第26話:とりあえず、ビルの秘密を探る(孤児院③)
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「難しいな…。孤児院はこの街にとっても有益な施設だと認識しているが、今回のそれは言わば個人間の問題だ。そこに領主が直接介入するべきではない。」
「そうですか…。」
ビルから孤児院の窮状を聞いた私は、領主の館にやってきた。さすがその日に急には面会できかなかったが、翌日に短時間でならと面会が叶うことになった。
ただ面会は叶ったのだが、孤児院の窮状に対して、領主の回答は「否」だった。まあある程度は予想できていたが…。これでいよいよ厳しくなってきたな。
「実を言うと、孤児院の前院長であるルッツとは個人的な交流があった。街として手が回り切らなかった孤児に関する問題について、精力的に動いてくれたからな。少なからず金銭的な援助もさせてもらった。まあ、彼が亡くなり、息子の代になってからはその交流も途絶え、援助もまばらになってしまったが…。しかし、そうかそこまでの窮地に追い込まれていたか…。」
「はい…。ですので、領主様に仲介をお願いできないかと思いまして、こうして参った次第でして…。」
「気持ちはわかるが、先程言った通りだ。個人的な問題に直接的な介入はできないというか、何かしらの過失や問題がない限り、どちらか一方の肩を持つわけにはいかぬ。」
領主はそこまで言うと、執事が淹れたお茶を一口、口に含んだ。そして言葉を続けた。
「さらに聞くところによれば、先代の時は、孤児院と地主の間で、正式な賃貸契約書は無かったという。せめてそれがあれば、その契約に則ったかたちでこちらが仲介することもできたかもしれんが…。」
「そうですか…。承知致しました。お話を聞いて頂きありがとうございました。」
これ以上の話し合いは正直無駄だなと思い、部屋を辞去しようとした時だった。
「まあ待て。話は最後まで聞くものだ。」
領主は部屋を離れようとした私を引き留めた。
「はあ…。」
「こちらはあくまで無償では動けないということだ。」
「ということは、有償であれば何かしら動いて下さると?」
「まあ端的に言えばな…。」
「わかりました。お話を聞かせて下さい。」
私がそう言うと、領主は鈴を鳴らした。これは、執事や使用人を呼ぶ合図だ。その合図の直後、執事が部屋に入ってきた。執事とは先日の特別報酬の件で、顔を合わせたことがあるので、軽く会釈する。
領主は執事に何か耳打ちすると、執事は部屋を出て行った。
「用意ができるまでちょっと時間がかかる。まあ茶でも飲んで寛いでくれ。」
「はい…。」
領主を目の前であからさまに寛ぐわけにもいかず、姿勢を崩すことはできなかった。執事が戻ってくるまでの間、二人に会話らしい会話はなかった。
外の風が窓を叩く音。それだけが部屋には響いていた。
―――――
執事はそんなに時間を置かず戻ってきた。その手には書類が握られていた。執事はその書類をテーブルの上に広げた。相対する二人が見えやすいように横を上にした広げ方だった。
「これはバシュラトとその周辺の地図だ。この地図は一応機密文書だから、見たことは内密で頼む。」
「承知致しました。」
「街としては、本来孤児院のような福祉施設は裏道には設置したくないというのが本音だ。裏道は子供たちの養育にとっては、決して好ましい状況ではない。たまたま現在の孤児院が裏道に設置されているだけだ。」
「なるほど。確かにそうですね。」
「それで、街としては位置的に端にはなるが、この場所に新たな孤児院を設置したいと考えている。実はこの場所は昔の学校があった場所でな。いまは別の場所にそれを新設したから使用されていない。建物は古いが、手入れをすればまだ使える。それに敷地も今よりも広いものだろう。だから、この際、いまの孤児院は立ち退きするなりして、こっちに移設して新たに運営してもらった方が、街には有益だと思っている。」
「それは願ってもないことですが…。新たな場所を用意して頂ければ、すぐにでも引っ越すことができると思います。」
「ただ、話はそう単純ではない。街の運営なんてもんをやっていると、いろいろとしがらみがあってな。単純にこれを無償で実行した場合、他の部署や施設から『なんで向こうだけ』とやっかみを受けることになる…。」
「そういうことですか。それで無償では無理だと…。」
「そうだ。こういうことをスムーズに実行するためには、何かしらの理由が必要なのだ。」
「その理由が有償ということですか…。」
「まあ、君は冒険者だからな。こちらの依頼を達成した褒美として実行する分には文句は言われないだろう。本心がどうであるかは別にしてな…。」
「しかし、それだけの褒美となると、その依頼は難易度が高いということですか?」
「はっはっは。察しが良くて助かる。確かにこちらが依頼する内容は難易度は低くない。というより、具体的にどの程度のランクの依頼になるかはわからないというのが正直なところだな。」
領主はそこまで言うと、また広げた地図上である地点を指さした。
「ここから南西に『イェシル村』という村がある。まあ徒歩で3日間程度の村だな。実は先日ここからある訴えがあった。」
「訴え…ですか?」
「ああ。聞けば森に何かしらの魔物が住み着いたようだから討伐してほしいということだった。すでに村人や商人が襲われ被害が出ているらしい。」
「魔物ですか…。ただそれだけ聞くと『冒険者ギルド』に依頼するなりすればいいと思いますが…。」
「村民も最初はそうしたらしい。しかし、ギルドから派遣された冒険者は、森の中で遺体で発見されたそうだ。無残に切り刻まれた姿でな。」
「………。それを調査しろと?」
「まあそういうことだ。しかも人的被害だけではなく、森の他の動物や村の家畜にも被害が出始めているから、早急に対応してほしいと訴えてきた。それでこちらも軍を派遣しようかと思っていた矢先に…。」
「私が訪問したと…。」
「はっはっは。まあ、タイミングの問題だ。」
「なるほど。つまり、この件を調査・解決できれば、先程の孤児院移設の件は動いて下さるということでしょうか。」
「そうだ。どうだ?悪い話ではあるまい?」
「そうですね。魔物の正体がわからないので、危険度はイマイチ掴めませんが。こちらも打つ手がないのが実情ですので、まずは調査だけでもしてみたいと思います。」
「わかった。まあ、よろしく頼む。」
「はい。それでは早速村に向かうことにします。」
「ああ、ちょっと待ってくれ。」
「?」
「実はもう一つ依頼したい件があってな。今回の調査に娘のエミーリアも連れていってくれ。」
「エミーリア様をですか!?それは危険ではありませんか?」
「危険なのは承知している。だがな、娘ももう成人になる年齢だ。領主の娘として、巷で起きていることを肌で直接感じさせるのは良い機会だと思ってな。」
「それでは、ご令嬢の護衛も依頼に含められると?」
「まあそうなるな。ただ娘はあれである程度の武芸を身に付けている。君には負けたがな。それに最低限の護衛は付ける。それも含めて、よろしく頼む。」
領主から依頼された魔物の調査。これは一筋縄ではいかないなと直感で思うのであった。
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