第30話:とりあえず、ビルの秘密を探る(孤児院⑦)
ブクマ、評価ありがとうございます。
第30話を投稿することができました。
次は第40話を目指してがんばります。
「狼の群れ…?」
「主。群れというには少なすぎる。おそらく群れから逸れたものだろう。それに普通の狼だ。特に脅威はない。」
「どうしたのかしら?あの狼たち…。何かに怯えてる?」
「うむ。そこの娘の言う通り、怯えているようだ。どれ、少し話を聞いてみるとするか。」
クルトが近付くと、その歩調に合わせて、狼たちは後ずさりする。クルト自体に怯えているのか、それとも他のものに怯えているのか、こちらからは判別できなかった。
「グルル…。」
「グル…。」
人間にはわからない言葉で、クルトとその狼の一匹が話しているようだ。
「グルル…。グル…。」
「クゥン。」
クルトが戻ってきた。どうやら話は終わったようだ。
「それで何だって?」
「うむ。どうやらあの狼たちは小規模な群れの一部だったようだ。それをいきなり大きなバケモノに襲われたと言っている。」
「そのバケモノって…。」
「うむ。件の魔物で間違いなかろう。」
「それで奴の特徴とかは?」
「それがとりあえず自分たちより随分大きな奴で、やはり鋭い爪と牙を持っていたらしい。根本的には自分たちと同種のようだが、そのあたりがはっきりしないらしい。奴はひとしきり暴れた後、人間たちの村の方へ戻っていったそうだ。」
「そうか…。」
「あと、この森では見たことないバケモノだったらしい。」
「なるほど。これで何とか魔物の実体が掴めてきたね。」
「それにしても、クルト殿の話と私たちの調査結果を踏まえると、どちらも村に向かって痕跡が続いているというのは気になりますね。」
エミーアリの疑問はもっともで、私も気にしていたことだ。
「確かに。もしかすると奴の生息地は、思った以上に村に近いのかもしれない。村長は村人に目撃者はいないと言っていたけど、改めて調査する必要があるかもしれないね。」
次の行動が決まった私たちは、急ぎ早で村に戻った。
―――――
村に戻った私たちは、再度村長宅を訪れた。調査の進捗状況を説明した上で、村民から直接話を伺いたい旨を伝えた。すると村長もそれに同行してくれるということで、一緒に村民の家を訪れ始めた。まずは狩人たちを筆頭に、畜産に携わる人や農家など、いろんな村民に話を聞いて回った。しかし、これといった情報を得ることはできなかった。
そうやって村を回り、村の端の方に来た時、一軒の小屋を見つけた。
「村長。あの小屋にも村民が住んでいるのですか?村から少し外れている気がしますが…。」
「ああ、あれはヴィムという者の家です。」
「なんであんな外れに?」
「それは彼の父親が罪を犯したからです。」
「罪ですか…?」
「ええ、今から10年くらい前になりますか。酒に酔って村人と諍いを起こし、挙句の果てに殺害してしまったのです。」
「殺人事件ですか…。」
「はい。その者はすぐに殺人の罪で村の警邏隊に捕まり、バシュラトに連行されました。そしてそのまま死罪となりました。まあもともと素行に問題がある男で、常日頃から子供にも手を上げているという噂もあり、村では厄介者でした。そういう事情もあり、彼に同情する者はおりませんでした。」
「そのヴィムという方は一人であそこに?」
「ええ。母親は彼が小さい頃に病死しております。今にして思えば、父親が荒れ始めたのもその頃でしたな。ヴィムにも手を上げ始めたのもその頃からでしょう。彼自身には何の罪もないのですが、村人から白い目で見られ、あのような場所で暮らしているのです。普段何をしているのか、あまり彼の姿を見た者はおりません。斯くいう私も、年に2~3回程度しか見かけません。やつれた姿で何とも不気味でした。」
「それでは彼に今回の件を伺っても…。」
「おそらく無駄でしょう。あまり外にも出ていないようですし…。」
「そうですか。わかりました。とりあえず今日の調査はここまでにします。また何かあればご連絡下さい。」
「はい。よろしくお願いします。」
その晩。宿の一室で全員集まり、今後の調査方針について協議した。クルトも召喚を解除せず、この場に留まらせている。
「さて、今日一日調査に費やしたが、何となく魔物の姿が見えてきた。奴は単独で行動し、大きな狼のような魔物のようだ。明日も森で調査を続行するが、遭遇戦も考慮して油断なくいこう。」
「「「はい。」」」
「主、ちょっといいか。」
「なんだ?何か気になることでもあるのか?」
「うむ。その何というか…あのヴィムという者なんだが…。」
「ヴィム?ああ、村の外れに住んでいるという者ですよね。」
「ああ。実はその小屋の近くを通った時、獣の匂いがした。まだ新しいものだった。その者は狩人なのか?」
「いや、そんな話は聞いていないな。まあ村長に彼の職業というか、何を生業にしているのかは確認しなかったけど。」
「それの何が気になるの?」
「それがな娘よ。あそこには確かに獣の匂いが漂っていた。しかし、その発生源となるべき獣の姿は見かけなかった。」
「それの何が不思議なの?小屋の中に狩った獲物でもいたんじゃないの?」
「いや、匂いは複数確認できた。それだけの獣をあの小さな小屋に閉まっておくことはできまい。仮に獲物を狩ったとしても、その解体は少なくとも小屋の外でやると考える。しかし、小屋の周辺にそのような雰囲気は感じられなかった。」
「なるほど。確かにクルトのいうことは筋が通っている気がする。村長は話を聞くまでもないと言っていたけど、やはり話だけでも聞いてみよう。何かわかるかもしれない。」
話し合いはそこでお開きとなり、それぞれの部屋で休息を取った。
―――――
翌朝。
みんなが宿の食堂で朝食を取っている時にそれはもたらされた。
「エミーリア様!ヒコサブロウ様!来てください!また村に被害が。」
村長の慌てた声に、朝食を途中で切り上げて、私たちは宿を出た。村長とやや早く歩きながら、被害の詳細を聞く。
「今回の被害は?」
「はい。村の家畜が5頭。それと…その畜産農家の息子が1人遺体で見つかりました。」
「また被害者が…。現場はそのままですか?」
「はい。一度直接見てもらおうとそのままにしています。」
「わかりました。急ぎましょう。」
その悲惨な惨殺が行われた現場には多くの人が集まっていた。みんな「また起きたか」と諦めと怯えが交わったような表情をしていた。現場に入ると血の匂いが鼻をついた。そしてそこには村長の情報通り、5頭の牛と1人の人間の遺体が横たわっていた。
「遺体には…。やはり大きな傷跡がありますね。それぞれ一撃でその命を奪っています。この人については首を寸々違わず狙って襲っています。相手は魔物とは言っても、そこには明確な殺意みたいなものを感じます。ちなみに最初に発見した人は?」
「はい…。その者の母親です。」
「なるほど。彼女から話を聞くことは可能でしょうか。」
「それが…、息子の遺体を見たショックからか非常に気を動転させており、話を聞くのは難しいかと…。」
「そうですか…。一応案内させてもらっても…?」
「…わかりました。こちらです。」
案内されたのは畜舎の外の広場だった。そこに両腕を抱え支えられた女性が放心状態の体で畜舎を眺めていた。
「どうだ?カリーナは少し落ち着いたか?冒険者の方が話を聞きたいらしい…。」
「はい。さっきまでは息子の名前を叫んで嗚咽を漏らしていましたが、いまは落ち着いています。というより現実が受け止められず自失茫然としています。正直話を聞くのは難しいかと…。」
「そうか…。ヒコサブロウ様、どうしましょう。彼女はとても話ができる状態ではなさそうです。」
「わかりました。それではやむを得ません。本当はあまりやりたくないのですが…。」
私は彼女の前に座り、頭に手をのせる。
「リメンバー」
リメンバー。闇魔法の一つで、相手の記憶を覗くことができる魔法だ。向こうに抵抗されれば、覗ける範囲が狭まる魔法ではあるが、今の放心状態の彼女なら問題ないだろう。
彼女に残っていた記憶は凄惨そのものだった。しかも魔物の姿を克明に捉えている。ちょうど殺戮を行っている現場に居合わせてしまったのだろう。愛する息子が無残にも殺される場面に。
確かに情報にあった通り、大きい巨躯をした狼型の魔物だ。これは…、まさか?ある疑問が頭をよぎる。
獲物を殺したそいつは、彼女には目もくれず村の方へ戻っていった。そこで彼女の記憶は途絶えた。おそらくあまりにも衝撃的な光景で記憶が混乱しているのだろう。
「とりあえず情報は得ました。ちなみに村で他の被害は?どうやら魔物は村に向かったみたいですが…。」
「村ですか!?これといった被害は聞いておりませんが、すぐに確認してきます。」
村長は他の村民と一緒に安全確認しに向かった。念のためクルトも再び召喚した。
「主。また出たのか。」
「ああ、出てしまった。匂いの追跡を頼む。」
「任された。」
今度は事件が起きてから間もない。匂いである程度魔物の行方を追うことができるだろう。
クルトが現場の畜舎から移動を開始する。私たちはその後を静かについていった。
しばらくしてクルトの足が止まった。
「主よ。匂いがここで途絶えておる。」
「そんな、まさか…。」
ミナが少し震えた声を漏らした。
そこは昨日話題に上ったヴィムという人の小屋だった。
読んで下さり、ありがとうございます。
ブクマや評価、感想を頂けると励みになります。
もし「おもしろい」「続きを読みたい」と思われた方は、宜しくお願い致します。




