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第21話:とりあえず、ミナたちと臨時パーティー(幽霊屋敷④)

 ドミニクさんから話を聞くことができた私たちは、お暇しようとした。

「これからどうするつもりじゃ?」

「そうですね。まだ屋敷の調査が途中なので、これから行ってみようと思います。」

 昨日は1階部分しか調査できなかった。先程の話を踏まえて、2階部分を調査しようとさっき3人で話し合ったところだった。


「そうか。気を付けていくといい。」

「はい。ありがとうございます。」

「あっ、ちょっと待て。確か本館、つまり『幽霊屋敷』と呼ばれている屋敷には、地下室がある。当時は食糧や備品をしまう部屋として使っていた。特に何もないと思うが、ついでに調べてみるといい。」

「そうですか。地下室のことは初めて聞きました。情報ありがとうございます。」

「いやいやなんの。地下室には屋敷の裏手側に階段から行けるからの。」

「はい。重ね重ねありがとうございます。」

 彼にお礼を言い、私たちは家を出た。


「これでハンネさんとの齟齬はもう一つ出たな。見せてもらった配置図には、そんなものは描かれてなかったはずだ。」

「そうだね。やっぱり何か変だね。今回の依頼…。」

「うん。気を引き締めていった方がいいかもね。」


―――――


 私たちは、昨日調査を中断した「幽霊屋敷」に戻ってきた。


「まず2階から調べてみよう。地下室は最後で。進む順番は、この前と同じでいいかな。」

「「うん。」」


 すでに調べた1階を通り抜け、最奥部にある階段を上ると廊下が現れた。左側に3部屋、右側に2部屋。それぞれの部屋を調べたが、特に目新しいものは発見できなかった。ボロボロになった家具や調度品が放置されていただけだ。

 私たちは2階の調査を早々に切り上げ、屋敷の裏手側に回った。


「ドミニクさんの話だと、裏手側に地下室への階段はあるって話だったよね?だけど草が生い茂っていて、どこにあるかわからないね。それにもう夕方になってきて、見づらいし…。」

「ほら、お姉ちゃん。しゃべってないで探して。」

「わかってるわよ。ええと…、この辺が怪しいわね…。」

「ううんと…。あっ、あったよ。この階段がたぶんそうだね。」

「さすがヒコサブロウ。」

「ははは。さあ、気を引き締めて行こう。」


 カンテラに火を入れ、薄暗い階段を下りる。鍵の掛かっていない扉を開けた瞬間、何とも言えない異臭が鼻をついた。


「うっ…。なに、この匂い。臭いってもんじゃないわ。」

「うん。鼻がおかしくなりそう…。」

「この異臭は死臭か…?」


 カンテラの明かりを前へ向けると、そこには死臭を放った死体が数体横たわっていた。直接は見えないが、ハエが飛び回っている音が聞こえる。


「これは…。」

「なに…?キャッ!何これ!?死体?」

「ああそうみたい。おそらく行方不明になった人だと思う。」

 死体のひとつを漁ってみると、ズボンのポケットから1枚のカードを取り出した。

「その証拠に、これ見て。」

「なに…?これは、冒険者カード。じゃあ、この人って…。」

「ああ。おそらく行方不明になっていたFランク冒険者の一人だと思う。」

 そのカードには「F」と書かれていた。

「もう少し調べてみよう…。まだ何か見つかるかもしれない…。」


 倉庫に使われていた部屋は、思った以上の広さを有しているようだった。あれから調べていくうちに、あれら以外にも横たわっている死体が見つかった。中には死後相当の期間が経過しているのか、白骨化しているのもあった。詳しい数はわからないが、明らかに現在判明している行方不明者の数よりも死体の数の方が多い。それは、街で把握されていない行方不明者がいたことを物語っていた。


「うん?あれは…。」

「なに?ヒコサブロウ。」

「いや、あの机の上に何かあるみたい。」


 部屋の奥に1つテーブルが置かれている。何かの作業台のように見えた。そこには1枚便箋用紙が置かれていた。何か書かれている。カンテラの明かりでそれを照らす。


「もうすぐ、もうすぐで彼を蘇らせることができる。愛しのローマン…。もう少しで彼に会える。だから待っててね…。」


―――――


 私たちは屋敷の調査を切り上げた。得られたものは無残に遺棄された行方不明者の遺体。そして何か怨念のようなものが込められた短い手記。

 これまでの情報から察するに、おそらく今回の幽霊屋敷とそれにまつわる行方不明者続出の件について、ハンネさんが何かしらの事情を知っているものと思われた。彼女は何かを隠している。そう思わざるを得ない状況だった。


 私たちはハンネさんのところに向かった。すでに陽が沈み、夜になっていたが、これ以上時間をかけるのは危険だと思ったのだ。ミナとセレンからも特に異論は出なかった。


 ハンネさんが住む屋敷に着き、入口のドアを叩く。しかし、中からは何も応答がなかった。先日訪問した時も疑問に思ったが、この屋敷には彼女しかいないのだろうが…。それなりに広い屋敷なのに、使用人ひとり見かけない。


「ねえ、ヒコサブロウ。ドアに鍵掛かってないみたい…。」

 ミナの言う通り、ドアに鍵は掛かっていなかった。どうしようかと、一瞬思案したが、思い切って中に入ることにした。ドアを静かに開け、中に入った。順番は調査の時と同じにした。念のためサーチをすると、一番奥の部屋にひとつ反応があった。おそらく彼女だろう。


 特に躊躇することなく廊下を進むと一番奥の部屋の前に着いた。


「二人ともいい?中には誰かいる。おそらくハンネさんだろう。何が起きてもいいように、準備だけはしておいて。」

「うん、わかった。」

「わかりました。」


 部屋のドアを開ける。ドアはギィィと音をたてながら、静かに開いた。部屋薄暗いものの、明かりの魔道具が天井から飾られ、最低限の明るさは確保されている。しかし、それが余計に部屋の不気味さを際立たせていた。


「ハンネさん、こんばんは。」

 私の声を聞くと、部屋の奥でフードを被った人物がこちらに振り返る。


「あら、皆さん。こんばんは。ごめんなさいね、来訪に気付かなくて。」

 その声は以前依頼の説明をしてくれたように物静かなものだったが、いまはそれに加えて不気味さが混ざっているように感じる。私の後ろにいるミナとセレンもそれを感じてか、何も言葉を発しない。


「その様子ですと、何かいろいろわかったようね。」

「はい。いろいろ調べさせて頂きました。屋敷のこともあなた自身のことも。」

「そう…。じゃあ、母の手記も見つけたのかしら…。」

「…ご存じだったのですか?」

「ええ…。他の冒険者は見つけることもできなかったようだけど。彼らは所詮報酬に目が眩んだだけでしょうから。あなたは優秀で律儀なのね。わざわざ竈の中に隠した母の手記を見つける程調査してくれるなんて…。」

「これも仕事ですので…。ドミニクさんにも話を聞きました。過去に屋敷で何があったのか。あなたに何が起きたのか。」

「ドミニク…?ああ、そんな使用人もいたわね。そう、じゃあ昔、私が婚約者を事故で亡くした話も知っているのね。」

「はい。」

「そう…。それで君は何をしに来たの?」

「今回の『幽霊屋敷』騒ぎの真相を突き止めに。」

「真相ね…。その幽霊屋敷の調査はどんな首尾だった?」

「…地下室で多くの遺体を見つけました。こちらが把握している行方不明者の数を超える程の遺体を…。」

「遺体ね…。せめて『贄』と言ってほしいわね。」

「『贄』ですか…?それから、あなたの手記も見つけました。」

「じゃあ、私の目的はわかってるんでしょ?」

「はい…。一応は…。」

「その顔はあまり納得している感じではなさそうね。」

「そうですね…。現実離れしている印象は受けますね。」

「随分畏まった言い方なのね。うちの母はそんな言い方ではなかったわ。『そんなことは馬鹿げてる。いい加減目を覚まして』ってね。あなたたちもそう思っているんでしょう?あの時の母と同じような顔をしているわ。」

「そうですね。お勧めはしません。というよりもう諦めて下さいというのが本音ですね。」

「そう…。あなたたちもそっち側なのね。まあ肉親である母がそうなのだから。他人であるあなたたちがそう思っても無理はないわね。でもね…。」

 彼女はそこまで言うと、懐から黒く輝く石を取り出した。


「それは…?あまりいい感じのものではないですね。」

「わかるの?あなた優秀なのね。そう、これは『魔精石』。人間の魔力を主成分として生成された石よ。まだまだ純度は低いけどね。まあ、一つの石を生成するのに何人もの人間の魔力が必要だからね。魔力を命ごと奪うとどうしても不純物が混ざってしまうのよ。」

「あそこに横たわっていた遺体は、その『魔精石』とやらを生成するために?」

「そうよ。最初は街の浮浪者を金で誘っていたけど、どうしても上手くいかなくてね。だけど魔力が高い人間から生成する場合は、不純物が少ない状態で生成できることがわかってからは、相手を冒険者に切り替えたけどね。まあ、それでも依頼ランクが低いせいで、そこまで純度が高いものは生成できなかったけどね。」

「そうですか…。それでこれからどうするのですか。できればこれ以上罪を重ねてほしくはないのですが…。」

「罪?いま罪って言ったかしら?これの何が罪なの?私はただ彼に会いたいだけ。それの何が罪なの?」

 彼女の声から初めて「怒り」が混ざっていることに気付く。


「ただ愛している人を復活させるだけ。彼らにはその『贄』になってもらうという使命があった。私はその使命を全うする手伝いをしたのよ。何も責められることはないわ。」

「………。わかりました。もう議論は止めにしましょう。ここであなたを捕縛します。」

「そう…。力づくってわけね。でもね、君。ひとつ忘れてない?私が何の準備もなく、あなたたちを迎えたと思うの?」

「いいえ。あなたが他にも何かしら秘密を隠しているはわかっています。」

「あらそう。やっぱりあなたは優秀なのね。よかったら、その秘密とやらを教えてくれるかしら?」

「ずっと疑問でした。状況証拠からして、あなたが今回の黒幕なんだということは推察できました。しかし、どうやって冒険者たちを手にかけたのですか?彼らも低ランクとはいえ冒険者。最低限の戦闘技術を有しています。それに素人のあなたが立ち向かえるわけがないと思っていましたが…。それもその『魔精石』のおかげですか?」

「ふふふ。正解。やっぱりあなたは優秀ね。じゃあご褒美を与えなくちゃね。」

 そう言うと、彼女は懐から小瓶を取り出す。中には黒い液体が入っている。


「『魔精石』はね…、体内に取り込むことでその能力を大幅に底上げすることはできるのよ。こんな風にね!!!」


「ふたりとも、下がれっ!」


 その石を丸ごと飲み込んだ彼女は一瞬にして黒い霧に包まれた。その霧が晴れた時、そこに彼女はいなかった。代わりに巨大な黒いバケモノがそこに佇んでいた…。

読んで下さり、ありがとうございます。


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