第32話:とりあえず、ビルの秘密を探る(孤児院⑨)
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マルクさんは、私たちがヴィムについて調べていることを知り訪問しましたと言った。こちらがそうですかと頷くと、彼は促されることもなく、ぽつりぽつりと静かにゆっくりと語り始めた。
「今から10年前、つまりヴィムの父親であるザシャさんが殺人事件を起こした当時、村にはイーヴォという厄介者がいました。私も覚えています。平気で村の家に泥棒に入り、村人相手に暴力事件を起こし、他人の妻に手を出すといった具合で、村では彼の所業に困り果てていました。当然、彼を恨む人は多かったと思います。だから彼が酒場で殺されたと聞いた時、自然と納得ができました。彼についに天罰が下ったと。しかし、それと同時に、何故ザシャさんがという思いもありました。彼は奥さんを病気で亡くされ、ひとりでヴィムを育てながらも、誰にでも気さくに話しかけとても優しい人物だったからです。何故そんな彼がイーヴォを殺すという凶悪な事件を引き起こしたのかと。当時の噂では、酒場での諍いが原因で人を殺したという。それだけでも変だと思いました。当時の彼は酒を飲まなかったはずです。
しかし、彼が警邏隊により捕縛され、バシュラトで死刑となった後、そのことについて疑問を投げかける者はいなくなりました。結果として村の厄介者がいなくなったわけですから。」
「こちらでも、10年前の出来事については、ある程度把握しています。しかし、少なくともヴィムは父親が冤罪であったと、村に嵌められたと思っていた節があります。そのあたりについてはどうですか。」
「はい。私の父であるペートルスは、村では名うての狩人でした。その父が3年前の死の間際に、私に語ったことがあります。その話とは、私も忘れかけていたイーヴォ殺害の一件だったのです。
当時、彼の所業に困り果てていた村人は彼を何とかしようとしていました。警邏隊に突き出し、バシュラトで処断してもらおうという動きです。しかし、村長はそれに難色を示していました。」
「それは何故ですか?話を聞いている限り、そのイーヴォという男は、処罰を受けても仕方がないだけの罪を犯していると思いますが…。」
「それは、イーヴォが村長の息子だったからです。村長は自分の息子が可愛かったのだと思います。しかし父曰く、村長も葛藤の中にあったようです。自分の息子の所業には何かしらの罪を与えなくてはならない。しかし、それでは村長である自分にまでもその処断が及ぶかもしれないと。まあ、私からすれば自分勝手な葛藤だとは思いますが…。
そこで村長は恐ろしいことは考え、当時村民でも中心的だった者に提案しました。父はその中心者側の人間でした。
それが『息子の殺害』でした。しかも自分たちの手は染めず、誰かにその罪をなすりつけ、その者を殺人事件の犯人として処断してもらうという恐ろしい計画です。父は反対したようですが、最後は村長の『村のためだ。』という決まり文句で説得されてしまったようです。父以外の村民も同じだったようです。
結局、この計画は村長と一部の人間によって進められました。そして殺人者として候補に挙がったのが、ザシャさんでした。彼なら村のために引き受けてくれるだろうと。残る息子の面倒は村が見ると言えば、納得してくれるだろうという淡い期待があったようです。しかし、彼はそれを拒絶しました。さらに正義感の強かった彼はそれをバシュラトに訴えようとしたそうです。そこで父たちは、彼に無理矢理酒を飲ませ、泥酔状態にさせる一方、すでにこちらの手筈で泥酔状態にしていたイーヴォを殺したということでした。そして、そのままザシャさんを警邏隊に突き出しました。彼は最期まで自身の無罪を訴えましたが、最後は村長と村民の目撃談が有効とされ、弁明の機会を与えられることなく、死刑に至りました。
父は死の間際にその話をしてくれました。そして、私に懺悔するように、強い後悔を滲ませながら話していたことが、強く記憶に残っています。」
「なるほど。その話が本当であれば、大変なことですが、何故今になってマルクさんは、それを私たちに話してくれたのですか。」
「私も悩みました。正直言って、父の話は私を戸惑いさせるものでした。今さらそんなことを言われてもと。それに当時、私だけが真実を叫んで、何が変わるでしょうか。下手をしたら、私も消されてしまうかもしれないと思い、自身の胸だけに仕舞っておこうと思ったのです。しかし、今回の事件で、あなたたちがヴィムのことに調べていると聞いた時、私は思ったのです。父の後悔を無くすことができるかもしれないと。自身もそのことに向き合う時期なのだと。だから、こうして話をしに来ました。」
―――――
マルクさんが帰った後、私たちの空気は当然晴れやかなものではなかった。過去に起きた大きな村の過ち。それに今回の事件。単純な魔物調査だと思っていた事件が、非常に根深い問題に直面している事実を知り、その空気は自身の身体を突き刺すような重みを感じた。他のメンバーもそうだった。
「ヒコサブロウ、とりあえずこれからどうしますか?一応、ヴィムの日記に書かれた真相はわかりましたが…。」
エミーリアの問いに、私も含めて誰も即答しなかった。事の大きさが予想以上だったこともあるが、おそらく疲労感もあったのだと思う。みんなが私の回答に注目していた。
「これでヴィムが父の復讐のために何かしら動いていることはほぼ確定的だろう。問題はそれがどうやって魔物の件と結びつくかだ。状況証拠的には、彼が最も怪しいし、極端に言えば犯人と言ってもいいだろう。しかし、彼は魔物ではない。ひとりの人間だ。どうしてもあの仕業が彼のものだとは思えない。」
「なるほど。それでは彼に直接話を聞いてみるしかありませんね。どこにいるかは不明ですか。」
「そうだね。ただそれについては、僕に一案がある。」
私たちは、その後も打合せを行い、各自早めに床についた。
―――――
(主。反応があったぞ。奴が帰ってきた。)
(わかった。そのまま見張りを続けてくれ。)
「ジャン、ビル。起きてくれ。相手が動き出したようだ。」
彼らはすぐに起き出した。どうやらそこまで熟睡できなかったようだ。斯くいう私もそうだった。そしてそれはエミーリアたちも同様だった。
実はあの打合せ後、クルトを再び召喚し、ヴィムの家を見張らせた。隠れて見張らせるには、クルトは目立ち過ぎるため、闇魔法「ヒドゥンフォーム」で、姿を見えなくしたが。
そして、その晩、夜遅くに彼から念話があった。召喚者と召喚物は高レベルになれば「念話」という行為ができる。念話はテレパシーみたいなもので、距離が離れていても意思疎通ができるという便利な能力だ。それによって、彼の動向を逐一報告してもらい、こちらはそれに基づいて動くという計画だった。
(主。奴は灯りも持たず、森に入っていくぞ。)
(わかった。そのまま尾行してくれ。こちらもそっちに向かう。)
私はクルトの気配を感じ取り、その場所へと急ぎ早に向かった。他のメンバーも同様に私に着いてきた。
森の中ですぐにクルトを見つけることができた。奥にはクルトが尾行していた一人の青年いることを確認できた。クルトへの魔法を解除し、私たちは後方で、彼の動きを注視した。月明りのみで森は暗かったが、ちょうどその光は彼に差し込んでおり、意外とよく見えた。ちなみに気配察知で周囲を確認したが、魔物らしい気配は感じられなかった。
「ヒコサブロウ、あれ…。」
その時だった。エミーリアが消えるような声を上げたのは…。
その青年は手に持っていた瓶から、何か薬のようなものを取り出し、それを飲み込んだ。その直後、彼からどす黒い煙が湧き出た。禍々しい魔力も感じた。
その煙が晴れた時、月明りが照らしてくれたもの。それは大きなバケモノだった。
確かにそれは「人狼」と呼ばれる魔物だった。
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