第29話:とりあえず、ビルの秘密を探る(孤児院⑥)
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翌朝。まだ陽が昇り始めた頃、マルクさんを含めた私たちは森の出入口に集合していた。ここは、交易路における村側の出入口にもなっている。
「それでは森へ案内します。」
「よろしくお願いします。まずは被害が発生した場所を中心に案内して下さい。」
「はい…。」
「おっと、その前に…。」
「その前に?ヒコサブロウ、何かあるの?」
今回は調査依頼。しかし調査とはいうものの、手掛かりは乏しい。ということでスケットを頼むことにした。
「出でよ、黒き狼よ。我が求むは深淵深きダークウルフ。」
これは召喚魔法の詠唱。召喚魔法は闇魔法に属し、契約した獣やモンスター等を召喚し使役することができる。召喚されるものは術者のレベルに応じて変化することが多い。というのも契約するためには、基本的にその対象物と戦い屈服状態にする必要があるからだ。だから強力なモンスターと契約する場合には、当然それを屈服させられるだけのレベルと技量が必要になるわけだ。私の場合は転生前の訓練期間中に多くのモンスターと契約している。今までは活躍する機会はなかったが、今回は必要になるだろう。
ちなみに余談になるが、この世界における「モンスター」と「魔物」の区別は曖昧で特に正式な見解は存在しない。正直に言えば、呼びたいように呼ぶという感じだ。
閑話休題。
私の詠唱に反応し、地面に紫色の魔法陣が現れ、そこから1匹の黒い狼が姿を現した。彼の名前はクルト。Sランクモンスターのダークウルフである。
「この魔物は何…?」
「ミナ、そんな怯えなくても大丈夫だよ。優しい魔物だから。」
「いやいや、そんな雰囲気じゃないけど。てか、ヒコサブロウ、召喚魔法が使えたの!?」
「そうだよ。久しぶりに使うけど上手くいってよかった。」
「召喚魔法なんて初めて見ました。これは珍しい魔法なのですか?」
「そうですね…。召喚魔法は闇属性の魔法なんですが、あまり使い手はいないですね。というより好んで使う人が少ないという感じでしょうか。」
エミーリアの疑問に魔法使いのセレンが答える。
「と言いますと?」
「はい。召喚魔法は契約にも手間がかかりますし、強力な召喚物ほど、使用する魔力量も多くなりますから…。その戦闘ではあまり向かないかと。」
「おい、そこの娘よ。我は戦闘でも活躍できるぞ。」
「「「!!!」」」
「しゃべった!魔物がしゃべった!」
「これ、あまり魔物、魔物と言うでない。我には主より『クルト』という名を頂いておる。」
「あの…、召喚された魔物がこのように話すことはあるのですか。セレン。」
「いや…、こんなケースは初めてです。そもそも人間の言葉を理解するのは高度な魔物に限られます。それを使役するなんて信じられません。」
「ヒコサブロウは一体…?」
これはまたやらかしたな…。まあ、それはあとで考えるとして、今は調査に集中しよう。
「まあ、とりあえず、今は依頼集中しよう。早速森に行きましょう。」
「はい…。」
―――――
森に入って2時間程で、マルクさんが最初に死骸を発見した場所に到着した。ちなみにここに至るまでに鹿や狼などの狩りの獲物になるような動物には遭遇していない。というより気配も感じなかった。
「このあたりが私が最初に死骸を発見した場所です。」
「全て白骨化していますね。」
「そうですね。腐るか、もしくは他の動物が食べるなりしたのでしょう。」
予定通り2班に分かれ、この周辺を探索することから始めた。マルクさんにはアイラのグループに入ってもらった。
あたりを探索してしばらく経過した頃、私たちはあるものを発見した。数本の木の幹に大きな傷跡を見つけたのだ。
「これは爪痕…?それに毛髪かな…?」
「これは結構大きいですね。向こうの木にもありますね。」
「そうですね。何となくですが、村の方に向かって付いている感じもありますね…。クルト、これから匂いを追えるか?」
「無理だな…。匂いがもう薄まってしまっているし、複数の匂いが混ざっている。」
「そうか…。でも不思議だな…。」
「何がですか?」
「はい。この爪痕はおそらく狼系の生物のものでしょう。しかし、通常の場合、狼の爪痕はこんな高さには付きません。木をよじ登ったとしても、ここまではっきり付くとは思えません。この爪痕は自然についたものではなく、明らかに意志があって付けられた痕跡です。」
「そうだな。これは狼系の魔物では普段は付かない位置だ。まあ狼系の魔物とは言っても大小あるから、その限りではないが。ただ少なくとも、この付近からそのような巨大で凶暴そうな魔物の気配はしないな。」
「確かにそうだな。」
「なるほど…。それにしてもひとつの痕跡だけでここまで推測できるものなのですね。さすがです。」
「いえいえ。これぐらいは冒険者としては普通だと思いますよ。」
「そうですか。勉強になります。ちなみに他の幹に付いている痕跡は、同じ生物のものと考えていいのでしょうか?」
「そうですね。爪痕の形状、それから残された痕跡の位置からして、おそらく同じ生物でしょう。数がそれぞれ一つということは、相手はやはり群れではなく、単独で行動しているのでしょう。とりあえず、アイラたちと合流しましょう。向こうも何か掴んでいるかもしれない。」
その後アイラたちと合流したが、向こうは空振りだったようだ。こちらが発見した傷跡の話をしたが、向こうではそれは見かけなかったということだ。
「マルクさん。他に死骸が見つかった場所はわかりますか?」
「わかります。一応他の狩人たちから場所は聞いておきました。行かれますか?」
「そうですね。その場所にも似たような形跡がないか調べておきたいです。」
「わかりました。案内します。」
その後、マルクさんに3か所の死骸発見場所を案内されたが、何とその全ての地点付近で似たような痕跡が見られた。
「これは間違いないね。この痕跡を残した生物が今回の犯人だろう。まだどんな魔物かは特定できないけど…。」
「それがわかっただけでも進展したわね。」
「そうだね。あとは商人が襲われた場所か…。」
「それであれば、ここから近いです。この付近には交易路が通っていますので。」
「じゃあ、そっちも見ておきましょう。」
マルクさんに案内された場所。それは交易路からすぐ近くの繁みの中だった。
「被害に遭った商人は、ここで見つかりました。おそらく交易路で襲われ、ここまで連れてこられたのだと思います。」
「マルクさんの言う通りのようですね。微かですが、何かが引き摺られた形跡があります。それにしても惨いですね。おそらく無理矢理引き摺られ、ここで致命傷を与えられたという具合でしょうか。」
「おそらく…。」
「それにこの木の幹にも、他と同じように爪痕と毛髪は付着している。何かの合図みたいに…。」
「ひどいわね。明らかに残忍な魔物のせいだわ。」
「そうだね…。正体がまだ判明しないのは不安だけど…。とりあえず村に戻ろうか。」
「そうね…。」
私の言葉にみんなが頷いた。とりあえず犯人の魔物は狼系でそれなりの巨躯の持ち主だということはわかった。
―――――
それは村への帰途での出来事だった。
「主。気付いているか。複数の気配がある。」
「ああ、気付いている。みんな、まわりに何かいる。気を付けて。」
「確かに何かの気配を感じますね。件の魔物でしょうか。」
エミーリアの言葉に、その場に否応なく緊張の空気が広がる。
「どうかな。感じる気配は複数。こちらの推察では単独犯だからな。ちょっとわからない。」
その時、ザザザと草むらが揺らいだ。そこから現れたのは、決して巨大とは言えない普通の大きさをした数匹の狼だった。
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