ミナ。いつも使ってる武器屋とかあるでしょ?そこで整備とかお願いしないの?」
「それがね。いつもの武器屋で整備を依頼したんだけど、他の商品を勧められちゃって。そろそろガタがきてるからって…。」
「じゃあ、買い替えれば?冒険者にとって武具は命を守る大事なものだから、あまりケチらない方がいいと思うけど。」
「それはわかってるんだけどね…。この手甲って、私が冒険者になる時に初めて買ったものだから、思い入れもあってね。最後にあと1回ぐらいは使いたいかなと思って。」
「そういうこと。それで僕に整備を?」
「うん。もしスキルを持ってるなら一度見てほしいなと思って。もちろん本当に限界が近付いているなら、新しいのを購入するよ。」
「お姉ちゃん、この手甲には思い出があるみたいで、まだ踏ん切りがつかないんだよね。だからもしヒコサブロウが判断してくれたら、踏ん切りもつけられるかなと思ったみたいで…。」
「なるほど…。そういう事情ならわかった。僕でよければ見てみるよ。」
「本当!?ありがとう。」
「じゃあ、明日ギルドで。」
それでこの話は打ち切りになった。あとはお互いの近況やたわいのない話をして解散となった。
翌日。
いまギルドに隣接する鍛冶場にいる。余談だが、ギルドには受付や依頼達成等の確認を行う本業スペースと冒険者が飲食する酒場、そして隣接するかたちで鍛冶場が存在する。冒険者にもよるが、自分の武具を自分自身で整備する者も一定数いる。だけど、その度に鍛冶屋から場所を借りるのは煩雑ということで、決して広くはないが、こうやって冒険者が運営する鍛冶場があるというわけだ。使用料もそこまで高くなく良心的である。こういうことからも、この街で冒険者という職業が必要とされているかが伺える。
「はい。これが私の手甲。」
「うん。とりあえず見てみるよ。」
ミナの手甲をまじまじと見るのは初めてだ。所々に細かい傷はあるが、よく使い込まれ、整備をされている。ただ、最近の戦闘が激しかったせいか、やはり耐久性の低下は否めないようだ。
「ねえ、どう…?やっぱり交換の時期かな…?」
彼女は不安そうな眼差しを向ける。
「そうだね…。確かにこのままだと戦闘中に壊れてしまう可能性は否めないな。」
「そう…。」
「でも、完全に壊れているわけじゃなくて、ちょっとガタがきてる程度だから、ここにある材料を使って、全体的な補強はできると思うよ。幸い埋め込まれている魔石も無事みたいだし。」
「本当!?じゃあお願いできる?もちろん材料費とかは全部払うから。」
「わかった。ちょっとやってみるよ。少し時間かかるから酒場とかで待ってて。」
「うん。わかった。ありがとう。」
そう言って、ミナとセレンは鍛冶場から離れていった。
―――――
「カンカンカン」
鍛冶場に規則的な打刻音が打ち響く。ミナから手甲をもらい、まずはそれをよく観察するところから始めた。ミナは身体能力強化という特殊魔法を使うが、この左右それぞれ中央に埋め込まれている魔石がその媒体だろう。幸い魔石自体に不備はないため、まずはまわりの金属部分から補修することにした。
鍛冶場にはある程度の素材が置かれており、ここの素材を使用する場合は、前払いで専用受付で購入する必要がある。私は普通の鉄を購入し、手甲の金属部分を補強し始めた。「耐久強化」と「物理攻撃強化」という特殊魔法を付与しながら…。
また余談になるが、普通の鉄製品に魔法を付与することはできない。それは製品自体が魔力媒体ではないからだ。一般的に魔法を付与できるものは魔石やミスリル等の魔力媒体となり得る特殊金属のみだ。しかし、私にはそれが出来てしまう。鍛冶神との修行で技能自体がバグってるというのもあるが、私の魔法付与は厳密に言えば「付与」ではない。あくまで製品自体に「纏わせる」能力だ。これであれば魔力媒体とはならない製品にもこのように魔法を付与することができる。
そしてこの「纏わせる」能力は別の利点も生む。それは魔石との相性が無関係という点だ。魔法に属性があるように魔石自体にも属性がある。したがって、魔法を発動する武器は、埋め込まれている魔石の属性に係る魔法しか発動できない。例えば、水属性の魔石からは雷属性の魔法は発動できないし、当然、雷属性の魔法を付与することもできない。
特殊魔法の場合は少し厄介で、特殊魔法属性の魔石自体は存在しないため、一般的に「無属性魔石」と言われる「何の属性も持たない魔石」に付与する必要がある。ちなみに魔石自体にも当然強度があり、こまめに手入れをしていても、どうしても魔石に寿命がきてしまう。魔法武具は魔石の寿命が武具の買い時だと言われる所以だ。そしてこの「無属性魔石」は他の属性魔石に比べて強度が著しく弱いというのも欠点なのだ。しかし、私の場合はあくまで魔法を「纏わせる」だけなので、魔石自体の寿命は関係ない。大げさに言えば、いろんな属性の魔法を付与し放題ということだ。それは魔石以外の金属部分も同様である。
閑話休題。
というわけで、約3時間かけてミナの手甲整備は終了した。まずは金属部分を補修と「耐久強化」「物理攻撃強化」の魔法付与。そして魔石に対して風属性魔法の付与を行った。物理攻撃強化に風魔法の攻撃を付け加えれば、強力な一撃を加えることができる。
この世界で第一号となった私の武具は、我ながら良い出来だと思う。
―――――
「ミナ、お待たせ。これでいいかな?」
「えっ…。これって…、本当に私の手甲?何だか別の武具みたい。」
「そう?確かにデザインは少し変えたけどね。あと魔法付与もしたしね。」
「「えっ…。」」
ミナとセレンが目を丸くしてこちらを見ている。
「あっ…、やっぱりデザインは変えない方がよかった?まあ変えたのは手甲の裏の…。」
「いやいや、違う違うって。魔法付与って何?」
「だから…魔法を付与したってこと…?」
「いやいや、言っちゃなんだけど、この手甲に使われている魔石は、そんな魔法付与に耐えられる程の強度はないはずだけど…。」
「ああ、厳密には魔法を付与というより纏わせた感じだから、そこは気にしなくていいよ。」
「えっ…、纏わせる?ダメだ。話に付いていけない。セレン、わかる?」
「お姉ちゃん、私も理解できない…。」
「ちなみに金属部分にも特殊魔法を付与しといたから。」
「「はっ…?」」
彼女たちはまた目を丸くしていた。こちらに向ける眼差しからは疑惑が感じられる。
「いやいや、それこそおかしいって。だってこの金属部分はただの鉄だよ。」
「ごめん、ごめん。付与じゃなくて纏わせただけだから。」
「だからその纏わせるって何よ…。」
「ねえ、ヒコサブロウ君。ちなみに何の魔法を付与したの?」
「えっ。金属部分に『耐久強化』と『物理攻撃強化』、魔石に『風魔法』。だから戦闘中の攻撃力は格段に上がるし、魔力が持てば『ウインドアロー』みたいな魔法も放てると思うよ。」
「「………。」」
彼女たちはもう何も言わなかった。ミナは「これって、もしかしてすごい高価な武器なんじゃ…」と戦々恐々していたが、お代は材料費と手数料しかもらわなかった。それに対して彼女は「何か使うのが怖い。」と言っていたが…。
後日、ミナと会った時、手甲の使い具合を訊いてみたところ、「これは規格外過ぎる!」と喜びと驚きが入り混じったような感想を頂いた。
まあよしとしよう。
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