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第28話:とりあえず、ビルの秘密を探る(孤児院⑤)

ブクマ・評価ありがとうございます。


“ヒコサブロウたちは、魔物の群れに襲われた”


 イェシル村への道中。そんなイベントは特に発生することもなく、平穏そのものだった。みんなと初めての旅になるエミーリアも、ミナやセレンと問題なく打ち解け合い、和気藹々とした雰囲気が流れていた。ただ、ビルはやはり孤児院の今後が気になるのか、その表情を緩めることはなかった。


 そして、バシュラトを出発して3日目。私たちは無事にイェシル村に到着した。


 イェシル村。それは「平穏」という言葉をそのまま表現したかのような村で、村々に広がる畑や牧草地は、長閑な景色を作り出していた。とても件の魔物に脅かされているとは思えなかった。しかし、村民の表情からはどこか怯えみたいなものを感じるのも確かであった。


「イェシル村の村長を務めておりますロータルです。この度はエミーリア様自ら調査に訪れて頂いて恐縮です。」

「いいえ。私も今回は勉強させて頂く身です。問題解決のため微力ながらご協力致します。」

「はい。ありがとうございます。」

 私たちは、魔物の詳細な情報を求め、村長宅を訪れていた。全員で押し掛けても迷惑かと思い、ここにはエミーリアと私しか訪問していない。向こうは村長とその他にひとりの村人のみだった。


「今回の魔物調査を行う冒険者のヒコサブロウです。一応ギルドで魔物に関する情報は得てきましたが、念のため、再度教えて頂けますか?」

「はい。何から話せばよろしいでしょうか?」

「まずは魔物が発生したと思われる経緯。それから具体的な被害状況について教えて頂ければと思います。」

「わかりました。魔物は約1ヵ月前に現れたと思います。」

「件の魔物はこの付近には生息していないようだと伺いましたが、そう思われた根拠は何でしょうか?」

「はい。もともとこの村の近くには森があります。特に名前はありませんが、我々は『イェシルの森』と呼んでおります。その森は村の狩人たちの狩場になっております。最初異変に気付いた狩人が申しますには、その日もいつも通り森に入ったとのことです。その時の話は直接本人から聞いた方がいいと思いますので、ここに呼びました。」

「じゃあ、隣の人が…。」

「はい。この村の狩人をしているマルクです。」

「マルクです。その時の話は私からさせて頂きます。『イェシルの森』ですが、そもそも森には獰猛な獣はそれほど生息しておりません。せいぜい狼や熊が出る程度です。実際、森の中にある交易路を使っている村民や出入りの商人からも獣に襲われたという話はほとんどありませんでした。」

 彼は落ち着きながらも一気にそこまでを話してくれ、さらに言葉を続けた。


「しかし、その日は森に入るとある異変に気付きました。まず獲物の気配がほとんどありませんでした。いつもであれば、森に入ってしばらくすると鹿や猪などを見つけるのですが、その日に限っては森から音が消えたかのように静まりかえり、不気味ささえも感じました。それからもう少し森の奥に入っていくと、鹿の死骸を数匹見つけました。死骸を見つけること自体はそう珍しいものではないのですが、不思議なことに食べられた形跡はほとんど見られませんでした。そしてその死骸には、鋭い爪や裂かれたような傷跡が見られました。その日はそれが気味悪く感じ、村に引き返しました。しかし翌日以降もそのような獣の死骸が多く見つかりました…。それからは狩人たちも気味悪がって森に入ろうとはしません。私たち狩人の間では、何か恐ろしい魔物が棲みついたという話でもちきりです。」

「なるほど…。それで新しい魔物が生息していると…。」

「はい…。」

「先程マルクが話した内容は、村の他の狩人の話とも共通しています。ただ、私の方では、何かの思い過ごしじゃないかという疑念を払拭できませんでした。しかし、ついにある事件が起きてしまいました。」

「事件?」

「はい。村にはいくつか常連の出入の商人がいるのですが、その内の一人が森の中で遺体で発見されたのです。それも無残に引き裂かれた姿でです。場所は交易路からそう離れていない森の中でした。その商人が持っていた商人の荷物は散乱し、顔や身体にはいくつもの傷跡がありました。それだけではありません。終いには交易路を使っていた村人までもが数人同じような遺体で発見されました。それでこれは只事ではないと、ギルドに調査と討伐を依頼することになったのです。しかし、ギルドから派遣された冒険者も殺されてしまって…。それ以降、村人も魔物を恐れて森に近付こうとしません。しかも村の家畜にも被害が出てしまった影響で、そもそも怯えて外出しようとしなくなりました。さらに交易路が使えないとなると村人の生活にも支障を来してしまい、このように困り果ててしまっているというわけです。」

「なるほど。ちなみにその魔物を目撃した村人はいないのですか?」

「私の知る限り目撃した者はおりません。目撃した者は全員殺されておりますから…。」

「そうですか…。お話はわかりました。ちなみに直近での被害はいつ頃ですか?」

「申し訳ありません。直近の被害は把握しておりません。最近では森に入る村民はおらず、商人たちも噂を聞きつけたのか、この村に入ってこようとしません。」

「わかりました。それでは早速明日から森に入って調査をしたいと思いますが、もし可能ならマルクさんに森の案内をお願いしたいのですが…。こちらはなにぶん森の地理に明るくないもので…。」

「どうだ…。マルク。」

「………。わかりました。私も狩人の端くれ。それにこのイェシル村の村民です。協力させて頂きます。」

「ありがとうございます。」

「エミーリア様、ヒコサブロウ様、どうか宜しくお願い致します。ぜひその魔物を討伐して下さい。」


―――――


 村長の家を出た私たちは、ミナたちが待つ村唯一の宿に向かっていた。村長宅の外で待機していたクリスタさんも合流した。


「ヒコサブロウ、先程の話、どう思いますか?」

「はい。想像以上に難しい依頼になりそうです。明らかに被害は発生しているのにも関わらず、目撃者は一切なし。もう少し詳細な情報が聞けるかと期待しましたが、ギルドで得た情報と大差ですね。魔物の特徴も鋭い爪もしくは牙を持つということだけですし…。」

「そうですね。ヒコサブロウは魔物の情報に詳しいと伺いました。あのグリーンキャタピラーの一件も、ヒコサブロウが最初に気付いたと…。何か今回の特徴に合致する魔物の心当たりはないのですか?」

「逆に心当たりが有り過ぎますね。爪や牙を持つ生物など多くいますから…。ただ、被害の大きさからいって、ミナの言う群れでの活動はしていないと思います。もし群れで活動していたら、もっと被害が出ていてもおかしくありません。」

「なるほど。それでは今回は単独の魔物による仕業だと。」

「はい。まあこれも予測の域を超えませんが…。」


 宿に戻り、ミナたちに村長との話を伝えた。やはり真新しい情報は得られずという印象は拭えず、明日からの調査は難航するという共通認識を持っただけだった。


 時間がない中での依頼。誰もが不安を感じられずにはいられなかった。

読んで下さり、ありがとうございます。


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もし「おもしろい」「続きを読みたい」と思われた方は、宜しくお願い致します。

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