第23話:とりあえず、幕間(ミナとお出かけ編)
ブクマ増えてました。ありがとうございます。
さて、次回の話に行く前に幕間です。
「ねえ、ヒコサブロウ。明日ヒマ?」
「なにいきなり?明日は一応休みの予定だけど…。」
「そうなのね。じゃあどこか一緒に行かない?」
「えっ…。もしかしてまた『幽霊屋敷』?」
「違うわよ。普通に街を散策するの!」
「冗談だよ。でも、セレンやアイラたちと行かなくてもいいの?女の子同士の方が楽しいんじゃない?」
「うん…。いや、たまにはヒコサブロウと行きたいなと思って…。だめ…?」
「いや、まさか。全然だめじゃないよ。じゃあ、明日はお供します。」
「うん!じゃあ、朝ギルド前に集合ね。」
「わかった。」
いきなりのミナからのお誘い。今回は依頼とは関係ないようだから、たた単純に気分転換したいだけなのだろう…。最近の休みは一人で過ごすことが多いから、私にとってもいい気分転換になるかもしれない…。
但し、一応ひとつだけ言っておく。私は別にボッチではない。
―――――
明くる日。
集合場所に指定されたギルドの建物前で彼女を待つ。今日は依頼をこなすわけではないので、冒険者用装備ではなく、ラフな格好だ。最近本格的に暑くなってきて、毎日だる重な日々だが、逆にラフな格好を楽しめる季節だから、夏は嫌いではない。
「おう、ヒコサブロウじゃねえか。今日は休みか?」
「あっ、ニラードさん。おはようございます。ええ、今日はお休みです。ニラードさんたちは依頼ですか?」
「ああ、ちょっと討伐依頼にな。何か私服のお前を見るのも新鮮だな。なあ、スナ。」
「ええ。もしかして今日はデートなの?」
「ははは。これをデートって言うんでしょうか…。まあ友達と出かけるだけです。」
「ヒコサブロウ君も隅に置けないね。まあ楽しんでね。じゃあね。」
「はい。スナさんたちも依頼がんばって下さい。」
それにしても遅いな…。まああまり時間は経っていないけど。ギルド前で私服でいるのは意外に目立つ。この前ジャンが言っていた通り、やはり女性は準備に時間を要するものなのだろうか…。
「お待たせ、ヒコサブロウ。待たせちゃって、ごめんね。」
そんなことを漠然と考えていると、後ろから声を掛けられた。その声から察するにミナだ。そう思い振り返った。
そこに佇んでいたのは、一人の可愛らしい少女だった。薄い黄色、いや淡黄色のワンピースを着て、藍色のリボンでポニーテールにまとめた髪型をした女の子だった。ミナその人だった。
「なに?黙って…。やっぱり私には似合わない…?」
彼女の不安そうな眼差しで我に返る。
「いや、そんなことないよ。ちょっと、見惚れてただけ…。とても似合ってるよ。」
「!!!そう…。良かった…。」
「うん、一瞬ミナだってわからなかった。可愛いよ。」
「うんっ!ありがとうっ!ほんとに、ヒコサブロウはいつも直球だね。」
「そうかな…。自分ではそんなつもりじゃないんだけど。」
「でもいいの。褒めてくれてありがとう。」
「………。」
「………。」
「…じゃあ、行こうか。」
「…うん。」
―――――
私たちはギルド前を離れ、とあるカフェに移動してきた。
カフェ「アクデニズ」。意味は「白い海」で、南国地域をモチーフにしたカフェでバシュラトでも最近人気急上昇中のカフェらしい。ミナが一度行ってみたいと言っていたから、ブランチを取りがてら行ってみることにした。店内はその名が示す通り、海をイメージした内装に凝っており、いまの季節にぴったりな気がする。
まだお昼までには時間があることもあってか、店内は思ったより空いており、スムーズに客席に通された。冷房魔道具が効いているおかげか、室温は適度に保たれている。
「ここね、セレンやアイラと一度行ってみたいねって話してたの。」
「そうなんだ。初めて知ったよ。こんな素敵な店があるなんて。でもよかったの?彼女たちと一緒に来なくて?」
「うん…。セレンたちとはまたの機会に来ればいいし。それに、ヒコサブロウと来てみたかったし…。」
「そうか…。じゃあ、今回はミナに誘われて光栄だったわけだ。」
「そうよ。感謝しなさいよ。」
「ははは。」
―――――
私たちはカフェを後にした。彼女はパンケーキ、私はパスタを食し、味も満足のいくものだった。
ということで、次のお店へ。
デートの定番というか、女性の買い物の定番と言うべきか、彼女の要望もあり、服を見にきている。
冒険者は、その職業柄、自身の装備が最優先して購入され、私服はどうしても後回しになる傾向が強い。装備をケチると自身の生命に危険が及ぶ可能性も高くなるため、この辺はシビアな考え方である。
上級冒険者のように懐にある程度余裕が出てくると、私服にもある程度金銭をかける人もいるようだが、冒険者に成りたての低級ランクの冒険者は、どうしても私服にお金と時間をかける余裕がないというのが実情かもしれない。
そういう事情もあり、見るだけ、要するにウインドウショッピングだけを楽しんで自己の望みを満たす人が多いようだ。
斯くいう私たちも、そこまで余裕がある生活を送っているわけではないが、先日の幽霊屋敷の一件で、まとまったお金が手に入ったので、私服にもお金を使いたいのだろう。
「ねえ、こっちとこっちだとどっちが似合うと思う?」
「そうだね…。どっちもボーイッシュな感じで似合うと思うけど、右かな。色合いが髪色に合ってる気がする。」
「そう?じゃあ、右側の服にしようかな?」
「普段着はいつもそういう系統なの?」
「そうね。動きやすさ重視ってとこかしら。」
「じゃあ、今日はだいぶ印象が違う服を選んだんね。」
「うん…。今日はその、特別かな…。」
「でもそれも可愛いよ。」
「!!!また、直球ね。他の女の子にもそう言ってるんでしょ?」
「えっ、正直な感想を言っただけだよ。」
「ふ~ん。」
「あれ?俺何かした?」
「ふふふ。知らな~い。」
結局のところ、彼女は私が選んだ服を買うみたいで、店員さんのところに会計に行った。
手持無沙汰になった私は、店内を何となく見渡すと、ショーウィンドウに綺麗に飾られた髪飾りを見つけた。エメラルドグリーン色の花をモチーフにした綺麗な髪飾りだった。そういえば、今日もそうだが、ミナはいつも髪を纏めていたな。だからあれを付けたら、とても似合うんじゃないかと思った。彼女の髪色とも合うし。そう思った私はそれを別の店員さんにお願いして購入した。
―――――
彼女の会計も終わり、私たちは街が見渡せる丘に来ていた。街の夜景が見えるスポットとして人気のある場所だ。時刻は夕方だが、街が見渡せるだけあって、結構な景色だった。
「ヒコサブロウ、今日はどうもありがとう。おかげでいい気分転換になったわ。明日からまた依頼をこなす日々が始まるから、遅くならない内に、今日はそろそろお開きにしましょうか。」
「そうだね。また一緒に依頼でも受けようね。」
「うん。そうだね。今度は幽霊屋敷じゃなくて、普通の討伐依頼にしましょ。」
「ははは。あっ、そうだ。」
「えっ、なに?」
「これ…。」
私はさっきの店で購入した髪飾りを取り出した。店員さんにお願いして包装をしてもらっているから、中身はわからない。
「これは…?」
「えっと、今日誘ってくれたお礼。ミナに似合うと思って。」
「えっと…。開けていい?」
「もちろん。」
彼女は包装紙をきれいに剥がし、髪飾りを取り出す。
「きれい…。これを私に?」
「うん、喜んでくれたら嬉しい。」
「とっても嬉しい。私もこんなの欲しかったの。でも自分には似合わないかなと思ってて…。」
「そんなことないよ。とてもよく似合うと思う。」
「そう…。ねえ、ヒコサブロウ。この髪飾り、いま付けてくれない?」
「いいよ。ほら、これでいいかな。鏡がないから自分で確認できないと思うけど。」
「ううん。どう似合ってる?」
「うん、とっても。」
「そう。本当にありがとう。嬉しい。大切にするね。」
―――――
今日ヒコサブロウをデートに誘った。彼はデートかどうか考えているかわからないけど。
実は最近ヒコサブロウはモテ始めている。グリーンキャタピラーや幽霊屋敷の一件で、彼の実力が知れ渡るようになり、最速でDランク冒険者になった男。
将来性もあり、しかも本人の落ち着いた性格も相まって、彼を気にする女性が増えているとハーレに教えてもらった。セレンやアイラの気持ちには何となく気付いているけど、ライバルは思ったよりも多いみたい。
そんな焦りもあったのか、気付けば二人きりになった時に誘っていた。
当日の朝は緊張した。セレンに比べて女の子らしくないと自分でもわかっているけど、今日は彼に女の子らしさをアピールしたかった。だから普段は着ないワンピースを着た。準備に時間をかけ過ぎたせいで、待ち合わせ時間ギリギリになり、焦って宿を出た。
ギルド前にはすでに彼が待っていた。彼もいつもの冒険者装備とは違い、ラフな格好をしている。
待たせちゃったかなと声を掛けると、彼はこちらを向いて黙っていた。もしかして怒ってるかなと不安になったが、彼から出た言葉は「見惚れてた」。いきなりの直球で、こっちは赤くなった顔を隠すのに必死だった。でも可愛いと言ってくれて、この格好にして良かったと思った。
カフェでも服屋でも彼といる時間が楽しかった。「どっちが似合う?」との質問に、ちゃんと答えてくれたのも嬉しかった。
でも一番嬉しかったのは、最後のプレゼントだった。エメラルドグリーンの花をモチーフにした髪飾り。自分だけだったら、似合わないからと買うのを諦めてしまうような綺麗な髪飾りだった。だけど、彼は「とても似合ってるよ」と言ってくれた。
この時、私は思った。彼に恋してるんだなと。
彼は知っているのかな?
この花の花言葉は「色褪せない思い出」。彼なら「知らなかった」と言いそうだけど、それはそれで彼らしいなとかわいらしく思えてしまう。
今日の思い出は、私にとって色褪せないものになるだろう。そんな日だった。
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