第11話:とりあえず、時が来たなら迎えればいいと考える。
投稿が遅くなって申し訳ありません。
定期的に投稿できるようにがんばります。
見張りの報告によれば、こちらに向かっているグリーンキャタピラーは、20から30匹程度。それ以外の動向はわからないとのことだった。
ニラードさんは、警告弾を放ち、タルス村方面の見張りに「緊急帰還」を指示した。また、待機班に2パーティーに対して、バシュラトへの報告を指示し、彼らはすぐに出発した。残った私はニラードさんのパーティーに編入して行動することになった。
「全員集合したら、すぐに撤退を開始する。討伐班が到着するまでは動いてほしくなかったが、こちらも疲労が溜まっている。この状況での戦闘は、最悪の場合『全滅』の可能性もある。そうなれば、この状況を報告することができなくなる。これは苦渋の決断だと理解してほしい。」
ニラードさんは、唇を噛みしめながら全員に告げた。
確かに彼の判断が正しい。少なくとも状況がわかれば、準備もできるだけ整えることができる。だけど…。
「ヒコサブロウもそれでいいか?納得していないのはわかるが…。」
「大丈夫です。私もその判断でいいと思いますが…。ただ…。このままグリーンキャタピラーを見逃せば、新たな被害が…。そう思うと、何とも言えない気持ちです。」
「まあ、お前の言うこともわかるし、俺も同じ気持ちだ…。いや、ここにいる全員が同じだ。」
ニラードさんの言葉に、すべての冒険者が目を閉じる。
「…すみませんでした。皆さんの気持ちも考えずに…。」
「いやいや、気にするな。」
「ニラード、殿は誰が務める?」
話が終わったのを見計らって、スナさんが確認してきた。
「もちろん、殿軍は俺たちのパーティーだな。スナ、マルク、すまんが頼む。」
斥候を得意とするスナさん、魔法使いのマルクさんが「仕方ねえな」的な笑みを浮かべて、ニラードさんに同意した。
「あの、ニラードさん。私もその殿軍に入れてもらってもいいですか。グリーンキャタピラーの討伐経験もありますし…。」
「本当なら冒険者になりたてのお前が務める役割でもないんだが…。こちらもその方が助かる。頼む。」
「はい。」
全員の動きを確認した後、すぐに撤退を開始した。物資は必要最低限しか携帯しない。そのはずだったが…、私にはストレージ付きの魔法鞄があるので、全て収納した。まわりの冒険者たちは驚いていた。
ニラードさんも「お前って、ほんとに…」いや、言わせませんよ。そのくだりは飽きました。
撤退を開始してから3時間程度が経っただろうか。
もともとグリーンキャタピラーが急に動き出したこともあり、私たちとの間隔は決して広くない。しかし、奴らは動き自体がそこまで早くないため、何とかなっているという感じだ。
ただ、休憩もままならないため、こちらの進行が次第に遅くなっていた。
そろそろ森を抜けて、少し開けた草原地帯に入る。これを抜ければ、バシュラトへ続く街道に出る。
「みんなー、とまれっ!ここで小休憩を取る。」
ニラードさんは、森を抜け、草原地帯を少し進んだところで休憩を告げた。これ以上は厳しいと判断したのだろう。
撤退中に何度かサーチを使ったが、グリーンキャタピラーはゆっくりと着実に、こちらとの距離を詰めている。しかもその数は150匹程度まで増えている。
いよいよ戦闘になるかもしれない。先行して、報告用の馬を走らせてはいるが、討伐班が都合よく戦闘前に合流することはないだろう。
「ニラードさん、これからどうしますか?」
ニラードさんも多少息を切らしている。マルクさんはそれ以上に辛いようだ。
「ああ。ここらへんが頃合いだな。ここでグループを分ける。分けるとはいっても、ほとんどは継続して撤退だ。俺たちとお前、それから一応有志を募って、奴らの足止めを試みる。ここが正念場だな。ヒコサブロウ、『期待の新人』のお手並み、見させてもらうとしよう。」
「ニラードさん、そのあだ名は…。いや、そのご期待に応えられるようにがんばります。」
しばらくして、ニラードさんはこれからの動きを説明した。メンバーの表情はどれもが晴れない。
足止めとして残ったのは、ニラードさんたちと私。そしてEランクパーティー1つだった。このメンバーは3人の女性から構成されたメンバーで、剣士・魔法使い・僧侶というバランスの取れた構成だ。名前は、それぞれエブリンさん、シャーロットさん、アメリアさんで、3人とも17歳。このまま自分たちだけ撤退はできないとの判断だった。
スナさんは、同じ女性ということもあり、「よろしくね」と笑顔で3人たちを迎えた。
―――――
天候は晴れ。時刻が正午過ぎ。これから気温が上がる時刻を迎える。
目前に広がる草原地帯だけを踏まえれば、今日は絶好のピクニック日和なんだろうが、私たちは不安と緊張に包まれていた。
サーチの結果を考慮すれば、そろそろグリーンキャタピラーがこの草原地帯に現れるだろう。その情報はすでにニラードさんに話している。今度はニラードさんだけではなく、魔法職のマルクさん、シャーロットさんも驚いていた。
特殊魔法は珍しい魔法であるため、あまり公言するものではないと思っていたが、いまは緊急事態だし。何か言われたら、その時考えればいい。そして「その時」は来てほしい。この戦いに生き残らない限り、「その時」は来ないのだから。
自分のレベルを考えれば、グリーンキャタピラー程度では問題ないと考えているが、この世界に来てからどうも心配性がひどくなったようだ。
こちらの世界は、命のやり取りが多いというか、その価値が低いと思う。小説の主人公みたいに、「俺にまかせてくれ!」とは簡単に言えないし、無双する気が起きない。ただ、命の賭け時だけは見失うことはしたくない。それに完全な自己満足だが、まわりから頼られたり、自分が貢献できると思える時は嬉しい。これからもそれを大切にしたいと思う。
森の方を見ると、その空には灰色の雲が広がっていて、こちらに流れてくるように見えた。そして、その雲は、ここにいる全員の不安を表している気がした。
―――――――
「ニラードさん!そろそろ来ます。準備して下さい。」
「おう、来るか。よしっ!全員配置に付け!」
こちらの作戦は簡単だ。目的はあくまで時間稼ぎ。戦闘を継続しながら撤退することが望ましいが、ニラードさんたちの表情からは、それを目的にはしていないようだ。ここで1分でも多く時間を稼ぎ、これからの被害を最小限にする。そして、その最小限の被害に自分たちが含まれていると考えている。だから、あのタイミングで、ここに留まることを決めた、エブリンさんたちはすごいと思った。
配置は単純で近接職が前に出る。メンバーはニラードさんとエブリンさん、そしてスナさんだった。スナさんは「これでも戦闘は得意なのよ。」と笑顔で語っていた。そんなスナさんに、ニラードさんは何も言わなかった。
後方には魔法職と支援職。つまり、彼ら以外の全員だ。但し、回復役であるアメリアさんと、それを護るシャーロットさんは最後方に位置しており、実質的に魔法攻撃を担うのはマルクさんと私だ。
ここにいるメンバーは、本当にいいメンバーだと思う。どこまでも冒険者としての役目を果たそうとしている。だからこそ、このまま命を散ってほしくないと思った。私はニラードさんに近付き、ある提案をした。
「ニラードさん、最初は魔法で相手を混乱させる作戦ですが、初撃は私に任せてもらえませんか?」
「それは構わないが…。なんか作戦でもあるのか。」
「いいえ。作戦というほど立派なものではありませんが、試してみたい魔法があります。私の予想では、一定の効力はあると思います。」
「そうか。ならヒコ…、『期待の新人』に任せる。」
「ニラードさん、別に無理してあだ名を言わなくてもいいんですよ…。」
緊張感のない会話になってしまったが、とりあえず提案が受け入れられて良かったと思う。
ふと空を見上げると、いつのまにか太陽は灰色の厚い雲に隠れてしまっていた。次に太陽が照らすしてくれるのは、どんな情景なのだろうか。
そんなことを考えた時、明らかな気配を感じた。
目の前には、曇りでもはっきりとわかる緑色。奴らがついに姿を現したのだった。
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