第25話:とりあえず、ビルの秘密を探る(孤児院②)
ビルが入っていったのは、見窄らしい佇まいをした建物だった。建物は2階立てでそれなりの大きさをしていた。建物前には広い庭があり、子供が遊ぶ遊具らしきものも置いてある。ただ、全体的に年季が入ったというか、古い印象を受けるものだった。
「ねえ、どうする?」
「どうしようか…。とりあえずビルの向かった場所は判明したから、アイラたちに報告する?どうヒコサブロウ君?」
「そうだね…。場所は判明したけど、何をしに来ているのか、その目的はわかってないからね…。」
「そうだね…。別に危険な場所ではなさそうだけど…。この建物って、何なんだろう?」
「そうね。ここからじゃよくわからないわね。遊具が置いてあるから、子供でもいるのかしら。」
「じゃあ、孤児院かな…。」
「孤児院?」
「そう。ヒコサブロウ君は知らない?私も話を聞いただけだから詳しいことはわからないんだけど、バシュラトには孤児院があるって聞いたことがあるの。まさか裏道にそれがあるとは思わなかったけど。」
「孤児院か…。でもそれならパーティーのみんなに隠す話でもない気がするけどね…。とりあえず行ってみようか。」
「行くって…。乗り込むの?」
「ちょっとお姉ちゃん、言い方悪いよ。」
「ははは。まあビルが孤児院のお手伝いをしているだけだったとしたら、アイラたちの不安も取り除くことができるだろうしね。」
―――――
「すいませーん。どなたかいらっしゃいますか。」
「はーい。どちらさま。あら、あなたたちは…。」
「えっと…、その何というか、ビルの知り合いです。彼がこちらに入っていくのが見えたので…。」
「あっ、そうなの。ビル君の…。」
「はい。彼はここで何を?」
「そうね。まあ上がって下さい。ここではなんですから…。」
「はい。それではお邪魔します。」
私たちは応対してくれた女性に案内された。案内された部屋は応接間のような部屋で、まるで前世の学校の校長室を思わせるような部屋だった。
「ちょっとお待ち下さいね。いまビル君も呼んでくるから。」
「はい。お手数おかけしてすみません。」
しばらく部屋で待っていると、応接間のドアが開いた。そして先程の女性とビルが部屋に入ってきた。
「おまえたち…なぜ…。」
「ビル、いきなりごめんね。」
「えっと、まずは自己紹介からかしらね。私はこのバシュラト孤児院で副院長を務めるイルザです。あなたたちは、ビル君とはどんな関係なの?」
最初に自己紹介をしてくれたのは、先程応対してくれた女性。彼女はここの副院長だった。年齢は40代後半程度、物腰柔らかな印象を受ける。そして、ここはセレンの言った通り孤児院だった。
「そうですね。冒険者仲間といった具合でしょうか。実は今日は彼の冒険者パーティーから依頼されて来ました。」
「アイラたちから…?」
「うん。何か最近君の様子が変だって心配してて…。自分たちには何も話してくれないからと、私たちに調べてほしいって言われてね。」
「そうか…。」
「あと、ギルドでの金銭の借入の件も、アイラたちの耳に入っている。ギルドから直接話があったみたい。」
「!…そうか。」
「何、ビル君。その借入って?初めて聞いたけど。」
「いや、何でもない。」
「何でもないってことないでしょう。もしかして、あの件を解決しようとして、お金を借りにいったの?」
「………。」
「やっぱりそうなのね。何でそんな無茶を…。あの件ならこっちで何とかするから心配ないって言ったじゃない。」
「…。でもあんな大金、約束までに用意できるとは思えない。」
「…。それはそうかもしれないけど…。だけど、それはビル君が悩むことじゃないわ。もちろん気持ちは嬉しいけど、それは院長と私が何とかするから。ね。」
「………。」
何となく話が見えてきた。何かしらの理由で孤児院には大金が必要。それをビルが工面しようとしたというところか。ギルドへの借入申込もその一環だったというわけか。でも何故ビルがそこまで…。
「あの、お話を聞いている感じ、何か問題がありそうですね。」
「あっ、ごめんなさい。お客様の前で話す内容じゃなかったわね。」
「いえ…。もしよかったらお話し頂けますか。ご協力できるかはわかりませんが…。」
「えっ…、でも…。」
「こちらがあくまで部外者だということは承知しています。でも同じ冒険者の仲間として、彼がそこまで固執する理由も知りたいですし。おそらく彼のパーティー仲間もそう言うと思います。」
「…いまこの孤児院は閉鎖かどうかの瀬戸際にある。」
「ちょっと、ビル君!」
「すまん。いまは味方が多い方がいい…。」
ビルはこれまでの経緯を簡単に話してくれた。
この孤児院は今から約30年前に開園したそうだ。創立した前院長は、元来子供好きだったらしく、両親を亡くす等、恵まれない子供たちを支援して、社会で自立させようとこの孤児院を開院したらしい。運よく、建物と土地を安価で貸してくれる友人もいて、開院にこじつけたという。
最初は5人程度の小さな規模だったがらしいが、年々人数が増えていき、今では30人程度の子供がここで暮らしているという。ここも巣立って、無事に社会生活を営んでいる卒業生も多いという。
しかし、今年に入って、不幸が立て続けに起こった。創立した前院長と土地を貸してくれていた地主が病気で相次いで亡くなったのだ。孤児院は前院長の息子、地主もその息子が受け継いだが、不幸はそれで終わらなかった。突如、新しく地主になった息子が、この孤児院を閉鎖し立ち退きをしろと言ってきたのだ。理由は、ここを売却して新しい店を開店させたいとのことだった。もし立ち退きに応じない場合は、裏道に巣食う荒くれ者を使って、無理矢理に立ち退きさせるとも脅してきた。その時点で無茶苦茶な話のように感じるが、彼は代案も用意していた。それが建物と土地を買い取れというものだった。その金額が500万テーレ。ビルがギルドに借入を申し入れた金額だった。
孤児院の運営は主に寄付で行われており、決して裕福なわけではない。当然、そんな大金用意できるはずもなく、ビルは金策に走っていたというわけだ。しかもその期限も2週間後に迫っているとのことだった。
「そうなんだ。でもどうしてビルはそこまでして、この孤児院に肩入れをするの?別にここの出身というわけじゃないんでしょ?」
ミナの疑問は最もだった。
「俺はアイラたちと同じ故郷で生まれ育ったが、俺も孤児だった。小さい頃に病気で両親を亡くした。その後、親戚の間をたらい回しにされて惨めな思いをした。だから、ここにいる子供たちの気持ちは人一倍わかる。しかも、そんな状況下でも、俺を『お兄ちゃん』と呼んで慕ってくれている。俺にとって、この孤児院のために走り回る理由はそれだけで十分だ。」
「ビル君…。」
イルザさんはそれを聞いて瞳に涙を浮かべていた。
「なるほど。話はわかった。でもアイラたちを心配させたのは良くなかったな。同じパーティーなのに何も話してくれないって悲しんでいたよ。」
「それは悪かった。あとで謝っておく。」
「さて、それで具体的にはどうされるおつもりなのですか…?」
「正直に言って、金額の目途は立っていません。いま院長が金策に走り回ってはくれていますが…。最悪ここを立ち退きせざるを得ない状況になった場合に備えて、併せて他の土地への引っ越しも考えていますが、それも現状の運営状況では芳しくありません。」
私の問いにイルザさんは顔を伏せがちに答えた。
「領主様に訴えてみるのはいかがでしょうか。」
「領主様ですか…。一応院長にもその話をしてみましたが、院長曰く『領主様がわざわざ話を聞いてくれるとは思えない』の一点張りで、まだ訴えておりません。」
「そうですか…。でしたら、私の方から領主様に話をするだけしてみましょう。一応お会いしたこともありますし…。」
「それは本当ですか!助かります!本当はあなたにお願いするのは、筋違いかと思いますが、どうか宜しくお願い致します。」
イルザさんは深々と頭を下げた。
「とりあえず、やるだけやってみます。」
「ヒコサブロウ、すまない。俺からもたのむ。」
ビルは藁にも縋るような視線だった。
読んで下さり、、ありがとうございます。
ブクマや評価を頂けると励みになります。
もし「おもしろい」「続きを読みたい」と思われた方は、宜しくお願い致します。




