第35話:とりあえず、ビルの秘密を探る(孤児院⑫)
長くなりましたが、孤児院編 終了です。
何者かにルーカスと呼ばれていた男。地下室に閉じ込められたという子供たち。子供たちにとって楽しい遠足のはずだったのに、小屋から聞こえてくる会話は物々しいものだった。
「ルーカスっていうのは院長のことだよね?ビル。」
「ああ、あの声は院長のものだ。」
そうだとすると院長と話しているのは誰だということになる。それに子供たちが置かれている状況もいまいちはっきりしない。私たちは二人の会話に耳を傾けた。
「それにしても、今回はしくじったな、お前。せっかく地主の息子を脅して孤児院に不当な金額を請求させ、それを払えず孤児院は閉鎖。ガキたちは路頭に迷って、俺らに売られるという算段だったのに、領主の野郎の介入を許すとはな。これで商売がやり辛くなったぜ。」
「す、すみません。エゴンの旦那。まさかあの冒険者が領主とつながりがあるとは思わなくて…。」
「だから甘いって言ってんだよ!結局ガキたちを連れ出したのもギリギリになりやがって。いま孤児院は大騒ぎらしいぞ。しかもどうやら冒険者の野郎は、領主の依頼をクリアしたらしいからな。ガキたちの失踪も遅からず奴の耳に入るだろう。はあ、まったくガッカリだぜ。お前の才覚のなさはよ~。」
「す、すみません。」
「まあ、いい。明朝にはガキどもを奴隷市場に連れていく。ガキ自体は男女含め中々のものがいるようだから、それなりの利益になるだろう。しばらくはこの金でトンズラできるぜ。」
「あ、あの、私の分け前は…。」
「あ?てめえの分け前だぁ?これだけしくじっておきながら、分け前を要求しようってか。」
「は、はい。一応その約束で子供たちを連れ出した訳で…。」
「………。まあ、そうだよな。お前にも分け前をやらなきゃ不公平だわな…。おい、ゲルト。」
「はっ。ほらこれがお前の分け前だ。」
「あ、ありがとうござい、ぐはっ…。」
「お前みたいな鈍くさい奴にはお似合いの報酬だろう。先にあの世に送ってやるぜ。」
「そ、そんな…。ち、ちきしょう…。」
「へっ!何がちきしょうだ。一丁前にほざきやがって。おい、ゲルト。こいつを片付けておけ。」
「はい。」
ゲルトと呼ばれた男、ルーカスを殺した男は、その死体を小屋の外に無造作に放り出した。
その光景は私たちの位置からも見ることができた。
「とりあえず孤児院の子供たちはここにいるとみて間違いないね。」
「そうですね。それにしても奴隷として売るつもりだったとは。ルーカスっていう男は裏でロクでもないことをしていたのですね。」
「院長、いや、奴は孤児院の子供たちどころか、その運営にも全く興味を持っているようには見えなかった。イルザさんが金策に走っている間も、虎視眈々と子供たちを売ろうとしていたのだろう。当然の末路だ。」
「とりあえずどうする?このまま乗り込む?」
「ちょっと待って。シルフィーネ、小屋の中にいる人数はわかる?」
「はい。主。地下室があるようですが、子供たち以外だとすると10名程度かと。」
「そうか、わかった。そのまま見張りを続けて。」
「はい。」
「ここからは二手に別れよう。エミーリア、アイラ、ハーレは領主に報告して、衛兵を連れてきてもらってほしい。奴隷商人を現行犯で捕縛してもらおう。」
「わかりました。父への報告はお任せ下さい。」
「残りのメンバーは、このまま見張りを続けよう。ただ、向こうに動きがあれば、先に乗り込むかもしれないから、そのつもりで。」
「ああ、わかった。」「俺もわかった。」
―――――
二手に別れてから1時間程経過しただろうか。まだ衛兵たちはこちらに到着しない。やはりある程度時間を要するようだ。まあエゴンと呼ばれていた男の話では、子供たちの連行は明朝と言っていたから、まだ時間はある。
そう思っていたが…。シルフィーネを通して、小屋の会話が聞こえてきた。
「お頭。向こうから手紙が来ました。」
「ああ?手紙?見せてみろ。」
「………。ちっ。向こうもせっかちだな。今晩中にガキどもを連れてこいとさ。しゃあねぇ。今からガキどもを連行するぞ。この分は売値にきっちり反映させてもらうとするか。おい、ゲルト。地下室に行って知らせてこい。」
「はい。」
「どうする?まだ衛兵たちを待つか。」
「どうやらタイムリミットのようだ。こちらから乗り込むしかないな。二人とも準備はいい?相手は手練れかもしれないけど…。」
「問題ない。これでも鍛練は積んできたつもりだ。それに冒険者になった時から覚悟もできている。」
「俺も問題ないよ。」
「じゃあ、初手はシルフィーネにやってもらう。せまい小屋の中での戦闘にはなるが、相手が動揺している内に、素早く制圧しよう。エゴンと呼ばれている男はできるだけ生け捕りで。」
「ああ。」「OK。」
―――――
私たちは奴らに気付かれないように、小屋に近付いた。小屋の扉には見張りがひとり付いている。
その見張りの前にシルフィーネが現れる。
「あ、なんだこりゃ…。」
ドォーーーン。
シルフィーネの風魔法が小屋の扉を見張りごと豪快に叩き壊した。見張りは声を上げることなく絶命した。身体はバラバラに粉砕されていた。中から叫び声が聞こえるが、それに構うことなく、私たちは小屋に侵入する。
「なんだてめえら!」
「お前がエゴンだな?」
「だとしたら何なんだ。てめえは何者だ!」
「名乗る必要はない。ここは僕に任せて、他は地下室に行って。シルフィーネも付いていって。」
「はい、主。」
ジャンとビル、そしてシルフィーネが地下室に続くであろう階段を下りていった。戦闘音も聞こえ始めている。シルフィーネがいるからおそらく大丈夫だろう。
「てめえ…、ルーカスが言っていた冒険者か?」
「だとすればどうする?ここには街の衛兵も向かっている。もう観念するんだな。」
「観念…観念か。そりゃ困るな。まだ死にたくねえからなー!やれっ、ゲルト。こいつを殺してずらかるぞ。」
ゲルトは剣に手をかけ、殺気を出してこちらに向かってきた。中々の手練れのようだ。しかし…。
「ふん!」
私は彼が振り上げた腕を真っ二つに斬った。こちらは100年間神様に修行された身。その程度の力量に負ける謂れはない。
右腕を失った彼は、最初何が起こったのかわかっていなかったが、目の前に自身の右腕が落ちているのに気づき、絶叫した。私はその絶叫が終わらない内に、彼を切り伏せた。
「な、な、何者だ、てめえは?」
「さっきも言っただろう。名乗るつもりはないと。スリープ。」
私はエゴンを睡眠魔法で眠らせた。地下室の方も無事に終わったようだった。
―――――
「はっはっは。ヒコサブロウはいろんな事件を解決してくれるな。まさかエゴンの一味を討伐してくるとは。」
場所は領主の館。この場には領主と私、エミーリア、そして執事の4人がいる。
「そのエゴンという男は有名な奴だったのですか?」
「ああ、違法な奴隷売買に手を染めているという報告は受けていたが、中々尻尾が掴めなくてな…。こっちでも慎重に内定を進めていたところだった。」
「そうとは知らず、勝手なことをしてしまってすみません。」
「いや、君のおかげで現行犯で奴を捕縛することができた。これからの捜査で奴隷売買の全容も見えてくるだろう。それからこれは報酬だ。」
領主が机の上に小袋が2つ置かれる。
「報酬ですか…?」
「君が殺したゲルトという男は賞金のかかった殺し屋でな。金額は100万テーレ。それを討伐した証だ。それに今回の件を上乗せしている。上乗せ分は今回の件に携わった者と分けるなりしてくれ。」
「はい。ありがとうございます。」
「もう一つは、エミーリアを同行させた世話代だ。どうだ、エミーリア。勉強になったか?」
「はい、父上。冒険者稼業というものがどういうものか肌で感じることができ、とても勉強になりました。それにヒコサブロウの能力の高さも目の当たりにしました。」
「エミーリア、それは言い過ぎだって。」
「聞いたか、ハンス。娘はお互いに呼び捨てできるほどの友人ができたようだ。」
「はい。よろしゅうございました。」
「あっ、すみません。つい…。」
「いやいや気にするな。娘は君を気に入っているようだからな。」
「ちょ、ちょっと父上お止めください。」
彼女は頬を赤くして、領主はそれに優しい眼差しを見せていた。それは領主ではなく、一人の父親としての眼差しに思えた。
―――――
「ビルお兄ちゃん、こっちだよー。」
「待て。逃げられると思うなよ。」
「うわー、来たー。みんな逃げろー!」
孤児院は領主との約束通り裏道から移設した。新しい院長にはイルザさんが就任し、これからは領主からも定期的に援助が受けられることになった。イルザさん、いや、院長からは何度もお礼を言われたが、すべてビルのおかげだと言っておいた。実際にビルの子供たちを想う気持ちが今回の結果に繋がったのだから。
新しい孤児院の広場には、いつまでも元気な子供たちの笑い声が響いていた。
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