第18話:とりあえず、ミナたちと臨時パーティー(幽霊屋敷①)
ブクマ増えてました。
ありがとうございます。励みになります。
「フォレストウルフ5匹の討伐、確かに確認しました。依頼完了です。」
「ありがとう。じゃあまた。」
「はい!またよろしくお願いします。」
受付嬢キャロさんの明るい声を背にギルドを出た。
Dランクに昇格してから、早2か月。相変わらずマイペースに依頼をこなしながら、それなりに充実した生活を送っている。時折、ミナやセレン、アイラたちと食事を一緒に取ることもある。彼女たちも晴れてEランク冒険者に昇格したそうだ。
Dランクになった私はCランクの依頼までなら基本的に受けることができる。但し例外もある。それは商人の護衛依頼や要人の警護依頼だ。これらは経験を培う必要があるので、Dランク冒険者が単独で受けることはできず、Cランク以上のパーティーと一緒に受ける必要がある。まあギルドが特別に認めれば受けることはできるらしいが…。
それに、これらの依頼をこなすには、もうひとつ重要な要素がある。それはパーティーを組んでいるか否か。護衛や警護対象は複数人に及ぶこともあり、ソロ冒険者では物理的に隙が生まれやすくなってしまう。私の場合、特殊魔法や召喚魔法でそれをカバーすることはできると思うが、特殊魔法についてはまわりに秘密にしているため使いづらいのが難点だ。ちなみに召喚魔法は闇魔法に属するが、召喚物が闇魔法レベルに比例するため、あまり強力な魔物を召喚すると、まわりにレベルがばれてしまう恐れがある。これもなかなか難しい点である。ギルドからは「パーティー」を組まないのかと勧められているが、とりあえずはまだいいと体裁よく断っている。
それともうひとつ大きな問題がある。それはCランクの昇格条件である。Dランクまでは依頼達成数が条件となるが、Cランクへの昇格には試験がある。この試験は、ギルドから派遣される試験監督のもと、討伐依頼と護衛依頼の両方を受け、合格をもらわなければならない。いくらギルドからの派遣員としても、自身の本当のレベルがばれてしまうのは、よくない気がするので、これも今の私を悩ませている。特に冒険者を極めたいとも思っているわけではないが、あまりに昇格意欲を見せないと、それはそれで不自然なので、いつかは解決したい問題ではある。
そういうわけで、現在の私は主にDランクの依頼を受け、時折、Cランクの討伐依頼を受ける日々である。
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「幽霊屋敷の調査?」
ある日のこと。そろそろ夏本番かなと思う暑い日の夜のことだった。ミナとセレンに誘われて、ギルドの酒場で一緒に夕食を取っていた。今日も私は依頼をこなし、彼女たちも依頼をこなした夜だった。まわりの冒険者たちも思い思いに酒を飲みながら、今日という日を振り返っている。そんな時に聞いたミナからの合同依頼のお誘いだった。
「幽霊屋敷の調査なんて、そんな依頼あったっけ?」
「さっき依頼の完了報告した時にキャロから聞いたんだけど、何でも明日からEランク依頼で貼り出されるらしいの。どう?」
「いや…。どうって言われても。詳細を確認してみないと何とも…。ミナとセレンはその依頼受けるの?」
「そうだよ、お姉ちゃん。まだ依頼内容の詳細を聞いてないのにヒコサブロウ君を誘うなんて…。」
「だって、Eランクにしては報酬がいいのよね。それに何か曰く付きらしいし。」
「そりゃ『幽霊屋敷』なんて曰く付きなんだろうけど…。」
「ちがう、ちがう。そうじゃなくて。この依頼はこれまでFランクの依頼だったらしいんだけど、何か行方不明者が出ちゃったらしくて、依頼ランクを上げることにしたんだって。」
「行方不明…?」
「うん。何でもその幽霊屋敷って街外れにあるらしいんだけど、その辺じゃ有名な屋敷だったらしいの。それでね、それをおもしろがった街の若い連中が肝試しがてらその屋敷に侵入したらしいの。だけどそれきり戻ってこないんだって。」
「そうなんだ。だけど昔から有名だったら、何で今さら調査依頼なんて…。行方不明者の捜索ってこと?」
「いや、そこまでは聞いてないけど…。」
「じゃあ、明日依頼を受けるにしても詳細を聞かなきゃなんだね。」
「そうだね。どうヒコサブロウ。興味ない?正直言うと、セレンと二人きりだとちょっと不安なんだよね…。」
「ははは、それが本心か。だけど報酬の分け前が減っちゃうけどいいの?それにそういうことならアイラたちを誘えば?」
「アイラたちはもう別の依頼が入っているんだって。」
「なるほど。まあ、いいよ。特にこれといって用事もないし。まずどんな依頼内容か聞いてみよう。」
「さすがっ!ヒコサブロウなら協力してくれると思ったよ。」
「ごめんね、ヒコサブロウ君。何か巻き込んじゃったみたいで…。」
というわけで、彼女たちと臨時パーティーを組むことになった。
―――――
「お待たせ申し訳ありません。私がその調査依頼したハンネと申します。今回は依頼をお引き受けして頂いてありがとうございます。」
「いいえ。こちらも仕事ですから。早速お話を伺ってもよろしいでしょうか。」
「はい…。」
明くる日、私たちはギルドに依頼受注の話をしに行った。受付嬢はミルさんだった。彼女曰く、「ヒコサブロウさんも一緒なら大丈夫ですかね。」と言って、依頼受注の手続きをしてくれた。しかし、依頼内容の詳細は、依頼主に直接訪問して確認してほしいとのことだった。
依頼主のハンネさんは、街郊外にある屋敷に住んでいた。屋敷から察するにそれなりの資産があると思われた。依頼報酬が高いのも納得がいく。年齢は50代半ばといったところだろうか。ところどころに見える白髪が年齢を思わせる。
彼女の屋敷に訪問すると、彼女自ら出迎えてくれ、応接間に通された。そして、彼女自身がお茶とお菓子を持ってきてくれた。執事やメイドの類いはいないのだろうか…。とりあえず、ミナ。お菓子を食べるのは依頼内容を聞いてからの方がいいと思うぞ。
「あの『幽霊屋敷』は、元々は私の母親が住んでいたものでして…。当時から母は一人で暮らしでして、あとは何人かの使用人がいる程度でした。しかし、その母が10年前に亡くなって、私が相続したのですが、この通り、住む屋敷に不自由はなかったので、お恥ずかしい話ですが、特に手入れすることもなく放置しておりました。ところが、私も年齢を重ね、自分の資産を整理することになりまして…。あの屋敷も売却処分してしまおうかと思った矢先、いつの間にか『幽霊屋敷』と呼ばれるようになっておりまして…。」
「なるほど…。ちなみに幽霊屋敷と呼ばれるようになった所以などは…。」
「いいえ、特には。母も長生きして最後は単なる病死でした。まあ、手付かずの屋敷というものには、何もない所から噂が立ち、その噂に尾ひれが付いて、大げさになるものだと資産管財人は言うのですが…。なにぶん、評判が悪いと売却価格にも影響がありますし…。そもそも私が気味悪くなってしまって…。もしかして、手付かずに放棄していたのが災いして本当に幽霊が住むようになったのかもしれないと思うと、何となく母に悪い気がして、今回の調査を依頼したのです。」
「そうですか。ちなみに依頼はいつ頃…?」
「約1ヶ月前です。幽霊屋敷とは言っても、単なる屋敷の調査ですので、ギルドからはFランク依頼だと言われました。しかし…。」
そこまで言うと、彼女は黙ってしまった。震えた手を握りしめていた…。
そこからはこちらもギルドから聞いている。ミナが言っていた街の者が行方不明になっている話は本当だったが、実はFランク冒険者も行方不明になっているというのだ。
もともとランクに比べると報酬が良かった依頼だったらしい。しかも内容は単純な調査依頼。Fランク冒険者が何組か依頼を受注したそうだが、その全員が行方不明になってしまった。その人数、3パーティー10人。街の者の行方不明を含めると、これまで13人が行方不明になっているとのことだった。それを重く見たギルドは、依頼ランクはEランクに上げた。当初は誰かに指名依頼を出そうとしたようだが、そこに私たちが来たということらしい。ミルさんからも「ヒコサブロウさんなら大丈夫だと思いますが、くれぐれも注意して下さい…。」と念押しされてしまった。
さて、ミナに誘われて引き受けた「幽霊屋敷」の調査だが、どうもきな臭い話になってきた…。
読んで下さり、ありがとうございました。