第12話:とりあえず、やりすぎた感が否めない。
久しぶりの投稿になりました。
またお付き合いして頂ければ幸いです。
150匹を超えるグリーンキャタピラーが、ゆっくりと着実にこちらに向かって来ている。ニラードさんは戦闘開始の合図を出すタイミングを見計らっている。
まずは私の魔法による先制攻撃だ。
「グランドスワンプ」
土魔法に属する中級魔法。土中に存在する水分を刺激して、地面を沼に変化させる魔法だ。土中にある水分の量にも作用されるが、私の場合は水魔法も併せて発動させているため、一定以上の効果が得られる。
地面に沼地に姿を変え、奴らの進行速度が目に見えるかたちで遅くなった。もともと早い速度ではなかったので、その場で立往生しているように見える。
「サンダーボルト」
そして2撃目。水分を十分に含んだ沼地に目掛けて雷を浴びせる。曇天を利用して、雷魔法の発動条件を緩和させた。立往生しているところに雷撃が加わり、奴らは「キィィィー」と断末魔を上げ、その場で絶命した。
これである程度の数は減らせただろう。そう思って後ろを振り返ると、ニラードさんたちが茫然と立ち尽くしていた。
「ニラードさん、どうしました?まだ奴らは来ますよ。」
「いや…。来ますって。お前見てみろよ。もう全滅してるぜ。」
「えっ…?」
その言葉に再度前方を振り返ると、150匹以上いたグリーンキャタピラーが、その場で全て真っ黒焦げになっていた。しまった…、やり過ぎた。
「ええと…。確かに全部死んでるようですね…。」
「はっはっは!お前すげえな!いくら相手がEランクモンスターだっていったって、あの数を一瞬で葬るなんて。なあ、マルク?」
「ああ。あんな規模の魔法は初めて見たぜ。お前、本当にFランクか?」
「ええ、そうですね…。Fランクです。たぶん。」
「なんでそこで自信がねえんだよ。まあいいや。何か拍子抜けしちまった。」
「こら、ニラード。油断しない。後続がやってくるかもしれないから、さっさと撤退しましょう。」
「ああ、そうだな。正直覚悟したつもりだったが、無駄になったみたいだな。」
スナさんの発言に気を引き締めたニラードさんの先導によって、グリーンキャタピラーの死骸を後にしつつ、私たちはその場から撤退した。
その後は小休止を挟みながらバシュラトに向かった。その途中に討伐班のメンバーと遭遇したが、グリーンキャタピラーの動きを踏まえ、再度作戦を練り直す必要があるということになり、バシュラトまで一緒に戻ることになった。
まもなく夜を迎える頃、無事バシュラトに戻ることができた。
―――――
討伐班とともに冒険者ギルドに戻ると、「ギルマスがお呼びです。」とミルさんに言われ、2階の部屋に向かう。ニラードさんたちは、先行して報告を済ませているようだった。部屋の前に彼らパーティーに会ったが、意味深な笑顔を向けられた。気になる…。
「聞いたよ、ヒコサブロウ君。すごい活躍だったそうじゃないか。」
「いえ、そんなに大したことは…。」
ギルマスは開口一番にそう言って褒めてくれた。少し恐縮してしまう。
「ニラード君からも聞いたけど、100匹を超えるグリーンキャタピラーを魔法で一撃だったそうじゃないか。噂以上の活躍ぶりに驚いているよ。」
「まあ、その、たまたま運が良かっただけです。」
「相変らずの謙遜ぶりだね。そこまでできるFランク冒険者なんて聞いたことないけどね。」
「まあ、戦いには相性もありますから…。」
「それも一理あるね。まあ、この話はここまでにしておくとして、君を呼んだのは、これからのことを話すためだ。実は今日、ブライト伯爵から連絡があって、明朝に討伐軍が派遣されることになった。それに合わせて、冒険者ギルドからも討伐班を選抜して一緒に事に当たることになった。討伐班の選抜はすでに終わっているが、これにニラード君のパーティーと君を追加することになった。調査班は実際に現状を目の当たりにしているしね。ニラード君のパーティーは実力的に問題ないと思う。そして君もね。君の言う通り、今回の任務には相性が良さそうだ。引き受けてくれるね。もちろん追加報酬は出す。」
ギルマスからの直接の依頼ということもあり、また、この状況を何とかしたいという思いもあり、これを引き受けることにした。明朝、城門に集合するとのことだった。今日はもう休んでよいとの指示だったので、お言葉に甘えることにして、宿に戻ることにした。
ギルマスの部屋を出て、1階に降りると、ニラードさんたちを見つけた。先程の話から推察するに、彼らにもすでに討伐班編入の話はあったのだろう。ニラードさんは、私を見つけると、こちらに近付いてきた。
「よう。話は聞いたか。」
「はい。討伐班のことですよね。バシュラト軍との共同作戦のようで。」
「ああ。今日はゆっくり休んで、明日はがんばろうや。」
「はい。」
ニラードさんたちはそう言って、建物を出て行った。そして、出入口にミナ、セレン、アイラ、ハーレの4人がいることに気付いた。向こうはすでにこちらに気付いていて、ニラードさんたちが出て行ったのを見計らって、こちらに近付いてきた。
「ヒコサブロウ、今日はすごい活躍だったんだって?」
ミナが少し興奮した面持ちで尋ねてくる。
「まあ、運が良かっただけどね。」
「でも、すごい魔法だったって噂になってるよ。」
これはニラードさんが広めたな…。まあ、決して悪い情報ではないから仕方ないか…。ただ、あまり目立ちたくないんだけど…。
「ヒコサブロウは、明日の討伐班に参加するの?」
一方、セレンは少し心配そうな表情だった。
「うん。さっきギルマスから依頼を受けた。明日はバシュラト軍と一緒に共同で討伐に向かうことになった。」
「そう…。気を付けてね。」
「ああ、ありがとう。」
アイラは「そうだよ。無事に戻ってきたら奢ってもらわないと」と笑顔で言い、ハーレはそれを嗜めていた。「その話まだ生きてたんだ」と少し苦笑いしながら、ギルドを後にした。
―――――
明朝、城門に向かうと、すでにバシュラト軍と思われる一団は整列して待機していた。冒険者の討伐班もちらほら見ることができる。ギルマスは軍の誰かを話しているようだ。すると、彼が私を見つけ、こちらに来るように手招きしてきた。
「おはようございます、ファルスさん。」
「ああ、おはよう、ヒコサブロウ君。紹介しておこう。彼は今回の軍を率いるブロス隊長だ。彼とは幼馴染でね。昔から親交があるんだ。」
「初めまして、ブロス隊長。冒険者のヒコサブロウです。今日は宜しくお願い致します。」
「ああ、ブロスだ。今回は冒険者にも活躍してもらうから、よろしく頼む。君が『期待の新人』のヒコサブロウか。思った以上に若いな。ファルスから活躍は聞いているが、今回も期待させてもらうよ。」
「はい…。できる限りがんばります。」
自己紹介も程々に、全メンバーが集合し、城門前で整列された。冒険者の討伐班は全部で30名。一方でバシュラト軍は100名。騎士と魔法使いの混成部隊だ。今回の総指揮を執るブロス隊長が前に出る。
「これから我らはニーデ村とタルス村方面に向かい、グリーンキャタピラーの群れの討伐に向かう。昨日の報告から考えれば、奴らはすでに移動を開始しているかもしれない。くれぐれも油断なく、着実に殲滅していく。気合を入れていくぞっ!」
「「「「「はっ!」」」」」
「それでは出発!」
私たち討伐隊は、グリーンキャタピラー討伐のため、城門を抜けて出発した。
読んで下さり、ありがとうございました。