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第15話:とりあえず、またやり過ぎたけど、まあ良しとしよう。

 奴らはまるで置物のように、そこに佇んでいた。あたかもそれは儀式が次の段階へ移行するのを待っているようであり、この中から自分たちのボスが誕生するのを待ちわびているかのような光景だった。


「とりあえず気付かれずにここまで近付くことができました。これから第一撃を加えます。皆さんは少し離れていて下さい。」

 ここにいるのはいつものメンバーである。本隊は奴らに気付かれないギリギリの場所まで進行し、さらに中心メンバーだけで進行している。


「よし、わかった。」

 隊長のその言葉が攻撃の合図となった。


「ウインドアロー」

 風属性の魔法では一般的な魔法で、威力は魔法力に依存する。他にも強力な風魔法は存在するが、これを選んだのには理由がある。


 詠唱とともに大きな風の塊が自身の上空に出現し、さらに大きくなる。まわりに突風が巻き起こるせいで、奴らにも気付かれてしまうが、多少はやむを得ない。その塊をまるで、矢を放つように、奴らの上空に放った。


「風よ、散れ!」


 その言葉を唱えた瞬間、上空に渦巻いていた塊が、数十本の矢に変化し、奴らに向かって放たれる。


「「「「「キィィィーーー!!!」」」」」


 幾たもの矢に穿かれた奴らは悲鳴を上げながら、その命を絶やしていく。奴らは一目散にその場から逃げようと試みるが、すでに発動させていた私のグランドスランプで、上手く移動することができない。そこを更に放ったウインドアローで攻撃していく。言ってみれば、停止している的に矢を放つようなものだ。


 3撃のウインドアローで、目測ではあるが、奴らの半数が一瞬にして絶命した。このまま押し通せると判断した私は、その攻撃の手を緩めなかった。さらにウインドアローを放つ。


 気付けば、その場にいたグリーンキャタピラーたちは、そのほとんどが息絶えていた。


 ふと、背後を見ると、隊長をはじめとしたメンバーが唖然とこちらを見つめていた…。前回に引き続きやり過ぎた感は否めないが、やってしまったものは仕方がない。とりあえず何か話しかけよう。


「隊長…。とりあえずこんな感じになりました…。まだ生き残っている奴がいないかの確認は必要ですが、これでほぼ片が付いたはずです。」

「「「「……………。」」」」


 ええと…。やっぱりやり過ぎた?


―――――


 現在は奴らの生き残りを確認しながら、殲滅戦を行っている。


「いやー、噂以上の威力だな。まさかこちらに損害を出さずに討伐することができるとは…。バシュラトへの援軍要請は取りやめた方がいいな。」

「そうですね、隊長。まさかヒコサブロウ君の魔法がここまでだったとは。ニラード君の報告以上ですね…。これでFランク冒険者とは…。」

「こいつは規格外だからな。俺らのパーティーよりも断然火力がある。」

「そうだね。はあ、自分がCランクというのが自信なくすな…。」

「ははは…。何かすみません…。」


 中心メンバーは、息絶えた奴らの間を歩きながら、そんなことを呟いていた。


「こんなに簡単に済むなら、今までの作戦が何か無駄な感じがしてきた。」

「隊長、それは言わないで下さい。それは私だけではなく、他の隊員も同じ気持ちだと思います。」

「副隊長の言う通りです。私もヒコサブロウだけで良かったんじゃないかと思ってしまいます…。」

「……。」

 みんなの意見に何も言い返せなかった。というより、どんな反応が適しているかわからなかった。


「とりあえず、奴らは燃やしてしまいましょう。この数がアンデッド化したら面倒です。」

「ヒコサブロウの言う通りだな。森への延焼に注意しながら、各自で燃やしてしまおう。」

 隊長の指示の下、各隊員が奴らに火をつけ始めた。


「隊長。とりあえず討伐はこれで完了のようですが、この後どうしますか?一度、バシュラトに報告に戻りますか?」

「そうだな…。取り急ぎバシュラトには誰か報告に行かせよう。我らは生き残りがいないか確認する必要がある。」

 隊長の言うことは最もだった。これで他の場所に群れがいたら、それこそ目も当てられない。


「それでは、念のためニーデ村とタルス村にも確認しに行った方がよろしいのではありませんか?」

「それもそうだな。よし、バートの言う通り、その村も確認し、周囲の安全が確認できたら、バシュラトに戻ろう。」


―――――


 森で群れを成していたグリーンキャタピラーを討伐した翌日、ニーデ村とタルス村を含めて、周囲の安全確認が取れた私たちはバシュラトへと帰還した。帰還後、ブロス隊長を始めとするバシュラト軍は、今回の報告のため、領主の館に直行した。「ヒコサブロウは、今回の件で褒美が出るかもな。」と隊長に囁かれたが、聞こえないフリをした。副隊長はそれを見て笑っていた。


 一方、バートさん始め、冒険者たちはギルドへ向かった。こちらはこちらでギルドへ報告するためだ。まあ、すでに先発組がバシュラトに報告に向かっているから、討伐完了の報は届いていると思うが…。


 ギルドに入ると、そこには多くの冒険者たちが集まっていた。みんな、今回の緊急依頼に携わったメンバーだ。周りから「よくやったぞ。」「おつかれさま。」との言葉は浴びせられた。その中にはミナやセレンもいた。彼女たちとアイコンタクトで挨拶をする。


 ふと上を見ると、建物2階の廊下からギルマスとサブマスがこちらを見下ろしているのが見えた。その姿を確認し、バートさんとニラードさんが2階へ向かう。「ヒコサブロウも一緒に来い。」とニラードさんに言われ、彼らの後に付いていった。


―――――


「今回は討伐任務お疲れ様。報告はすでに聞いているが、何とか『成虫の儀式』を妨害することに成功して、こちらも一安心だ。なかでもヒコサブロウ君は大活躍だったとブロス隊長の報告にはあった。何でも魔法で奴らを全滅させたとか。」

「まあ、今回はたまたま運が良かっただけです。」

「おいおい、あれが運なわけないだろうが。ありゃ立派な実力だぜ。ギルマス、こいつはもうFランクなんかじゃないですよ。もっとランクを上げるべきだ。」

「そうですね。ニラード君の意見は私も賛成です。Cランクの私から見ても、その実力には目を見張るものがありました。」

「ふたりとも、あまり私を持ち上げないで下さい。恐縮してしまいます…。」

「何言ってんだ?冒険者なら冒険者らしく、誇っていい結果だったと思うぜ。」

「バート君とニラード君の言う通り、彼の実力はすでにFランクの枠を超えている。そこで、ゴンザとも話し合ったが、彼を今日付けでDランク冒険者に昇格させることにした。本当はそれ以上でも実力的には問題ないかもしれないが、冒険者に求められるのは、戦闘能力だけじゃない。高ランクになると護衛任務等もあるからね。それにCランクへの昇格は昇格試験もあることだし。しばらくはDランク冒険者として、経験を培ってほしい。」

「ええと…。昇格は有難いのですが、Eランクを飛び越えて、いきなりDランクでいいのでしょうか。」

「そこは問題ない。まあギルドからの期待値も含めての昇格だからね。それに君の性格なら、昇格したからといって、天狗になることもないだろうし。」

「そこまで期待されるのは恐縮ですが、わかりました。これからも宜しくお願い致します。」


 ギルマスの部屋を出ると、すでに1階の酒場ペースでは宴会が行われていた。ミナやセレン、アイラのパーティーを見かけたので、そこに向かうことにした。


「おいっ!『虫殺し』に酒を持ってこいーっ!」

 そんな声が聞こえてきた。どうやら今回の件で「虫殺し」というあだ名が付けられたらしい…。何というか複雑な気分だ。そのネーミングセンスも含めて…。


「おかえり、ヒコサブロウ。大活躍だったね。」

「無事に戻ってきてよかったです。」

 ミナやセレンから労いの言葉が掛けられる。


「これで後はヒコサブロウに奢ってもらうだけだね。」

 アイラの元気な声に、「やっぱりそうなるんだ。」と思いながら、「もちろん、何でも奢ってあげるよ」と気前よく返している自分がいた。


 無事に帰ってきたなと思い、いつもよりもテンションが高い自分がいた。

読んで下さり、ありがとうございました。

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