第33話:とりあえず、ビルの秘密を探る(孤児院⑩)
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人狼。
それは読んで字の如く、人が狼に変身した魔物を指す。
それは魔物の類いとして認識され、狼族のような獣人族とは一線を画している。
それは普通の魔物ではなく、突然変異として現れると考えられている。
それは、そう、いま目の前で起きている現象のように。
今回の魔物調査依頼。その重要な鍵を握る人物であるヴィムと呼ばれている青年。いま彼は人間ではなく、禍々しい魔力と圧を帯びた人狼として存在していた。
「あれは…、人狼…。」
「人狼!?まさか…、今回の魔物とはあの人狼なのですか?」
「確かに人狼ならこれまでのことに説明がつく。遺体に残された傷跡。獣の匂いがしたという彼の小屋。それらは彼が人狼という魔物であることを如実に物語っている。」
「主。そんなことよりも…。」
「さっきからそこでこそこそ隠れているのは、例の冒険者たちかな?」
「「「!?」」」
「主。やはり奴には気付かれてるぞ。」
人狼には特筆すべき能力が二つあると言われている。一つ目はその気配察知能力。それは同じ狼種の魔物のそれを大きく上回ると言われている。
「やはり、この距離からだとバレているか。みんな出るぞ。くれぐれも油断しないように。」
「「「うん。」」」
私たちは臨戦態勢で彼、いやその魔物の前に出た。
「今回の冒険者は優秀なんだね。僕のことを嗅ぎ付けるなんて。この前の冒険者は全然大したことなかったのに。」
「やはり、以前冒険者を惨殺したのはお前が?」
「まあ、偶然森で遭遇してしまったから仕方なくね。彼らは運がなかったよ。」
「森の動物や魔物を惨殺したのも?」
「その通り。」
「何故そんなことを?いや、そもそもお前の目的は何だ?」
「何故?意外だな。もうその理由は知ってるんじゃないかと思った。」
「やはり村への復讐か…。」
「復讐…。はっはっは。そうか復讐か。正直、復讐なんて言われるとイラッとくるな。僕のは復讐じゃない。粛清なのさ。心が汚れた悪い奴をこの世から抹殺する。言わば正義の行いさ。」
「何が正義の行いだ。何の罪もない者を殺しておいて。」
「殺すか…。まあ君たちにはそう見えるかもね。でもあれは贄だよ。実はねこの薬が身体にちゃんと馴染むためには、何度かこうやって変身する必要があったのさ。森の生物や冒険者には、その一環として死んでもらっただけだ。まあ、正義の贄と言った具合かな。でも、もうそれも今日で終わる。」
「何だって?」
「今日で村人はこの世から姿を消すことになるからさ。今日この村は僕の手によって粛清されるのさ。」
「また何の罪もない人を殺すのか?」
「何の罪もない?罪ならあるさ。僕のお父さんを死に追いやった罪がね。」
「お前の父の話は聞いた。確かにそれには同情する部分もあるし、村長にはその罪を償う責任があると思う。しかし村の人には罪はないだろう。」
「罪はない?罪ならある!あいつらは僕のお父さんは助けなかった!本当の村の厄介者をこの世から消すためにお父さんを嵌めたんだ!そしてそのお父さんも同じ厄介者として扱ったんだ!それに罪がないというのか!だから、その罪深い奴らを僕が粛清、いや浄化してやるんだ!そして、お前らもここで死んでもらう!」
「みんな、来るぞ。」
奴は激昂し、こちらに襲いかかる姿勢を見せた。その剥き出しになった爪と牙は怒りと憎しみで、いまにも生命を根絶やしにするかのような凶暴さを放っていた。
「ウガァァァー!」
「『シールド』。クルト、奴を仕留めろ。」
人狼の特筆すべき能力の二つ目。それは身体能力の飛躍的な上昇だ。人間の時とは比較にならないスピードと力を持つ。正直に言って、この能力で、他のメンバーが襲われれば一溜りもなかった。
だからこそ、一直線に私に襲いかかってきたのは、こちらにとっては逆に救われた点だった。その攻撃を魔法で防御し、その間にクルトに攻撃させる。いくら相手は恐ろしき人狼だとしても、クルトはSランクモンスター。相手に引けを取ることはない。
クルトと人狼の爪が交錯する。その速さはぶつかった爪から火花が出る程で、暗がりの森の中では、それは余計に目立って見えた。しかし、次第に状況はこちらに優勢となってきた。やはり、クルトの方が能力的には上だった。
「クソォォォー!コンナトコロデ ヤラレテタマルカー!」
人狼はすでに人間のそれとは思えない禍々しい声で感情を露わにする。
「ウインドアロー」
「ウガァァァー!」
クルトの攻撃で隙ができた拍子に、ウインドアローを打ち込む。魔力を1本に凝縮させた強力な1本だった。それが奴の胸に突き刺さり、戦闘は終了した。
「こ、こんなはずじゃ…。ぼ、僕は、お、お父さんの仇を…。む、村の奴らに…。」
奴、いや、ヴィムはすでにさっきまでの禍々しい姿ではなく、人間の姿へと戻っていた。そしてその姿はいままさに消えかけようとしている命の姿だった。回復魔法ではどうにもならない命の終焉を迎えようとしていた。薬を使った代償なのか、その証拠に、すでに下半身は灰となって風の中に消えていた。
「け、けっきょく…、ぼ、僕は、何もできなかった…。な、なぜ、僕がこんな目に…。」
「10年前の件は必ず糾弾する。村長にはその罪を償ってもらう。」
「は、ははは…。じゃあ、復讐は村長が地獄に落ちてきたら、向こうで思う存分することにしようか…。」
「………。最後に訊きたいことがある。」
「ふ、何かな。冥途への置土産として答えてあげるよ。」
「お前はどうやって10年前の真実を知った。こちらでも調べた限り、村長を始め、村人の口は固く閉ざされていた。正直言って、お前の日記がなければ、この事実に辿り着かなかったかもしれない。」
「そ、それは『請負人』と名乗る商人から聞いたのさ。その商人から真実を知った。」
「そこでその事実が嘘だとは疑わなかったのか?」
「ふふふ…。ぼ、僕にとっては、それはどうでもよかったことだ。そ、それが、僕の信じたかった真実なのだから…。」
「…そうか。その商人の名前は?」
「か、彼は『請負人』としか名乗らなかったよ。ぼ、僕にとっても、彼の名前なんてどうでもよかった。か、彼はくれると言ったんだ。ぼ、僕に復讐する力を…。」
「…わかった。もう言うことはない。」
「………。お、お父さん…。い、いま行くよ…。」
それが彼の最期の言葉だった。彼の身体は灰となって森の中に消えていった。しかし、残酷な話、彼があの世とやらでお父さんと会えるとは思えなかった。だって、彼は地獄に行き、彼の父親は天国にいるのだろうから…。
―――――
「…以上が、今回の魔物調査の顛末です。」
「そうか。まさか単なる魔物調査だと思っていた事案がそんな結末になるとは。」
「はい…。」
あれから3日後。私たちはバシュラトに戻ってきた。その戻ってきた足で、私とエミーリアは領主の館に赴き、領主に事の顛末を報告した。他のメンバーは、直接孤児院に向かった。
「10年前の事件に関わった首謀者のロータル、そしてそれに直接協力した者はこちらで処断する。そして、ヴィムの父親であるザシャは無実とし名誉を回復する。また、今回の報酬については、先日話した通り、孤児院の移転で決定だ。」
「わかりました。宜しくお願い致します。」
「今回の件は助かった。また何かあれば手伝ってくれ。」
「はい。それではこれで失礼致します。」
―――――
「ヒコサブロウ、これから孤児院に向かうのでしょう?私も行きます。」
「そうなの?わざわざ行く必要はないんじゃない?」
「いいえ。私も領主の娘として、孤児院がどのようなものか直接見る責任があると思います。それともヒコサブロウは、私がいたら、その…、迷惑ですか…?」
「いや、そんなことないよ。じゃあ、行こうか。」
「はい!じゃあ早速行きましょう。」
これで孤児院の問題は解決だなと、あんな結末を迎えた事件にも関わらず、孤児院に向かう足取りは軽かった。エミーリアも嬉しそうに見えた。
しかし、孤児院に着くと、やけに騒がしかった。こちらに気付いたミナとセレンが慌てて駆け付けてきた。
「どうしたの?そんなに慌てて。孤児院の移設の件なら無事に…。」
「ち、違うの!ヒコサブロウ、大変なの!子供たちがいなくなっちゃったの!」
孤児院の問題はまだ完全に解決していないようだった…。
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