第22話:とりあえず、ミナたちと臨時パーティー(幽霊屋敷⑤)
幽霊屋敷編 完結です。
そこに佇むのは黒い巨大なバケモノ。それが数秒前まで一人の人間の女性であったことは、誰が想像できるだろうか…。その両腕、両足はどす黒く腫れ上がり、垂れ下がった乳房からは妖艶さは皆無で禍々しさが漂う。それこそ長く生えた爪と口に生えた牙みたいなものからは、毒々しさすら感じさせるものがあった。
「なにあれ…?ちょっとやばくない?」
「うん…。どう考えてもEランクモンスターより強そう…。」
「二人とも、油断するなよ。あれはもう人間じゃない…。」
「オマエタチモ 『ニエ』ニ ナレ…。」
彼女、いやそのバケモノは、その人間らしさが唯一残っている言葉を発した後、こちら突進してきた。それなりのスピードはあるが、避けられない程ではない。
「二人とも、接近戦には持ち込むな。何があるかわからない。できるだけ遠距離魔法で対応するんだ。」
「「うん。」」
とは言っても、実質的にミナは戦力外になる。なぜなら彼女は遠距離魔法が使えないからだ。彼女の技能は戦闘と特殊魔法である身体強化のみ。相手の出方がわからない以上、セレンの光魔法で戦うしかないだろう。さすがにそれだけだと厳しくなるから、できる限り、こっちとの戦闘に持ち込むしかない。
「セレン、光魔法を!」
「うん!もうやってる!ちょっとだけ待って!」
「おい!バケモノ!こっちだ!」
「ワタシハ バケモノ ジャナイー!」
私の言葉に激昂したバケモノがこちらに向かってくる。
「グランドスワンプ」
バケモノの床に泥土が現れる。そもそもこの魔法は土属性魔法で、土壌があるところでその効果を発揮するが、高レベルになると何もないところからこのように土壌を発生させることができる。
バケモノが泥土に足を取られ、その場に立ち竦む。
「セレン、今だ!」
「うん。『ホーリーライト』!」
ホーリーライト。
光魔法に属する攻撃魔法。基本的な魔法のひとつだ。
セレンの魔法がバケモノの背中に直撃する。しかし、まだレベルが低いのか、表面の皮膚が少し爛れる程度だ。しかも…、
「フッフッフ、ソノテイド、ドウッテコトハナイ。」
バケモノがそう言うと、背中の爛れた箇所が紫色に光り出し、何もなかったかのように再生してしまった。こいつ、再生能力もあるのか。バケモノの表情からは直接読み取ることはできないが、その顔にはまだ余裕が見て取れる。
「ウオオオオオー。コンナモノッ!」
バケモノは力づくでグランドスワンプの沼から這い上がろうとする。すごい力だ。いくら土壌がないとは言え、土魔法レベル10状態での魔法から無理矢理抜け出そうとするなんて。あまり時間をかけてられないな。レベルが及ばない彼女たちを守りながら戦うのは得策ではない。
「セレンっ!『ホーリーシールド』で自分たちを守れ。これから上級魔法を使う。」
「うん!『ホーリーシールド』。」
セレンとミナのまわりに薄く光ったシールドが展開される。
「オマエタチヲ 『ニエ』ニシテ アノヒトヲ フッカツサセル!!!」
「生憎だが、お前にそれは不可能だ。」
「ナンダトー!マズハ オマエカラ 『ニエ』ニナレ!」
バケモノは泥土からその身体を引き剥がそうとした。
「そうはさせるか!くらえっ!『ホーリーバースト』!」
ホーリーバーストは、ホーリーライトの上位互換に相当する魔法で、光魔法
の中でも上位の攻撃魔法に属する
「グワワワワワー!ナンダ コノ イリョクハ!」
「悪いが手加減はできない。これまで贄にした人たち分の無念さを思い知れ!」
「ギヤヤヤヤヤー!コンナ… ワタシハ… アノヒトヲ…」
それがバケモノの断末魔となった…。もはや再生できるどころのダメージではない。セレンのホーリーライトで思った。言っては悪いが、セレンの光魔法のレベルはまだそこまで高くない。それでも皮膚が爛れるダメージを与えることができた。逆に言えば、火傷ではなく、それ以上のダメージを与えることができたとも見ることができる。つまり、あのバケモノは光属性に弱いと私は考えた。その証拠にホーリーバーストでは再生能力が追い付かなかった。
バケモノの身体からは黒い煙が発生し、身体の末端から灰となっているのが見えた。これがこの力の代償ということか…。
すでにバケモノの顔は、彼女、ハンネさんの顔に戻っていた。
「わ、私は、ただ…、あの人にもう一度会いたかった…。それだけだったのに…。」
彼女の頬に涙が流れた。あれが「涙」なのか、単なる代償の「液体」なのかはわからないが…。彼女は「でも、これであの人に…。」と言って事切れた。その直後、彼女の身体全身が灰に包まれ、消えてしまった。最期は笑っているように見えた。それが何よりも彼女の無念さを引き立てている感じがした。
―――――
事件から3日後。
私たちは、ギルドのギルマスの部屋にいた。
事件直後に、今回の顛末を報告し、その後、ギルド職員と複数の冒険者、そして私たちでハンネさんの屋敷が再捜索された。その結果、本館、つまり「幽霊屋敷」と呼ばれていて屋敷の地下室に横たわっていた遺体は、やはり行方不明者になっていたFランク冒険者と街の住民だと判明した。それ以外の遺体については、彼女が生前話していたように、おそらく街の浮浪者たちだろうという結論に至った。
今回ニラードさんのパーティーと捜索に携わったが、彼からは「今回は災難だったな…。」と労いの言葉をもらった。捜索に携わらなかったアイラたちからも「お疲れ様。何か大変だったみたいだね。」と心配された。
「ヒコサブロウ君、今回はお疲れ様。結果的に言えば、この依頼はとてもEランク冒険者で対応できるものではなかった。これはこちらの落ち度だ。今回たまたまヒコサブロウ君とミナ君たちのおかげで無事に依頼が達成できただけだ。」
今回は決してギルドの落ち度だけではない。本来はただの屋敷の調査だったのだ。あの段階で依頼ランクを更に引き上げようとする方が無理があっただろう。しかし、それでもギルマスは、自分たちの落ち度だとこうやって謝罪してくれた。こちらはそれで満足だった。おそらく彼女たちもそうだろう。
「埋め合わせというわけではないが、慰謝料も含めて、依頼報酬には最大限に色を付けさせてもらった。」
今回の報酬は一人当たり50万テーレ。Eランク依頼にしては破格の報酬だった。
しかし、なぜハンネさんが、このような恐ろしい犯罪に手を染めたのか。その経緯も含めて、全てがわかったわけではなかった。「魔精石」についても、どうやってその精製方法を入手したのか、この事件の全容は見えず、本当の意味での真実は、彼女の死とともに闇に葬られてしまった。
こうして、ミナが持ち込んだ「幽霊屋敷の調査」依頼は、思わぬ形となって終焉を迎えたが、何とも言えない複雑な心境だった。
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