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第10話:とりあえず、もう少し我慢してよと思う時に限って、「時」は来る。

更新が遅くなってすみません。

 変わり果てたニーデ村を見た、ニラードさんの対応は素早かった。緑色の物体、グリーンキャタピラーの想像以上の数を見て、即座に撤退を決定した。まずはバシュラトへの迅速な報告を最優先としたのだ。


「この分だと、タルス村の方も楽観視できないな…。おそらくは…。」

 拠点まで撤退した時、ニラードさんは誰にというわけでもなく、そう呟いた。誰もその先は言わない。簡単に想像できるからだ。


「これからどうする?まずはバシュラトに報告する?」

 ニラードさんのパーティーメンバーであるスナさんは、確認の意味を含めて問いかける。


「そうだな…。急いでバシュラトまで戻るか…。」

「いえ、全員で戻るのはお勧めできません。」

「ヒコサブロウ、何か案があるか?」

「名案というわけではないですが、このグループを3つに分けましょう。」

 調査班の目的は、グリーンキャタピラーの調査であることに変わりないが、ここで全員撤退したら、その後の状況がわからなくなってしまう。したがって、3つに分けて行動することを提案した。つまり、①報告班、②調査班、そして③待機班だ。


 ①報告班は、バシュラトへの報告。

 ②調査班は、タルス村への調査。

 ③待機班は、拠点での待機。バシュラトへの緊急報告用。


 この提案について、ニラードさんは賛成してくれた。他のメンバーからも反対意見はなかったため、早速メンバーが各自振り分けられ、行動を開始した。私は待機班だ。ニーデ村を襲っているグリーンキャタピラーが、何かしらの行動を見せたら、バシュラトに報告する役目だ。ニーデ村の件は、すでに報告班が馬を走らせて、街へ向かっている。どれだけ急いでも1日以上はかかるだろう。


 一方、ニラードさんを始めとした3パーティーは、タルス村に向かった。時刻は正午を過ぎていたが、夜には帰って来られる距離だ。


 待機班は、取り急ぎやることはない。メンバーは、私以外ではEランクパーティー2つの計7名だけだ。とりあえず、ニーデ村と拠点の間に、見張りを置くことになった。見張りはメンバーを2つに分けて交代制とした。


 その後、何事もなく時間が過ぎていった。夜になり、タルス村に行っていた調査班が戻ってきた。彼らの表情は暗かった。やはりという感じがそれから読み取れた。


 「ニラードさん、お疲れ様です。それで、どうでしたか?」

 「ああ…。ひどいもんだ。ニーデ村と一緒だ。100匹以上のグリーンキャタピラーで、埋め尽くされていたよ…。」

 「…そうですか。ということは、2つの村で合わせて200匹以上のグリーンキャタピラーがいるということですか…。」

 「ああ、そうだな…。もしかしたら、それ以上かもしれんが。」


 結局、タルス村の件は、明朝バシュラトに報告することになった。夜の街道は安全とは言えない。

 その後、拠点、ニーデ村と拠点の間、そしてタルス村と拠点の間、計3か所にそれぞれ見張りを置いて、休める人から休憩に入った。


―――――


 ジャンとビルは南門の守備に就いていた。依頼続行となってから3回目の夜番だ。ただ、これといった情報がない以上、何もできない。調査班からの報告を待つしかない状況だった。頭では理解していても、ジャンは歯痒かった。ビルも口には出さないが、同じ気持ちだ。顔を見ればわかる。それなりに長い付き合いだ。


 調査班が帰ってくるのは、明日以降か…。そんなことを思っていた矢先、暗い街道に小さな光が見えた。目を凝らしてみると、こちらに近付いているのがわかる。衛兵もそれに気付いたようで、少し騒がしくなる。


 南門に現れたのは、馬に乗った3人だった。一人が光を灯して先導していたようだ。彼らが調査班のメンバーであることは、すぐに気付いた。


 ジャンとビルは、彼らが危険な夜の街道を駆けてきたことから考えれば、緊急事態であろうことは容易に想像できた。しかもそれは決して良い情報ではないということも…。


 彼らは衛兵に連れられて、街の中に入っていった。おそらくギルドに行くんだろう。

「なあ、ビル。お前どう思う?」

「…わからん。悪い情報なんだろう…。」

 ビルは話さないだけで、会話は問題ない。ただ必要以上に話さないだけだ。


「そうか、やっぱりお前もそう思うか…。ヒコサブロウ、大丈夫かな?」

 ビルは首を横に振って、わからないと仕草で表現するだけだった。


 夜はまだ長い。


―――――


 ギルド内は騒然としていた。

 調査班がこんな夜道を駆けて戻ってきたのだ。緊急事態だということは分かり切っていた。


「至急、ギルマスに報告を!」

「わかりました。こちらへどうぞ。」


 報告班の3名が、ギルマスとサブマスにニーデ村の件を報告した。調査班のその後の動きも含めてだ。


 ギルドは討伐班の派遣を決定した。それとともに、バシュラトを治める領主に討伐軍の派兵要請も決定した。討伐班の出発は明朝となり、支援班も含めて、ギルド内は急に慌ただしくなった。


―――――


 私とセレンは、夜明け前に目が覚めた。これから守備班の昼番に就く。依頼続行から4日目の朝を迎えた。ここ最近はあまり眠れていない。緊急依頼のせいもあるが、ヒコサブロウのことも心配だった。セレンもそうみたい。


 グリーンキャタピラーに襲われた時は、正直言って生きた心地はしなかった。ここで終わるのかな、と漫然として恐怖があっただけだった。何とかセレンだけでもと思ったけど、それも厳しいのはわかっていた。

 そこに現れたのが、ヒコサブロウだった。彼はあの群れに躊躇することなく、恐れることなく、立ち向かっていた。いや、立ち向かうというより、さも当たり前のようにそれらを討伐してしまった。私たちと同じFランクのはずなのに…。


 人柄も良く、まわりの冒険者と違って、とても落ち着いていた。言葉遣いも丁寧で、最近では親しみさも感じるような気がする。私よりも一つ年下だけど、お爺ちゃんと話している気さえしてしまう。サブマスが年齢を疑ったのも理解できる。

 ああいう人とパーティーを組めたらな…と少し思ってしまう。セレンもきっと同じ気持ちだろう。


 今日はセレンやアイラたちと一緒に、南門を守備する予定。宿を出て、歩いて向かう。途中でアイラ、ハーレと合流して、一緒に向かった。

 ギルド前を通った時、ギルド前がとても騒がしかったのが気になった。聞いてみようかも思ったけど、ジャンとビルも疲れているだろうから早く交代しないと、と思い直して南門に向かった。彼女たちも特に何も言わなかった。


 南門が見えた時、いつもと違うことに気付いた。ギルドに待機していた討伐班が、門に集合していた。嫌な予感しかしなかった。

 

「お姉ちゃん…。」

セレンは、それ以上言わなかった。


「何かあったのかしら…。」

アイラも不安そうに呟いた。隣にいるハーレは何も言わない。


 門に到着して、ジャンとビルを見つけた。むこうもこちらに気付いて、走って近付いてくる。


「おはよう…。」

「おはよう。何かあったの?」

「うん…。昨晩、調査班から報告が入って、ニーデ村で、グリーンキャタピラーの大量発生を確認したって…。」

「嘘…。それで村人たちは…?」

 セレンの声は震えていた気がする。私も事の重大さに固まってしまった。


「村は壊滅状態らしい。タルス村はまだわからないけど、おそらく、だって…。」

「「「「………。」」」」

 私たちは声が出なかった。


「…そうだ!ヒコサブロウは?」

「まだ現地で調査を継続しているみたい。調査班のメンバーは無事だって聞いた。」

「そう良かった。」

 私は胸を撫で下ろした。


「それで?これからどうなるの?」

 アイラも安心したのか、いつもの口調でジャンに質問する。


「ああ。見ての通りだよ。これから討伐班が向かう。ただ数が数だから…。ギルドからバシュラト軍の派兵要請も出したらしい。おそらく明日には軍も出発すると思うよ。」

「そう。調査班は帰ってくるの?」

「わからない。もしかしたら、一緒に討伐に参加するかもね。」


 6人とも何とも言えない感じだったが、とりあえず「できることをやろう」という結論に至り、守備に就いた。ジャンとビルは宿に戻った。


―――――


 ニーデ村とタルス村の惨状から2回目の朝を迎えた。依頼続行から4日目となる。予定よりも長い活動になったが、物資は1週間分を持ってきたので問題はない。昨日の朝には、報告班第2陣がバシュラトに向かった。少なくともニーデ村のことは、向こうも把握しているだろう。


 一方、こちらはずっと待機と見張りが続いている。今のところ、グリーンキャタピラーに動きはないようだ。


 200匹以上のグリーンキャタピラー。いくらEランクモンスターとは言っても、この数は脅威だった。そしてまだ確認できていないが、ポイズンモスの出現は防がなければならない。だが、いまはギルドの指示を待つしかできない。


「ヒコサブロウ、大丈夫か?」

「ええ。大丈夫です。ニラードさんは?」

「はっはっは。オレも一応Dランク冒険者だからな。こんな野営は慣れっこだ。だが、そろそろ疲れも見えてくる頃だな。早くギルドから何かしら指示があればいいんだけどな。」

「そうですね。ニラードさん、正直どう思います?」

「どうって、討伐できるかどうかか?」

「それもありますけど…。ポイズンモスのことも気になります。」

「そうだな…。何とも言えないな。というより、想像できないというのが正直なところだな。」

「そうですよね…。蛹を駆除することも考えれば、一刻も早くあいつらを何とかしないと。」


 気晴らしに話をしたつもりだったが、不安は拭い切れなかった。

 自分のレベルを考えれば、Eランクモンスターに苦戦するとは思えないが、世の中そんなうまくいくわけじゃない。これは長年生きてきた勘だ。まあいまは15歳だけど。


「油断大敵」


 日本で生きていた「むかし」と、冒険者を生業としている「いま」では、この言葉の重みが段違いだと思う。「いま」は現実的な意味での命が懸かっているからだ。

 自分のレベルや技能は関係ない。「死」というものは、厳然とそこにある。死神が自分の命を刈り取る可能性が、高いのか、もしくは低いのかという差があるだけだ。だから慎重にならざるを得ない。


 しかし、「そんなことばかり考えてもしょうがないな。」と思い直した。朝食の準備をしようかと、荷物を積んでいる馬車に向かおうとした、まさにその時だった。


「大変だっ!ニーデ村にいたグリーンキャタピラーが、この拠点に向かって来ている!」

 

 奴らは、時が来たことを私たちに告げるかのように、急に動き出したのだった。

読んで下さり、ありがとうございます。

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