第31話:とりあえず、ビルの秘密を探る(孤児院⑧)
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件の魔物が現場に残した匂い。それを追って着いた場所は、なんと森の中ではなく、ある村民の家だった。ヴィムと呼ばれている者の小屋だった。
コンコン。
私たちは事態が上手く飲み込めないまま、彼の小屋の扉をノックした。しかし、反応はなかった。どうやら留守のようだ。気配察知にも引っかからなかった。
ギィィー。
念のため、扉を開けると鍵は掛かってなかった。勝手に他人の家に入り込むことは望ましくないが、いまはそう言ってられる程の余裕はなかった。魔物の手掛かりが掴めるかもしれなかった。意を決して中に入ることにした。全員で入る余裕はなさそうだったので、私とエミーリア、クルトだけで中に入り、残りのメンバーは外で見張りをしてもらうことにした。見張りにしては人数が多いため、逆に目立ってしまうかもしれないが、いまは仕方がなかった。
中に入る。何か得体の知れない物であるのではないかと気構えたが、一見すると何の変哲もない部屋だった。机とベッド、それに小さなキッチンがある程度だ。
しかし、クルトには異様な様子に見えた。
「どういうことだ?」
「どうした?」
「主。ここには複数の獣の匂いがする。それも1匹や2匹の数ではない。様々な種類の獣、そして人間の匂いの痕跡がある。」
「さっきの畜舎での匂いは?」
「ああ、ある。それが一番強く残っている。」
「匂いはあるが、それらしい生物の痕跡はないということか。」
「不思議ですね…。あら、これは…。ヒコサブロウ、見て下さい。これは毛髪?」
「本当だ。ベッドの上にこんなに…。うん?床にも落ちているな…。」
「主。この毛髪の匂いだ。さっきの現場で感じた匂いは。」
「そうすると、やはり件の魔物はここにいたということか?」
「しかしそうだとすると、すでにヴィルという者は殺されているのではありませんか?」
「確かに。ここに毛髪が落ちているということは、ここが殺害現場でもおかしくないが、ここにはそんな痕跡はない。遺体どころか血痕すらない…。」
謎は深まるばかりだった。ここが殺害現場ならなぜ痕跡がない。いや、そもそも何故魔物の痕跡がここで途絶えている?
「ヒコサブロウ、これを見て下さい。彼の日記のようです。」
エミーリアが見つけたのは、机の上に置かれた1冊の本だった。本らしきものはこれ以外にはないようだ。
最初のページをめくると、そこには赤い字でこう綴られていた。
「父は殺人者ではない。
父は嵌められたんだ。村の全員に。
父を村の厄介者だと決めつけ、噂を広め、最悪のかたちで追い出すために。
父は母が亡くなる前から、酒を断っていたんだ。そんな父が酒場に行くはずがない。酒を呷ったりするはずない。まして酔うことなんかありえない。
父が殺したという男こそが村での厄介者だった。そいつは村で泥棒を行い、よく暴力沙汰を起こし、人妻にも手を出す最低野郎だった。そいつを殺すために、父は嵌められたんだ。
父が警邏隊に連れて行かれる時、父は大声で無実を叫んだ。僕に無実を訴えていた。その絶叫がいまでも耳から離れない。
父は優しい人だった。母が病気で亡くなってからも、僕が寂しくならないように、いつも一緒にいてくれた。父のぬくもりが僕の全てだった。
そんな父を奪った村が憎い。父を嵌めた村が憎い。しかし僕にはどうすることもできなかった。
父が処刑された日。僕は血の涙を流した。」
その日記は村への怨念で染められていた。他のページも父親を奪われた恨みと何もできない自身の無力さを呪った言葉で埋め尽くされていた。
そして日記の最後にはこう綴られていた。
「とある商人に出会った。村に出入しているいつもの商人ではなかった。
その商人が私に話しかけてきた。父と同じように村の厄介者とされていた私に。
その商人は、自身のことを『請負人』と言っていた。彼の眼差しは自身の心を射抜くような感じがして薄気味悪かった。
しかし、彼の誘いは魅力的だった。
村をこのままにしていいのか。
村人に恨みを晴らさなくていいのか。
父親の仇を討たなくていいのか。
力がほしいか。
私は力がほしいと言った。彼は望むならくれてやると言い放った。そしてある薬をくれた。『これを飲めば、お前は力を得られる。』と言って。そして彼は闇が包む森に消えていった。
僕は復讐者ではない。
やっとなれる。村に制裁を加える正義の使徒に。
奴らに鉄槌を。」
その言葉で日記は締め括られていた。
「………。」
「………。」
二人とも黙ってしまった。これは何だ?ここに書いてあることは真実なのか、誰にもその答えはわからなかった。
「ヒコサブロウ、これからどうしますか?」
「とりあえず、ここを出よう。もうこれ以上の情報は得られそうはない。一応この日記は回収しておこう。何かの手掛かりになるかもしれない…。」
―――――
ヴィムの小屋を出た私たちは、村長宅に向かった。この日記に書かれていることを確かめるためだ。もしかしたら、ここに書かれていることの真相を確かめることが、魔物に近付く道に続いているかもしれない。そう思っての行動だった。
村長は私たちを複雑な面持ちで出迎えた。やはり朝の騒動で憔悴しているようだ。
「ヒコサブロウ様。どうですか、魔物の方は?何か調査に進展はありましたか?」
「いいえ。直接的にはまだ…。しかし、朝の現場から魔物の匂いを辿っていくと、ある場所に着きました。」
「ほう。それは…。」
「ヴィムと呼ばれていた者の小屋です。」
「!!!それは…。」
「少なくとも、あなたが昨日おっしゃっていたヴィムという者が、この事件に関わっている可能性は高いと思われます。」
「そんな…、まさか…。」
「それと彼の小屋でこれを発見しました。」
私は小屋から回収した日記を村長に渡した。彼はそれを手に取り、恐る恐るそのページを開いた。それを読み進めていく内に、彼の顔はみるみる青くなっていくのがはっきりとわかった。こちらはそれで確信に至った。彼は何かを知っており、そして意図的にそれを隠していると。
「村長。単刀直入にお伺いします。そこに書いてあることは事実なのですか?彼の父親に起こった出来事は事実なのですか?」
「知りません!私は何も知りません!ここに書いてあることは、奴の妄想です!こんなものに惑わされないで下さい!」
彼はいきなり激昂し、その日記を床にたたきつけた。
「それでは村長は何もご存じないということですか?」
私は彼がたたきつけた日記を拾い上げ、彼に再度見せるように訊いた。
「知りません!とにかく今日はもう帰って下さい!早くその魔物を何とかして下さい!奴がその犯人だというのなら、さっさと始末して下さい!」
「当然、魔物の件は継続して調査します。しかし、私たちに何か隠していることがあるなら話して下さい。」
「だから、何も知らないと言っているでしょう!私はこれで失礼します!」
村長はそう言って、部屋から出ていってしまった。私たちもこれ以上は無駄だと判断し、村長宅を辞去した。
「ヒコサブロウ、やはり村長は何か隠している気がします。あの動揺ぶり、絶対に変です。」
「僕もそう思う。やはり、このヴィムという者が、今回の魔物騒動の鍵を握っていると思う。もう一度、彼の小屋に行ってみよう。それから他の村民にも彼のことについて何か知らないか聞いて回ろう。」
「だったら、二手に別れて事に当たりましょう。その方が効率的です。」
「そうだね。じゃあ、ミナたちは村民から話を聞いてみて。」
「わかったわ。じゃあ早速行きましょ。」
―――――
約2時間後。
私たちは宿で合流して情報交換を行った。しかし、これといった情報はなかった。というより情報の提供を拒まれたという感じだった。
ヴィムの家は不発だった。彼はまだ小屋に戻っていなかった。小屋の鍵も開いており、再度中に入ったが、今朝私たちがいた時と違いは見られなかった。私とエミーリアは仕方なく、村民から情報を集めようと村の家々を回った。
しかし、村民たちは頑なにヴィムの話をしたがらなかった。何かを隠しているというのは確信に近いものがあるが、魔物調査に必要だと問い詰めても、その口は重かった。
ミナたちにも様子を聞いたが、同じ状況だった。なかには、その話題を出した瞬間、門前払いをされた家もあったという。
その場の雰囲気を手詰まり感が満たそうとしていた時、コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえた。セレンがそれに反応して扉を開ける。
そこにいたのは、狩人のマルクさんだった。
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