第2話:とりあえず入念に準備をしたいと考える。
今日は続けて投稿したいと思います。
さて…、とりあえず状況を確認しよう。
目の前には、まるで緑色の絨毯を敷いたような、草原が広がっている。いや目の前だけではない。周り一面が緑だ。その草原に、1軒の家があり、その扉(引き戸)の前に、私は立っている。
もう異世界に来たのかな…?あれ、準備期間は…?そう途方に暮れ始めた瞬間、「ここは転生先の世界ではありません。準備用の亜空間です。」とミコトさんはそう言った。ちょっと、顔が赤いけど…、あれかな、さっきの叫び声が恥ずかしかったのかな。
「さっきの声、よく通っていましたよ。安心して下さい。」
仮にも100年の天寿を全うした私だ。当然フォローは忘れない。
ほら、彼女も目に涙を浮かべて、プルプル身体を震わせながら、こちらを見ている。そこまで感動しなくてもいいのに。
「…はあ。早速ですが、準備期間の説明を行います。」
身体の震えが止まった彼女は、少し肩を落としながらそう言うと、左手に青い冊子を持って説明を始めた。要約するとこんな感じになる。
●準備期間は最大100年。途中で切り上げてもよい。
●期間中は座学と実技を行う。座学では異世界の常識を学び、実技では護身術を身に付ける訓練を行う。護身術の内容は、本人が決めてよい。追加特典として、それぞれ専属の講師(神様的な人らしい) が付く。
●食事や睡眠は特に不要だが(死んでいるから…)、衣食住の準備はある。一軒家がそれに当たる。
「説明は以上になりますが、何か質問はありますか?」
「いえ、特にありませんが、これからどうすればいいでしょうか?」
「座学は私が担当させて頂きますが、実技に関しては、それぞれ専門分野により講師を決めますので、まずは彦三郎さんの要望を教えて下さい。一応、カタログも用意致しました。」
カタログには、魔法や剣術などの様々な内容が記載されていた。まあ、100年もあるから、とりあえず興味あるものから始めよう。
私は、以下の4種類を選択することにした。
●格闘(父が空手の師範で、私も教えてもらった。)
●剣術(中学・高校は剣道部だった。)
●弓術(妻が弓道部に在籍していた。私はやったことはないが…。)
●魔法全般(やっぱり憧れるから。別に興奮していない。)
それからの日々はあっという間に過ぎていった。
早朝からの実技訓練、(寝なくても大丈夫なはずなのに…)眠気と戦った座学、何度も死ぬと思った(もう死んでいるが)真夜中まで及ぶ実技・実技・実技。50年くらい経ってからは、新たに「槍術」と「精霊術」、そして「鍛冶」を実技に追加した。「精霊術」は、まあ魔法の親戚のようなものだ。
それぞれの講師も、喜々として私を鍛えてくれた。
どうやら講師達(各分野の神様らしい…)にとっては、いい気分転換になるらしく、思った以上に力が入ってしまったとのことだった。とりあえず厳しかったとだけ言っておこう…。
「100年間」という時間の長さは経験済だったが、今回の「100年間」は、あっという間に過ぎ去ったものだった。
そして、準備期間の最終日を迎えた。
目の前には1つの扉がある。
身支度を整えた私の周りには、ミコトさんを始めとした講師達が見送りに来てくれた。
「まさか本当に100年間も修行されるとは…。とりあえずお疲れ様でした、とだけ言っておきます。」
「こちらは修行というよりは、最大限準備をしたかっただけなんですが。とにかく長い間、お付き合い下さり、ありがとうございます。」
何か学校の卒業式みたい。剣神はスーツを着ており、「お父さん」という感じを醸し出している。えっと…魔法神のお爺さん、お願いだから泣きそうな顔で見ないで下さい。私ももらい泣きしてしまう…。まあ歳を取ると涙もろくなるというし…、一応生前と合わせて200歳ですから(笑)。
「この扉を開けば、新しい世界『ファーロニア』に転生できます。成人を希望されておりましたので、15歳から新たな人生をスタートすることになります。」
「そうですか。いろいろありがとうございました。」
「こちらこそ、久しぶりに有意義な時間を過ごさせて頂きました。この100年間はとても楽しかったですよ。」
彼女が笑顔でそう言ってくれた。こちらも思わず微笑んでしまう。
「本田彦三郎さん、いえ、向こうの世界では『ヒコサブロウさん』になりますが、最後にひとつだけ注意事項があります。」
ファーロニアでは、名字が付くのはある一定の身分以上に限られるということだったので、「本田」という名字はとりあえず封印することにした。
「あなたは100年間という時間を利用して、座学や実技を学んで頂きました。すでにご存知の通り、ファーロニアと地球との環境は大きく異なります。これから生きていく中で、望む望まずに関わらず、戦闘行為に及ぶことになることもあるかと思います。
どのように生きていくかは、あなたの勝手ですので、こちらから命令を出すようなことはしません。しかし、あなたのその実力は、ファーロニアでも圧倒的に高いことだけは認識しておいて下さい。その力を誤った方向に使わないことを祈っております。」
「わかっています。もちろん自由に生きていきたいと思いますが、他人の不幸の上に、自分の幸福を築くような真似はしないつもりです。自分のできることを、コツコツと積み上げながら、普通に生きていくだけです。」
「…そうですか。わかりました。さて、もう会うことはないと思いますが…。いえ、もちろんファーロニアで亡くなった際は、またお会いできると思いますが…。すみません、これは今お話しすることではないですね。
それでは、ヒコサブロウさん、新たな人生に祝福があらんことを。」
「本当にありがとうございました。また私が死んだらお会いしましょう。」
そう言って、ドアのノブを掴み、そのドアを開いた。
後ろから、小さな声で「お元気で」と聞こえた気がした。
とにもかくにも、こうして、新しい世界「ファーロニア」での人生の幕が開いた。
読んで下さり、ありがとうございます。




