第20話:とりあえず、ミナたちと臨時パーティー(幽霊屋敷③)
何とか第20話まで投稿できました。
次は第30話を目指してがんばります。
私たちは、屋敷からギルドに戻ってきた。外はすっかり夜の帳が下りていた。酒場では冒険者たちが「今日の依頼はハズレだったぜ」とか「あの依頼は儲かるらしいぞ」など、悲喜交々飲み明かして騒いでいる。
そんな中、ある席に腰を落ち着かせたパーティーは、酒場の喧騒に合わない静かな口調で話し始めた。
「…とりあえず、明日はどうする?ハンネさんのところに行く?」
「そうだね。この日記を書いたのは、おそらくハンネさんのお母さんみたいだし。お姉ちゃんの言う通り、彼女に話を聞けば、何かわかるかもしれないね。どう、ヒコサブロウ君…。」
「うん。この日記については、ハンネさんに聞くのが一番手っ取り早いと思うんだけど…。何か引っかかるんだよね。この日記に書いてあった内容が事実だとすれば、少なくとも彼女は嘘をついていたことになるよね。そして、それは私たちよりも前に依頼を受注したFランク冒険者にも同様だったと思う。だから彼女が嘘をついた理由、もしくは何かを隠している理由がわかれば、幽霊屋敷の調査が進展すると思うんだ。」
「だったら、やっぱり彼女に聞いてみるのが早いんじゃない?一体何が引っかかるの?」
「えっ、彼女が嘘をついた理由。」
「じゃあ、やっぱり彼女のとこに行く方が…。」
「いや、少し攻め手を変えてみようかと思って…。」
「攻め手?どういうこと?」
「うん。今回の依頼の情報源って、最初はハンネさんの話だけだったじゃない?だけど屋敷からはこの日記が見つかった。だからまずはこの日記の信憑性を確かめてから、彼女に話を聞いてもいいんじゃないかなと思って。僕たちが持っている情報って、何か偏っている感じが否めないんだよね…。」
「なるほどね。でも確かめるって、どうするの?」
「うん。あの屋敷の近くに小さな村があったよね?まずはその村の人に屋敷のことについて聞いて回ろうかと思う。もしかしたら『幽霊屋敷』と言われた所以の手掛かりが掴めるかもしれない。あの日記が正しいとすれば、屋敷で何かしらの事件が起こったのは事実だろうから、そのあたりの情報が村民から聞き出せないかなと思って。どうかな二人とも。」
「そうだね。別に彼女の居場所はわかっているわけだし、その村から確認してもいいかもね。」
「うん。私も大丈夫。」
「ありがとう。じゃあ、明日は朝から村にいくつもりで。」
「「うん。」」
―――――
翌朝、私たちは屋敷の近くに位置する村、パムク村を訪れた。この村は小さな村であるものの綿花の栽培が盛んに行われ、その綿製品が村の貴重な交易品になっており、結構活気がある村だった。
とりあえず情報が集まるのは「酒場」かなと思い、朝食を取りがてら、酒場にいる客に「幽霊屋敷」について聞いてみた。しかし、「あそこには女性の悪霊が出るらしいぜ」とか「俺は子供の幽霊って聞いたぜ」など、噂の域を出ない情報ばかりだった。
「まあ、ある程度は予想できていたけど、やっぱり幽霊屋敷の表面的な噂ばかりだね。幽霊屋敷が有名なのはわかったけど…。」
「そうですね…。どうします?まだ聞き込みを続けますか?」
「そうだね…。まだ来たばかりだしね…。」
「じゃあ、屋台の人やその辺の村人に手分けして聞いて回りましょう。」
ミナの掛け声で、私たちは手分けして聞き込みを開始した。
2時間後。私たちはまた酒場の前に集合して情報の突き合わせを行った。しかし、どれも噂以上のものはなく、芳しくない結果だった。
「どうする…?ヒコサブロウ。」
「そうだな…。まあこの村からはすでに得ている以上の情報はなかったということで、街に戻るしかないかな。ハンネさんのところに行こう。」
「うん。わかった。」
「ちょっと待て。お主たちか、あの屋敷のことを嗅ぎ回っているのは。それにさっきのハンネというのはハンネお嬢様のことか?」
その声に私たちは後ろを振り返ると、そこには腰が少し曲がった初老の男性がひとり佇んでいた。
―――――
「まあ、適当に座ってくれ。いまお茶を出すから…。」
「いいえ、お構いなく…。」
突然、私たちに声をかけてきた、この初老の男性の名前はドミニク。聞けばあの屋敷で以前使用人として長く働いていた人だった。私たちが屋敷のことを聞き回っていると知り、不審に思ったらしく、声をかけたとのことだった。
「さっきはいきなりすまんかったの…。てっきり盗賊の類いかと思って警戒していたんじゃ…。」
「いいえ。こちらも手当たり次第という感じでしたから…。疑われても致し方ないかと。」
「ほっほっほ。その謙虚な姿勢、最近では見かけないできた青年じゃ。」
「それでじゃが…、なぜお主たちはあの屋敷のことを調べておるんじゃ?」
私たちは、今回の依頼について話すことにした。ギルド経由でハンネさんから屋敷の調査依頼が出ていること、そしてFランク冒険者を始め、10人以上の行方不明者が発生していること、そして屋敷の主人と思われる人の日記を見つけたこと。
ドミニクさんから、私たちが発見した日記を見せてほしいと言われ、それを見せた。最後のページを読んだ彼は、こちらに聞こえるか聞こえないかぐらいの大きさの溜息をついた。
「これはおそらく奥様の日記で間違いないじゃろう…。」
「奥様とはハンネさんのお母さんのことでしょうか?」
「そうじゃ。当時あの屋敷にはマルタ奥様とハンネお嬢様、そして私を含めた数人の使用人が暮らしておった。エルマー様、つまりお嬢様の父であったご主人様は、お嬢様が幼少の頃に病気に亡くなった。まあそれなりの遺産を残されておったから、特に不自由な生活を強いられることはなかったがの。」
「なるほど。私たちがハンネさんから聞いた話と齟齬があるようですね。彼女は、あの屋敷で母親は一人で暮らしていたと言っていましたし…。まあ使用人はいたとも言っていましたが…。」
「そうか…。お嬢様はそんなことを…。確かに、お嬢様にとって、あの屋敷にはあまり良い思い出はないからの…。自分が暮らしたという事実を消したくなる気持ちもわからんでもないわい。」
「あの屋敷で何があったのですか?日記によれば、何かしらの事件があったと推察されますが…。」
「…あれは今からもう30年以上前になるかの。ハンネお嬢様の婚約者であったローマン様が不慮の事故で亡くなられたのじゃ。結婚式を挙げる直前のことじゃった。その訃報を聞いたお嬢様は、当時大変悲しく嘆かれた。それも当然じゃ。私たち使用人から見ても、とてもお似合いの二人じゃったし、何よりもお互いに非常に愛し合っておられた…。」
彼は少し涙ぐみながら言葉を続けた。
「その事故以降のことは、日記に書かれている通りじゃ。しばらくお嬢様は悲嘆に暮れられていた。しかしある日突然元気になられた。奥様を始め、使用人たちもこれで立ち直ってくれると喜んだものじゃ。しかし、それはまやかしだった。すでにお嬢様は狂気に憑りつかれておった…。使用人もみんな辞めていき、奥様とお嬢様だけが残った。奥様も相当心残りだったのじゃろう…。そんな日記を残すなんてな…。それから奥様が亡くなられたと風の声で聞いた。その後しばらくしてじゃな。あの屋敷が『幽霊屋敷』と囁かれるようになったのは…。」
「日記によれば商人が出入りしていたようですが…。それとハンネさんの凶行には何か関係あるのでしょうか?」
「それはわからん。確かに一時期、いつもとは違う商人が出入りしていた時期があったことは覚えている。あの時は奥様も何とかお嬢様を立ち直らせようと、いろいろ買い与えていたからの…。その件で呼ばれたのかもしれん…。」
「そうですか…。」
「なあ、お嬢様は息災かの?」
「えっ…、はい。私たちがお会いした時は、物静かな感じでしたけど…。いまは街にある屋敷に住まわれているようです。」
「そうか、別館に…。いや、時間を取らせてすまんかった。儂が話せるのはここまでじゃ。」
「いいえ。こちらこそありがとうございました。参考になりました。」
「なあ、冒険者よ。この爺からのお願いじゃ。もしまだお嬢様が狂気に憑りつかれておるなら、もう解放してやってほしい。たのむ…。」
彼は肩を震わせながらそう言った。今にも枯れそうな声で。
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