第1話:とりあえず天寿は全うしたようです。
ここ1年以上、投稿をしておりませんでしたが、新しい話を書いてみました。
相変わらず文章含めて拙いかと思いますが、皆様の時間潰し程度になれば幸いです。
「ストレスを溜めたら、異世界に転属させられた。」も折を見て、投稿再開できればと
思いますので、併せて宜しくお願い致します。
何だかんだと言いながら、結局は幸せな人生だったと思っている。
平凡な家庭の次男として生まれて、優しい両親と頼りになる弟妹想いの兄さん、そしてかわいい妹に恵まれた。
普通に学校に行き、友達と一緒に勉強して、遊んで、下校して。「この娘がかわいい」「あの先生が嫌い」「この世から受験なんてなくなればいいのに」というような馬鹿な話をしていた学生時代。
大学では彼女ができ…なかったり、やはり…できなかったり。
卒業後はごく普通のサラリーマンとして働き、悩んだり、同僚と飲み明かしたり、結局終電を逃したり。
友人の紹介で出会った女性との初デートで告白。あとで彼女が「あれは告白というよりプロポーズだったよ。」と言っていたけど(笑)。
27歳で結婚して、翌年には女の子が生まれ、さらに30歳で男の子も生まれた。「一姫二太郎」とはよく言ったもんだ。
長女の反抗期、長男の不登校に…悩むようなイベントもなく、二人とも妻に似て、とても素直に育った。子供たちは、あっという間に成長して、長女は美容師、長男は教師として一人前の社会人として、私たちから巣立った。
長女の結婚式では、主役である新婦より大泣きして、妻と長男からはしばらくイジられた。長女が産んだ初孫にも「おじいちゃんは、お母さんよりも泣き虫なんだよね?」と言われ、みんなに大笑いされた。
それから何年が経っただろうか…。すでに自分の両親は他界し、兄さんと妹もすでに故人。実は、3人兄弟で結婚も子供も、私が一番早かったが、死ぬのは遅くなってしまった。4人の孫も社会人となり、すでに2人の曾孫もいる。
妻は、10年前から体調を崩すようになり、入退院を繰り返した。お互いに高齢だからと、長女の家族と一緒に住むようになった。多少の蓄えはあるから施設でもいいよ、と長女に言ったが、「親孝行がしたい」と言ってくれた。
おそらく、その時も泣いていたと思う。
妻は5年前に92歳で旅立った。最期にきれいな笑顔で「ありがとう。」と言って。
葬式ではやっぱり泣いた。95歳の高齢でもここまで泣けるのかと、あとで自分で自分に驚いてしまった。
今から1年前の秋に体調を崩して、人生で初めて入院した。まわりからは「初めてなんですか?」と驚かれたが。
半年前から寝たきりになり、人生の終わりがゆっくりと、そして確実に近づいていることが何となくわかった。最後のわがままということで、自分の家で「最期」を迎えることにした。医者をはじめ、誰も反対はしなかった。
そういえば、100歳を迎える程の高齢者なのに、語尾に「~だの。」や「~じゃ。」と付くことはなかったな。というより、小説やドラマみたいに、「~じゃ」みたいな語尾が勝手に付くわけがない。そうだ、この大発見を、向こうに行ったら妻に話してみよう。
100歳を迎えた日の朝、いつものように自分の布団で目覚める。そして自然と「今日で最期を迎える」と思った。
そして、子供、孫、曾孫に見守られながら、私、本田彦三郎の人生は終わりを迎えることになった。
―――――――――――
という自分の人生を振り返ったスライドショーを、私はとある部屋で見ていた。それはまるで、孫の披露宴に出席した時に観た、新郎新婦の紹介スライドショーのようだった。その時も、そして今も自身の頬は濡れていた。
そもそも気が付くと、そこには子供たちはおらず、壁一面が真っ白な小さい部屋で、真っ白な椅子に座っていた。恰好は最期に着ていた寝間着のままだ。直感的に自分は死んだのだと思った。死んだ人は、白装束の恰好で三途の川を渡る的なことを想像していたため、とりあえず六文銭は常に持っていた。とはいっても、5円玉6枚なんだけどね。
コン、コン。
ガタッ。自分の後ろにあるドアがノックされたことに少し驚きつつ、思わず「はいっ!」と返事をしてしまう。ちなみにドアは真っ黒だった。
「本田彦三郎さんですね。この度はご愁傷さまでした。それでは私に付いてきて下さい。」
白いワンピースを着た、デパートの受付嬢みたいな恰好をした女性がそう言って、私を大きなスライドがあるシアタールームみたいな場所に案内してくれた。
「ここでご自身のスライドショーを観て頂きながら、少しお待ち下さい。」と言われて、現在に至る。
…さて、暇だ。自分のスライドショーとは言われても、2回も観る気にはなれないし…。これから閻魔大王による審判とかあるのかな。やばい、少し緊張してきた。妻はおそらく天国にいるだろうから、私も天国で妻と再会したいな…。
コン、コン。
またもドアがノックされ、先程と同じ女性が入ってきて「こちらへどうぞ。」と案内してくれる。
「故人番号191022番、本田彦三郎さんをお連れしました。」
案内してくれた女性は、白い大きな扉の前でそう言うと、「本田彦三郎さん、どうぞお入り下さい。」と静かに言った。
言われるがままに、その扉を押すと白い光が目の前に現れ、思わず目を瞑ってしまう。そして気が付くと、壁があるのかもわからない、薄暗い空間にいることに気付いた。後ろを振り向くと、そこにあったはずの扉は無くなっていた。
「本田彦三郎さん、ようこそいらっしゃいました。まずはお疲れ様でした。」
目の前には、青のワンピースを着た、きれいな緑色の髪の毛をしたひとりの女性がいた。
―――――――――――
「本田彦三郎さん、もうおわかりかと存じますが、あなたはお亡くなりになりました。100年の人生を無事に終えられたのです。亡くなった方に対して、こう申し上げるのは如何なものかと思いますが、家族に見守られての素敵な最期だったかと思います。」
その女性は、微笑みながらそう言ってくれた。
やっぱり自分は死んだのか…。あまり実感はないけど、思った以上に落ち着いているな。
「ありがとうございます。自分で言うのもなんですが、それなりに幸せな人生だったと思います。それで、私はこれからどうなるのでしょうか。」
「彦三郎さんは、だいぶ落ち着いていらっしゃいますね。ここにいらっしゃる方は、やはり自分の死を素直に受け入られず、動揺する方が多いのですが…。まあ、亡くなった人の全てが、ここに来るわけではありませんが…。」
「さて、その話は置いといて、まずは自己紹介をさせて頂きます。私の名前は、『ミコト』。死者を案内する女神のひとりです。それでは、あなたの今後についてご説明致します。」
「あなたには3つの選択肢があります。
第1案として、この後に行われる審判を受けて頂き、天国もしくは地獄に送られること。
第2案として、あなたが生まれた場所、つまり日本に赤ん坊として生まれ、再び人生をやり直すこと。この場合、これまでの記憶は無くなり、生前の行いによって、生まれる環境は変わります。
ちなみに、あなたはこれまでの善行が認められ、天国行きが内定しております。したがって、審判も形式的なもので、天国での重要説明事項の説明を受けて頂くだけです。尚、天国でしばらく過ごして頂いた後に、日本で生まれ変わることも可能です。
そして、第3案として、これまでとは異なる世界に生まれ、人生をやり直すこと。この場合においては、赤ん坊からでも、成人からでもやり直すことが可能で、記憶も引き継がれます。これはあなたのような、今世で善行を積み、長寿を全うされた方へ贈られる、ギフト的な選択肢です。
さて、いかがでしょうか?何か質問はありますか?」
…そうか。とりあえず自分の情報処理が追い付かないけど、とりあえず「地獄行き」はないことに安心した。どの選択肢も悪いものではないように感じる。
「あの…、第1案と第2案は何となく理解できましたが、第3案の…その異なる世界に生まれ変わるというのは、俗に言う『異世界転生』という意味でしょうか?」
「そうです。よくご存じですね。そう言えば、あなたはラノベや漫画、ゲーム、アニメがお好きのようでしたね。お子さんやお孫さんのものもよく借りていたようで…。」
「何となく自分の黒歴史が暴露されている感じなので、その話題は勘弁してくれたら…。」
別に悪いことをしているわけではないけど、ほら、何となくね…。
「その異世界転生を希望した場合、成人からでも転生可能ということでしたが、実際には何歳ぐらいを指すのでしょうか。この年齢で転生されても老い先短いので、あまり意味がないと思うのですが…。それから異世界での言語とかは大丈夫なんでしょうか…。」
ちょっと心配になって、矢継ぎ早に質問してしまう。決して「異世界転生」に興奮しているのではないことは断言しておこう。
「そうですね。まずは転生時の年齢については、赤ん坊か成人の2択しかありません。ここで言う成人とは、転生先での成人年齢とされる15歳を指します。向こうの世界では、15歳から成人として認められ、結婚も可能です。それから言語については、『転生特典』として読み書きが可能になりますのでご安心下さい。」
「なるほど…。ますます『異世界転生』っぽいですね。」
「ふふふ。もしかして、少し興奮されてますか?」
「…してません。ちなみに向こうはどのような世界なのですか?」
「日本とは大分違う世界です。異なる点はいくつかありますが、最も大きな違いは、向こうには『魔法』が存在することです。」
「魔法ですかっ!?…あっ、いや、すみません。いきない大声をあげて…。」
「いえいえ。やっぱり興奮されてますよね?」
「いいえ、してま…まあ少し…。いえ、だいぶ…。すみません。」
「別に謝ることでは…。こちらも少しイジワルしてしまい、すみません。」
とりあえず落ち着こうと思い、深呼吸をする。
ミコトさんの方と言えば、何も言うことなく、こちらを微笑みながら見ている。その姿はとても女神ってる。
「さて、異世界のことは当然わからないことが多いと思いますので、希望者には転生前の準備期間を設けることが可能です。先程も申し上げたように、向こうには魔法も存在しますし、日本とは違い、猛獣やモンスター、亜人のような生物もいます。
その点からも最低限の護身術はあった方が良いと思います。また、成人での転生をされる場合は、基本的な能力を付与することになっていますが、その活用方法等を学ぶ期間としてもお勧めです。
尚、今なら追加特典として講師も付きます。いかがですか?」
なるほど…。異世界への転生もおもしろそうだな。特典も魅力的に感じるし。ただな…。
「ちなみに天国行きを選択した場合、妻には会えるのでしょうか?」
もう一度でいいから、妻に会いたいという気持ちもある。
「申し訳ありません。たとえ親族だとしても、他人の行き先は教えることは、規定で禁止されていますので申し上げられません。可能性は0ではありませんが、その方がすでに転生されている可能性もあるので、何とも…。」
申し訳なさそうに、ミコトは答えてくれた。
そうか、会えるかはわからないか…。まあ未練というものかな。
「さて、どれを選択されますか?重要なことですので、ゆっくり考えて頂いて結構です。」
「いえ、もう決めました。その異世界とやらで新たな人生を送りたいと思います。」
「…そうですか。わかりました。ちなみに転生前の準備は希望されますか?」
「その準備に充てられる期間はどのぐらいあるのですか。」
「規定ではその人が今世で生きた年数が最大期間となります。したがって、あなたの場合は、最大100年間まで準備可能です。まあ、そんな長期間を準備に充てる人はいませんが…「じゃあ100年で。」…そうですよね。やはり早く転生を…、ひゃく…えーっ!100年ですか!?」
ミコトさんは、決して女神っぽくない大きな声で叫んだ。
うん、よく通る声だ。
読んで下さり、ありがとうございます。