第34話:とりあえず、ビルの秘密を探る(孤児院⑪)
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孤児院から子供たちがいなくなった。
ミナとセレンからそんな衝撃的な事実を告げられたのは、もうすでに夕刻に差し迫ろうとしていた時だった。魔物調査が無事に済み、これで孤児院の問題も解決だなと思っていただけに、これは大きな衝撃だった。彼女たちもどうしたらいいのかわからずに動揺している。
「それで?イルザさんやビルは?」
「みんな中にいるよ。ビルは『俺が探しにいく』と言って、今にもここを飛び出そうとしているけど…。」
「そうか…。とりあえず話を聞きにいこう。」
イルザさんを始め、みんなが広間にいた。セレンの言う通り、ビルは今にも飛び出そうとしていて、それをアイラたちが引き留めていた。イルザさんは真っ青な顔をして、両手を胸の前で握りながら、それを見ていた。明らかに動揺している。
「イルザさん、話は伺いました。子供たちがいなくなったというのは確かですか?」
「あ…、ヒコサブロウ君。え、ええ…。」
「具体的にどういうことなのですか?」
「ええと…。」
彼女は混乱しながらも状況を説明してくれた。
昨日院長のルーカスさんが孤児院を訪れ、突然子供たちと泊りがけで遊びに行くと言い出したそうだ。彼女は孤児院が明日どうなるかわからない状況で、そんなことをしている余裕はないと、彼の案に難色を示したが、こういう時こそ子供たちには笑顔でいてもらうべきだと言われたそうだ。普段は孤児院にも来ない彼が、そんなことを言うのは妙に感じたが、確かに彼の言う通り、最近の子供たちには元気がなかったのも事実だった。子供たちも自分たちの孤児院が危機に瀕していることを薄々感じ取っていると思った彼女は、彼の案を渋々承諾したと言った。
結局、昨日の昼頃から子供たちは彼に引率され、街外れの湖に出かけたそうだ。彼女自身も引率を申し出たが、彼からいつも孤児院のために働いてくれているから、たまには休んだ方がいいと、これも普段の彼なら絶対に言わないセリフで諭されものの、それに従ったという。
しかし、帰宅予定の今朝になっても、彼も子供たちも戻ってこなかった。きっと子供たちは楽し過ぎて、少し時間がオーバーしているだけだと思ったらしいが、正午を過ぎても、一向に戻ってくる気配がない。時刻が夕刻に差し迫った時、ビルたちが訪問して、それをきっかけに不安が大きくなり、子供たちが行方不明になったと思い始めた。そして現在に至る。
「状況はわかりました。それなら私たちでその湖まで様子を見てきます。」
「あ、ありがとうございます。助かります。」
「俺も行く…。」
「ビルも動揺してるから、本当はここに残っていった方がいいと思うけど…。仮に何があっても冷静でいられる?」
「…約束する。」
「わかった。じゃあ僕とビルのパーティーで様子を見に行こう。ミナとセレンは念のためここに残って。」
「わかったわ。」
「エミーリアは…。」
「まさか、私を置いていくなんてことありませんよね?」
「うっ…。やっぱりそうきます?」
「はい。私も魔物調査を一緒にしたメンバー。調査が終わったとはいえ、最後まで仕事はやり通したいです。」
「もしかしたら危険なことになるかもしれませんよ?」
「大丈夫です。それにいざとなったら、ヒコサブロウがいますしね。」
「…その信頼にお応えできるようにがんばります。」
「ふふふ。」
「話は終わったか?さっさと行くぞ。」
「ちょっと待って。これから夜になるから、一応それなりの準備をしていこう。」
私たちは捜索が夜になることを踏まえ、しっかり準備した上で湖に向かった。
―――――
さほど街から離れていない場所に湖はあった。空はもう夜と言っても過言ではない程度暗くなっている。
「ここが湖か…。確かに院長や子供たちの姿は見えないね。」
「確かにそうですね。もしかして行き違いになったのでしょうか?」
「それはどうだろう…。街とこの湖の間はほとんど一本道だったし、行き違うにしても、どこかで遭遇するんじゃないかな。」
「それなら、あの奥にある林に行ったんじゃない?」
アイラの言う通り、湖の奥には雑木林が見える。薄暗い空のせいか、その雑木林は少し薄気味悪く感じた。
「うーん…、どうだろう…。まあ確かにあそこで子供が迷子になる可能性もあるけど、全員がいなくなるなんてあるかな?」
「それは考えにくい…。いくら子供とは言っても年長者もいて、それなりにしっかりしている。院長もいることを考えると、いくらなんでもこんなに時間はかからないと思う。」
「ビルの言う通りかもね。とりあえず、何か手掛かりがないか、まずは湖の周辺を捜索してみよう。」
私たちは2班に分かれて、周囲を捜索したが、やはり子供たちの姿は見えなかった。姿どころか話し声すら聞こえなかった。
「おい、ヒコサブロウ。こんなものを見つけた。」
そんなに広くない湖の周辺を歩き、お互いに一周して合流した時、ビルが手にしているものをこちらに見せた。カンテラの灯りで照らすと、小さなハンカチだった。隅に花柄の刺繍が確認できる。
「これはリリーのハンカチだ。向こうの焚き火跡で落ちているのを見つけた。」
「リリーって?」
「孤児院の子供たちで一番年上だった女の子だ。小さい子の面倒もよくみていた。」
「これがその子のハンカチなの?」
「ああ。聞けばこれは彼女の母親からもらったものみたいでな。彼女にとっては形見みたいなものだ。それを彼女はいつも肌身離さず持っていたことを覚えている。」
「なるほど。これは重要な手掛かりだね。」
「どうだ?これから彼女の足跡を追えないか?」
「そうだね。ちょっとやってもらおう。」
私とビルの考えていることは同じだったようだ。
「出でよ、黒き狼よ。我が求むは深淵深きダークウルフ。」
私の詠唱に応じてクルトが召喚される。
「主よ。求めに応じて馳せ参じた。それにしても随分早い召喚だな。人狼を倒したばかりではないか。」
「まあ、こちらも緊急事態でね。早速で悪いけど、このハンカチから匂いを辿れないかな?」
「うむ。我はその辺の犬ではないのだがな。まあ、主の命令なら仕方ないが。」
「ははは。ありがとう。」
「…。匂いはわかった。こっちだ。」
私たちはクルトを先頭にその場を後にした。向かっていった場所はあの雑木林だった。
―――――
「主よ。どうやら匂いはあそこに続いているようだ。それと他にも人間の匂いがする。」
「わかった。ありがとう。もう戻っていいよ。」
「うむ。また何かあれば呼べばよい。」
クルトが案内してくれた場所。それは雑木林の奥にある小屋だった。そんなに大きくはない小屋だ。窓から明かりが漏れており、中に誰かがいることを示していた。
「どうする?見るからに怪しい小屋だけど。乗り込む?」
「待ってアイラ。相手が特定できない状況で踏み込むのは得策じゃない。ここは様子を見よう。」
「様子を見るにしても、ここからじゃ何もわからん…。」
ビルの懸念はもっともだった。
「出でよ、風の遣いよ。我が求むは麗しき精霊。」
自身の詠唱に伴い、地面に黄緑色の魔法陣が広がる。そこから若草色をしたものが発現する。それは羽の生えた小人のようだった。
精霊魔法。
詠唱は闇魔法に属する召喚魔法に似ているが、この魔法は精霊の力を行使することができ、このようにして精霊を顕現することもできる。
「すごい。それってまさか精霊魔法…。」
「何それ、ハーレ。そんなにすごいの?」
「すごいってもんじゃないよ。精霊魔法なんて使い手が限られるんだから。普通の魔法に比べて…。」
「ハーレ。とりあえずそこまで。まあ内密にね…。」
「えっ…。うん…。」
またやらかした感は否めないが、いまはそれどころじゃない。
「じゃあ、シルフィーネ。よろしくね。部屋の中を探ってきて。」
「かしこまりました、主。」
彼女はそう言って小屋に近付く。彼女は風の精霊。空気の振動を伝って、建物の中の会話を聞き取るのは朝飯前だ。
私の右手には小さな風の塊がある。いつもは精霊と念話で済ませるが、今回はみんなに会話が聞こえるようにした。この塊はスピーカー代わりというわけだ。
「………、お、い。ルーカス。ガキどもは問題ないんだろうな。」
「は、はい…。ちゃんと地下室に閉じ込めてます。」
子供たちと遊びに行った話が一転して、聞こえてきたのは物騒な会話だった。
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